By SCP編集部 in ツーリズムデータ | 各国のインバウンドの違い
近年、日本のインバウンド市場において欧米豪圏は重要なターゲットとして位置づけられています。
なかでもオーストラリアは、訪日観光客数において毎年高い成長を続けており、長い滞在期間や高い支出額といった傾向から、特に重要なターゲットとなっています。
また、イギリスはヨーロッパ圏で最も訪日観光客数が多く、伸び率は毎年10%前後と好調です。今年(2019年)春には関西国際空港とロンドン・ヒースロー空港を結ぶ直行便の就航が予定されていることから、より一層訪日観光客数の伸びが期待されるでしょう。
インバウンド事業の有力なターゲット国であり、国同士が深い関係にあるオーストラリアとイギリスですが、訪日観光客の興味や行動傾向には違いが多数あります。そのため、それぞれの国の特性を理解したうえで、効果的なプロモーションを実施することが重要です。
そこで、本記事ではインバウンド事業の展開を検討するうえで有益かつ重要なデータとして、訪日旅行に関する情報をもとに訪日オーストラリア人と訪日イギリス人の旅行動向を比較していきます。
訪日観光客数の推移
初めに、訪日オーストラリア人と訪日イギリス人のそれぞれの観光客数の推移を見ていきます。
2012年〜2017年の推移
オーストラリア、イギリスともに訪日観光客数は大きく伸びており、2017年の訪日オーストラリア観光客は44.6万人、訪日イギリス観光客は23.4万人でした。
中国や韓国などアジア諸国と比べるとまだ少ない訪日観光客数ですが、どちらの国も毎年高い伸び率を見せていることは注目に値し、今後さらなる観光客増が期待されています。
また、オーストラリア人とイギリス人はともに日本に長期滞在する傾向があり(詳細後述)、観光客数以上にインバウンド事業に与えるインパクトは大きいといえます。
月ごとの観光客数
次に、月ごとの訪日観光客数を比較します。
訪日イギリス人数は、月による大きな増減はほぼありませんが、訪日オーストラリア人は主に1月、4月、12月に大きく伸びています。
これは、ウインタースポーツや桜など観光資源がオーストラリア人に人気であることや、12月と1月はオーストラリアのスクールホリデーの時期にあたることが理由と考えられます。
一方、イギリスのスクールホリデーは8月ですが訪日観光客数はさほど増えておらず、訪日オーストラリア人数も7、8月は落ちています。そのため、今後は日本の夏の魅力をもっと大々的に発信していくことが必要です。
性別比較
続いて、性別ごとの割合を比較しました。
出典:国土交通省「訪日外国人消費動向調査Ⅱ 平成 29 年における訪日外国人の消費動向 【国籍・地域別】」
男女比はオーストラリア、イギリスともに大きな違いはなく、どちらも男性の訪日観光客数が女性よりも多いことが分かります。
年代比較
そして、年代ごとの比較です。
出典:国土交通省「訪日外国人消費動向調査 平成 29 年における訪日外国人の消費動向 【国籍・地域別】」
訪日オーストラリア人は20代前後の若い層が圧倒的に多く、年齢層が高くなるにつれ、訪日する割合が減っていく傾向にあります。
一方、訪日イギリス人は30代が最も多いですが、20代から50代を中心に年齢層は大きく分散しています。
プロモーションを実施する際には、この年齢層の違いに留意し、それぞれの年代に響く効果的なプロモーション展開が必要です。特に若年層が多いオーストリア市場に対しては、若者たちが利用するSNSや動画を駆使したアピールが有効だと考えられます。
訪日旅行者の消費動向
ここでは、訪日オーストラリア人と訪日イギリス人の行動を見ていきます。
訪日旅行での滞在期間
両国とも訪日への渡航に費用や時間がかかるため、日本での滞在期間が長く、9割近くのオーストラリア人、イギリス人が1週間以上日本に滞在しています。
長期滞在にあたり、オーストラリア人やイギリス人は複数の都市を訪れることも多く、地方にとっても魅力的なターゲットです。
訪日旅行における滞在期間中の消費額
出典:国土交通省「訪日外国人消費動向調査 平成 29 年における訪日外国人の消費動向 【国籍・地域別】」
滞在中の消費額では、オーストラリア、イギリスともに消費額は高く、全体と比べて一人当たり5万円以上もの金額を使っています。
どちらも滞在期間が長いことから、宿泊料金や飲食費に費用をかけていることが特徴です。
買い物に費やす金額は全体と比べて少なく、アジア圏からの旅行者にみられるような爆買い傾向はありません。このことから、オーストラリアとイギリスの訪日旅行者は、モノではなく、日本らしい体験やホスピタリティといったコト消費を重視する傾向があるといえます。
訪日旅行における日本での目的地
