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インバウンドを読む#02 Tourism Garden 代表 アリソン・ロバーツ・ブラウン

By SCP編集部 in インタビュー/インバウンドを読む

毎年、訪日外国客数が増加する日本において、インバウンドは旬の事業。なかでも、「長期滞在」「高い支出額」という旅行動向が特徴として認知されつつあるオーストラリアをインバウンドターゲットとする企業や自治体が増えています。

近隣のアジア諸国にプロモーションを仕掛けてきた日本にとって、オーストラリアは未開の地。どういったプロモーションを実施すればいいのか、どうやってオーストラリア企業とコンタクトしたらいいのかなど、疑問や不明点は尽きません。

そこで、今回はシドニーにて京都をはじめ、世界の都市の観光レップを務める観光マーケティングのプロ、Tourism Garden Pty Ltd(ツーリズムガーデン)」代表のアリソン・ロバーツ・ブラウンさんにお話を伺いました。

オーストラリア人であるアリソンさんは、オーストラリアはもとより、イギリスやパリなどの旅行業界の広報・マーケティング業務に28年以上従事し、そのうち17年間は日本で活動を展開していた経験を持つ方です。日本とオーストラリア両国のみならず、世界の観光事情に精通している彼女の眼に映る日本の“インバウンド”に迫ります。

― アリソンさんの会社「Tourism Garden Pty Ltd(ツーリズムガーデン)」について教えてください。

当社は、オーストラリアに拠点を構え、世界の観光都市をオーストラリアやニュージーランドにプロモーションするレップ(Representive;代理)です。その国や地域の要望に合わせた、さまざまなマーケティングプランを構築しプロモーションを展開しています。

日本の都市では、京都市、木曽おんたけ、城崎温泉、豊岡市のプロモーションを手がけています。17年間お世話になった大好きな日本に恩返しできる喜びでいっぱいです。今オーストラリアは、世界の観光業界から注目されている国ですので、たくさんのオーストラリア人を訪日させたいと考えています。

― オーストラリア人が世界の観光業界から注目されているのはなぜですか?

日本でも話題になってきていますが、オーストラリア人の旅行傾向は「長期滞在」と「高い支出額」です。特に支出額の高さはサウジアラビアの次、世界で2番目ですから、どの国もオーストラリア人に訪れてほしいと望んでいます

また、オーストラリア人は頻繁に旅行することでも有名です。その数は年々増え続け、私がオーストラリアに戻った12年前と比べて、今は倍以上になっています。さらに、フレンドリーな気質ですから、旅先で不平や不満などを言う人も少なく、観光業界にとっては、いいお客様なのです。

こうしたことから、オーストラリアはとても魅力的なマーケットと言うことができます。アイスランドからアフリカまで予算のある国や地域は、オーストラリアにプロモーションをかけようとさまざまな施策を働きかけている現状。そのため、プロモーションを効果的に実施する必要があるのです。

― 競合の国や地域に劣らないインバウンドプロモーションを検討するために、オーストラリア人が日本に求めていることを教えてください。

訪日するオーストラリア人は教養が高かったり、自分磨きに熱心な方が多く、日本のユニークさに興味津々です。“これぞまさに日本!”といった日本らしさを体験することを希望しています。つまり、ゆったりとくつろぎ、バカンスを楽しむ観光客ではありません。

彼らは日本の食、文化、歴史にとらわれず、ポップカルチャーやテクノロジー、ファッション、建築までにも興味を持っています。日本の建築物を巡るツアー商品も打ち出されているほどです。

― こういった内容を踏まえた訪日インバウンドの事例を教えてください。

では、当社がプロモーションする京都市の施策をご説明しますね。京都市は世界でも有名な日本の観光地ですから、日本の食や文化、歴史を堪能できるのは当然ですが、それ以外の体験要素として、伝統工芸があります。

京都に多数存在する職人の工房やアトリエに訪れ、多彩な工芸品づくりの見学や体験、ショッピングを楽しめます。その予約をできるサイトが「京都工房コンシェルジュ」。京都市に点在する各工房を紹介しアポイントを取ることができるようになっています。

日本文化を実際に体験できるので、訪日オーストラリア人にも大人気です。作品の購入にもつながり、商品の流通知人や友人にも話題が広まるなど、派生したプロモーション効果も期待できます。

京都工房コンシェルジュ 英語ウェブサイト京都工房コンシェルジュ 日本語ウェブサイト

また、オーストラリア人には旅館も人気です。この宿泊スタイルをぜひ体験したいと思っているのですが、くつろぎ方が分かりません。そのため、旅館のチェックインからチェックアウトまでの方法が書かれたパンフレットを作成。これで旅館のプロモーションを実施しています。

 

 

― 昨今、京都のような有名観光地では「観光公害」が取りざたされていますが、どのようなインバウンドプロモーションや対策が講じられていますか?

今や世界中でバズワード化しているオーバーツーリズム(観光地が耐えられる以上に観光客が押し寄せいている状態)」は、京都に限った話ではありません。人数制限をかける、高額支出のお客様のみを受け入れるなど方法はさまざまありますが、京都市では対策のひとつに今年(2018年)10月1日から宿泊税を導入しました。

税金からの資金は、混雑していない時間に開催されるツアーのプロモーションや、旅行者がスーツケースを持ち運ばなくてすむような宅配システムの導入などに充てられます。これらは、訪問者が京都でより豊かな時間を過ごしてもらうためのプロジェクトです。

京都市:宿泊税について

また、京都市はラグジュアリーさと素晴らしき数々の遺産に誇りを持っているので、京都ブランドを大切にしようとしています。そこで作成されたパンフレットは「京都のあきまへん」。京都に来たらやってはいけない事柄が記載されており、オーストラリア人の興味を十分にそそる内容になっています。

 

さらに、「夏と冬の京都へ」といったプロモーション展開も実施。例えば、夏ならの川床料理を、冬ならスノーリゾートを満喫したあとに京都ステイといった企画などです。オーストラリア人は暑さにも慣れていますし、寒さも問題ありません。雪には大喜びしてしまうほどですからね。

そして、京都の穴場的な場所へオーストラリア人を呼ぶプロモーションも仕掛けています。京北町でのファームステイなどはその代表例です。オーストラリア人が求める日本らしさを体験でき、メイン観光スポットを外しても日本を楽しめる絶好の訪日旅行なのです。

私は、日本の旅行商品が東京、京都、広島といったゴールデンルート、しかも決まったスポットのみの商品が多いことを残念に思っています。各地域にはそれぞれの魅力が満載ですので、プロモーションしないのはもったいないですね。

― では、京都などと違い、オーストラリアで認知度の低い地域のインバウンドのプロモーションでは、どのようなことをすればいいでしょうか?

検討していただきたいポイントは、その場所でどのような経験ができるか、どのような宿泊施設があるかです。

まずは事例をあげましょう。当社が手がける城崎温泉のプロモーションは、たいへん素晴らしいケーススタディです。城崎温泉は、まさに日本の温泉タウン。町自体がひとつのリゾート地区になっています。駅前のインフォメーションセンターで城崎温泉の概要を説明し、町の中にある7つの公共温泉に一日入り放題の外湯めぐり券を販売します。

そして、旅館にチェックインしたら、好きな浴衣と帯を選んで着せ方を教えてもらい自分で着用。そして、下駄を履いて町中をコロンコロンと歩き、温泉を巡って楽しみます。ごく自然な流れに沿って、日本らしさを体験できるのです

Visit Kinosaki

また、木曽おんたけ観光局の冊子とプロモーションビデオも良い例です。グラフィックデザインと内容は、日本人目線から逸して外国人に好まれるデザインやコンテンツです。非常に分かりやすく、2泊3日や3泊4日のプランまで掲載され、旅行のイメージを膨らませやすくしています。

木曽おんたけ冊子(写真左下)