オーストラリアとイギリスともに、東京を中心とする関東エリア、大阪や京都、奈良などの近畿エリアといった、いわゆるゴールデンルート沿いの地域が人気の目的地となっています。
しかし、オーストラリアでは北海道も人気のデスティネーションであり、パウダースノーでのスキーやスノーボードなどスノースポーツを満喫しに訪日するオーストラリア人が多数います。
一方、イギリス人は北海道にそれほど注目していません。イギリスのスノースポーツ愛好家は、訪日しなくても近隣国であるフランス、イタリア、オーストリアといったアルプス山脈周辺の国々でスノースポーツを楽しめるからです。
参考:国土交通省「海外スキー市場に関するデータ整理 」平成30年6月1日
訪日旅行の同行者
では、オーストラリアとイギリスそれぞれの訪日旅行スタイルはどんな違いがあるのでしょうか。
出典:DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(平成28年版)
訪日旅行の同行者においては、オーストラリアでは、配偶者や恋人といったカップルで訪日することが最も多く、次に友人、そして子どもの順になっています。全体として、グループ旅行が約85%を占めることから、みんなで日本を楽しんでいることがうかがえます。
一方、イギリスではオーストラリアに比べ、一人旅として訪日する人が全体の30%以上。単独での訪日旅行を満喫しているようです。
訪日旅行のスタイル
出典:DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(平成28年版)
オーストラリアとイギリス、どちらの国も訪日旅行のスタイルは、7割以上が団体ツアーではなくガイドなしのツアーや個人旅行を選択しています。
つまり、興味のある目的地や体験を自分で選びたい!と考えている人が大勢いるということです。
そのため、個々の宿泊施設や体験ごとに独自の魅力をしっかりとアピールしていくことがキーとなります。
訪日旅行に関する情報収集
次に、両国の訪日客がどのように情報を集めているかを比較しました。
日本旅行前にどこで情報収集をしたか | ||
オーストラリア | イギリス | |
1位 | 旅行ガイドブック(37%) | 旅行ガイドブック(39%) |
2位 | 口コミサイト(35%) | 口コミサイト(37%) |
3位 | 旅行会社のウェブサイト(28%) | 自治体、観光協会などの地域の公式ウェブサイト(33%) |
4位 | 日本政府観光局、観光庁のウェブサイト(27%) | 日本政府観光局、観光庁のウェブサイト(28%) |
5位 | 自治体、観光協会などの地域の公式ウェブサイト(24%) | 旅行会社のウェブサイト(19%) 母国にいる家族・知人(19%) |
出典:DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(平成28年版)
日本旅行前の情報収集では、オーストラリア人もイギリス人も、旅行ガイドブックや口コミサイトが定番となっています。
日本旅行中にどのように情報収集をしたか |
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オーストラリア | イギリス | |
1位 | ホテル・旅館の従業員、店のスタッフ(32%) | 無料パンフレット(30%) |
2位 | 観光案内所(31%) | 日本では情報収集しなかった(26%) |
3位 | 旅行ガイドブック(30%) | ホテル・旅館の従業員、店のスタッフ(21%) |
4位 | 無料パンフレット(24%) | 旅行ガイドブック(19%) |
5位 | 口コミサイト(19%) | 日本政府観光局、観光庁のHP(16%) 観光案内所(16%) |
出典:DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(平成28年版)
日本滞在中の情報収集においては、両国で違いがあり、オーストラリアのトップは宿泊先や店のスタッフ、観光案内所など直接人にたずねるスタイルでの情報収集でした。
これにより、オーストラリアへのインバウンド事業を検討、推進する地域や企業は、英語が話せるスタッフや英語のパンフレットなどを用意するなど、オーストラリア人のフレンドリーなコミュニケーションに対応できる体制を整えることが求められます。このような配慮は、訪日オーストラリア人の満足度アップやリピーター増につながるでしょう。
一方イギリスでは、人とのコミュニケーションというより、パンフレットなどでの情報収集や訪日中は情報収集をしないという層が存在しました。
訪日旅行に対する意識
最後に、オーストラリア人とイギリス人の訪日観光に対しての意識の違いをみていきましょう。
訪日旅行に対する期待
日本旅行で行ってみたい観光地 |