木曾おんたけ観光局

こうした商品は、完成までの段階がとても大切です。そのステップは、ホールセラーのプロダクトマネージャーを自分たちの地域に招待し、あらゆる魅力をすべて見せ、商品づくりのミーティングを開催。そして、実際の商品をつくる予算を立てることです。

招待者は、オーストラリア市場に熟知している人、つまりメディアやホールセラーですが、その仲介役である当社のようなレップ会社やプロモーション会社も有効です。

このような経緯で、素晴らしい日本の“体験”が商品の一部として生み出されます。木曾おんたけのお箸つくりそば打ち体験、城崎温泉の座禅体験は、オーストラリアを含むさまざまな海外市場で知られるようになり、旅行商品に取り入れられ、一般消費者にも知らされていくのです

― オーストラリア市場に熟知した方々を招待するメリットはほかにもありますか?

もちろん、ありますよ。オーストラリアでのインバウンドプロモーションは、内容ではなく“見せ方”が重要です。

オーストラリアで開催される旅行商談会やセミナーにインバウンド事業の団体が参加するとしたら、英語表記のパンフレットを持参するでしょう。

しかし、それは日本のマーケット用に作成されたものの英訳のため、その地域を初めて知るオーストラリア人には情報が多すぎます。また、こうした会には市場をよく知るエキスパートのホールセラーもいるため、この両極端のオーストラリア企業に同じパンフレットで説明するのはナンセンスです。

オーストラリアの旅行会社は日本の知識に関して幅があるため、商談相手によってプレゼンテーションを組み立てるのがベスト。そのためには、どういった商品をどのような企業に売っていくかなどを事前に検討しておくべきです。

現地にあるレップ会社やプロモーション会社に相談することで確実なプレゼンテーションができます。

加えて、インバウンドプロモーションの展開には、オーストラリアの旅行会社の特色を理解することがカギとなります。しかし、これは異国の人にはハードルが高いでしょう。

オーストラリアの旅行業界にはスペシャリストホールセラー、ジェネラリストホールセラー、リテイラーという形態の企業があります。その中でもさまざまな枝分かれがあり、売りたい商品がどの企業にマッチするかを見極めることは、オーストラリアの旅行業界を熟知しなければなりません

しかし、こうした細かな事情を知り尽くしたうえで、商品づくりやプレゼンテーション作成をすることがプロモーションの成功への道なのです。

― そうすると、オーストラリアへのインバウンドプロモーション予算はどのように見積るといいのでしょうか?

日本のインバウンドはアジア圏へのプロモーションが多いと思いますが、国が違えば予算も変わってきます。また、到達したい最終結果によっても予算は違います

一般的に、インバウンドのプロモーション予算としては以下の項目を検討するといいでしょう。

  • 旅行業界やメディアのファムトリップ費用
  • 商品が完成してからのプロモーション費用
  • オーストラリア現地での広報活動費用(旅行業界向け、一般消費者向け)

限られた予算ですから、県や市町村同士がパートナーシップを組めば合算して大きな予算ができます。ただし、それぞれの地域のキャパシティも違うことから、結果は同じようには生まれません。これは、国内でのプロモーションでも同様です。

また、予算と同時に期間の見積りも忘れてはなりません。インバウンドプロモーションには最低2~3年をみてほしいですね

長期滞在かつ高額支出のオーストラリアは、売れる商品をつくって的確なプロモーションを実施するといった投資で、結果が生じる国です。投資しなければ、ほかの国にオーストラリア人が流れていくでしょう。

― オーストラリアでの訪日インバウンドのプロモーションにおいて、ポイントとなるのが英語だと思いますが、いかがでしょう?