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オーストラリア | イギリス | |
1位 | 富士山(68%) | 城(70%) |
2位 | 城(66%) | 富士山(66%) |
3位 | 桜(62%) | 神社仏閣(61%) |
4位 | 新幹線(61%) | 日本庭園(60%) |
5位 | 日本庭園(59%) | 日本的な街並み(58%) |
出典:DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(平成28年版)
日本旅行で訪れたいと考えている場所は、両国とも、日本を象徴するような存在の「城」と「富士山」が1位、2位を占めています。
また、オーストラリアでは「桜」や「日本庭園」、イギリスでは「神社仏閣」や「日本的な街並み」が、訪れたい場所として上位にランクインし、オーストラリア人もイギリス人も日本の風情を楽しみたいことがうかがえます。
日本旅行で体験したいこと |
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オーストラリア | イギリス | |
1位 | 伝統的日本料理を食べる(75%) | 伝統的日本料理を食べる(66%) |
2位 | 桜の鑑賞(68%) | 史跡や歴史的建築物の見物(64%) 世界遺産の見物(64%) |
3位 | 現地の人の普段の食事を食べる(66%) | 現地の人の普段の食事を食べる(61%) |
4位 | 自然や風景の見物(62%) | 自然や風景の見物(57%) |
5位 | 新幹線に乗る(58%) | 桜の鑑賞(53%) |
出典: DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(平成28年版)
訪日旅行で体験したいことは、伝統的日本料理や日本人の普段の食事など「食」に関することが人気です。
国別では、オーストラリア人は「桜の鑑賞」「自然、風景の見物」、イギリス人は「史跡や歴史的建築物、世界遺産の観光」に興味関心があります。
要するに、オーストラリア人は日本ならではの自然を、イギリス人は日本の歴史や文化を味わいたいと考えているのです。
訪日旅行に対する不安点
日本旅行への不安材料 |
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オーストラリア | イギリス | |
1位 | 言葉が通じるか不安(42%) | 言葉が通じるか不安(46%) |
2位 | 滞在費が高い(36%) | 渡航費用が高い(43%) |
3位 | 渡航費用が高い(27%) | 滞在費が高い(34%) |
4位 | 地震(19%) | 日本に行くまで時間がかかる(24%) |
5位 | 放射能による健康被害(18%) | 公共交通機関の使い方が分からない(19%) |
出典:DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(平成28年版)
訪日した際の不安点としては、オーストラリア人もイギリス人も、言葉や費用について心配しているようです。
また、オーストラリアでは地震や放射能による健康被害など、東日本大震災に関連した不安を感じる人が多く、イギリスでは渡航時間の長さや公共交通機関の複雑さへの不安も上位にランクされました。
これらの不安点に注意を怠り放置することは、オーストラリア人やイギリス人が日本旅行を躊躇する理由のひとつになるかもしれません。そのため、費用や安全性、アクセスについて丁寧な情報発信を心がけ、タビマエの不安を解消していくことも訪日観光客を増やす重要な課題といえます。
まとめ
オーストラリアとイギリスの訪日観光客に関するデータを比べたところ、
• オーストラリア、イギリスともに訪日観光客数は大きく伸びており、一人当たりの消費金額も大きいため、インバウンド事業にとって両国は魅力的なターゲットである。
• オーストラリアとイギリスの訪日観光客に共通している部分もあるが、年齢層、目的地、旅行スタイルなどに違いが多くみられる。
• インバウンド事業を成功させるためには、国ごとの特徴を理解したうえで、各ターゲットの特性に合わせた効果的なプロモーションを実施することが重要である。
以上、この3点が押さえておきたいポイントとして挙げられました。
イギリスとオーストラリアは、今後、インバウンド事業において大きな成長が見込まれるターゲット国です。この2国の市場を理解し、効果的な訪日キャンペーンを実施していくことが、インバウンド事業のさらなる発展に大きな貢献となるでしょう。
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