商談においては英語が話せないと厳しいですね。通訳を雇えばいいのではと思うでしょうが、その質が問われます。

以前、日本語が話せない外国人を連れて日本で営業したときに、私は通訳者というより、その外国人に代わって商談を進める役目でした。旅行業界を知らない通訳者を雇うと、会話が噛み合わないことも多々あります。これでは、せっかくオーストラリアまで来たのにもったいないですよね。

また、英語の問題によりオーストラリアの日系企業だけとコンタクトして帰るインバウンド事業者もいますが、オーストラリア人に売れる可能性を持つ商品はオーストラリア企業にも紹介してもらいたいです。レップ会社やプロモーション会社に問い合わせしてみるといいでしょう。

逆に、商品としたい観光地において、英語対応が難しいためにオーストラリア人を呼べないと思わないでください。もちろん、高額な宿泊料金のホテルや旅館においては、その金額に見合うサービスとして英語対応は必要でしょうが、そうでないなら、ハートを通わせるだけで十分です

何かの方法やルールなどは、あらかじめパンフレットなどを用意し、「ここを読んでね」という気持ちを込めて指差すだけでもオーストラリア人観光客には伝わります。現代では、通訳機器もありますからね。オーストラリア人は、訪日先で言葉が通じなかったとしても、それがひとつの経験として捉えるので安心してください。

― 日本人がオーストラリア人に訪日プロモーションする際に気をつける点はありますか?

オーストラリア企業の皆さんは忙しいため、挨拶や商談のアポイントを取ることが非常にむずかしい。そのため、当社ではアポイントをとり訪問するときに、複数の商品を持っていくようにしています。

持参する商品のプレゼンテーションは、短い時間内で訴求できるような、訪問先用にテーラーメイドされた内容が好ましいです。レップ会社やプロモーション会社に相談するといいでしょう。

また、日本の旅行パッケージの広告には、「桜や紅葉と舞妓さん」「伏見稲荷大社の鳥居の中に浴衣を着た美しい女性」「人がいない嵐山の竹林」などがあります。これらは、実際のイメージと違うこともあり、オーストラリア人観光客の期待を裏切ってしまいます。

よく見せるのではなく、ありのままの日本を知らせることが大切です。日本人が生活するのと同じように、訪日先で生活したいと考えているのがオーストラリア人。そうしたプランは人気が高く、特にリピーターづくりにも効果を発揮します。

― オーストラリア人へ向けたインバウンド事業を試みようとしている企業や自治体にアドバイスをお願いします。

私が最も伝えたいのは、日本は“日本らしさ”にもっと自信を持ったほうがいいこと。オーストラリア人が何を求めているかということを探ることも必要ですが、我々の地域はこんな魅力があります!」と自信を持ってオーストラリア人に紹介したほうが、オーストラリア人に響きます

最近のオーストラリアの旅行会社は日本へ旅先を増やしています。これは、日本のさまざまな場所に行ってみたいというオーストラリア人のニーズからです。大都市や有名な観光場所だけではなく、ごく一般的な日本を味わってみたいというオーストラリア人の気持ちの現れです。

2020年には東京オリンピックが開催され、多くのオーストラリア人が訪日するでしょう。今、新しい商品をつくれば、その頃までにニーズに合った商品を掲げてオーストラリア人を迎え入れることができます。だからこそ、プロモーションは今がチャンスなのです。

オーストラリア人に訪日したい夢を持たせるような商品づくりに、私たちも寄与します。

Alison Roberts-Brown(アリソン・ロバーツ・ブラウン)
Tourism Garden Pty Ltd (ツーリズム・ガーデン)設立者。イギリスやパリの観光事業に携わり、日本市場における海外の高級ホテルの広報およびマーケティングをジェネラルマネージャーとして担当。その後、日本にて多数の政府観光案内所および観光旅行業務駐在員事務所などを代表取締役副社長として運営し、現在は日本の観光地のほか、モナコ政府観光会議局のレップ、インドネシア共和国観光省のコンサルティングなどを手がける。

取材:茂木 宏美、浜登 夏海

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オーストラリア国内にて様々なマーケティング分野で仕事経験を積み上げてきた私たちが、日豪の文化・市場の特性を理解した現地に密着しているからできる効果的なプロモーションを提供いたします。
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