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インバウンドを読む#05 元ラグビーオーストラリア代表 ニック・ファー=ジョーンズ

By SCP編集部 in インバウンドを読む(インタビュー)

 

訪日者数が例年伸び、インバウンド需要が高まる日本。今年9月から開催されるラグビーワールドカップ2019で、さらなる訪日者数の伸びが見込まれています。

特にラグビー大国であるオーストラリアからの訪日者は観光客の大きな割合を占めると予想され、日本に興味がなかったオーストラリア人もこの機に日本旅行を計画している人は大勢います。まさに、日本の魅力をPRできるまたとないチャンスがまもなく到来します。

そんなラグビー熱が高まる日本の皆さんに旬の話題として、前回はクレイグ・ウィングス氏のインタビューをお届けしました。それに引き続き、今回は元ラグビーオーストラリア代表チームのキャプテンであり、名プレイヤーだったニック・ファー=ジョーンズ氏に登場いただきます!

ニック氏はインタビューで、今年の日本ラグビーワールドカップについての大胆な予測や、日本が開催国に選ばれたことがラグビー界に及ぼす影響、そしてワラビーズ(オーストラリア代表)に対して望むことなどを熱く語ってくれました。

2005年に行われたメディアインタビュー時に「ラグビーを普及させることを真剣に考えるとすると、それは日本でワールドカップが開催される時だろうね」と仰っていましたが、開催国の候補地として日本のどのような点が魅力的だったのでしょうか?

僕は当時日本のラグビーワールドカップ招致のアンバサダーで、次の開催国は日本になるだろうと信じていました。理由はさまざまです。

主要な他のラグビーユニオン強豪国はすでにラグビーカップを開催しています。最初のラグビーワールドカップは1987年にオーストラリアとニュージーランドの二カ国で開催され、その次はイギリスのロンドン。第3回目は南アフリカで、第4回目はウェールズが主体となって再びイギリスで開催されました。第5回目となる2003年はオーストラリア、第6回目はフランス、第7回目の2011年はニュージーランドでの開催だったので、彼らは十分にワールドカップを開催してきたと思います。

日本にはラグビーワールドカップを開催出来る理由がたくさんありますが、まず挙げるとすると、日本のインフラは素晴らしく整っているということですね。交通機関やホテル、ワールドカップのような大きなイベントを開催できるスタジアムなど、開催国として必要な施設は全て揃っています。2011年のニュージーランドではインフラがそこまで整っていない場所が多く、人口もそれほど多くはないことから、たぶん開催時はかなり奮闘したんじゃないかな。

ラグビーワールドカップは開催されるごとに規模を拡大しているから、日本の素晴らしい交通機関とインフラ整備の強みが、開催国に選ばれる最大の理由だと感じましたね。

もう一つの理由としては、日本のスポンサー企業がオーストラリアとニュージーランドに11時間もかけて開会式に出向くほどの気持ちがあったからです。こうした熱意を考えると、日本は開催国として十分に相応しいと思います。日本のラグビーゲームは非常に人気がありますし、日本国民はスポーツのことになると熱狂的ですしね。

これらの理由と、日本はラグビー強豪国ではないマイナーな国という点から、ラグビーワールドカップの開催国として認められる適切なタイミングだったんだと思います。ラグビーワールドカップは、サッカーワールドカップとオリンピックに次いで世界で3番目に大きい規模のスポーツ大会ですからね。

ニック氏は現在のワラビーズの強みはどんなところだと感じていますか?

ワラビーズは正直言って、ここ23年の調子は良くないですね。2015年のラグビーワールドカップで決勝までいったのを境に、調子は右肩下がりだと思います。ニュージーランドチームと比べると、オーストラリアチームのラインアウトは一定を保てていないし、スクラムはソフトで下方にあるので、より強いフォワードに当たると負けてしまうと思います。ゲームプランに沿ってプレイできているとも思えないし、単純なミスがチームの大きな問題になっています。ゲームの支配率、ボールのキープ力、単純なパスミスといったことが、近年、チームの弱点になっていますね。

ワールドカップで優勝するには強くあり続けなければならない。基本的に6試合を勝たなければならないので、矛盾の余地はありませんね。

現在の、22人構成で交代ができる試合とは違って、1991年のワールドカップで優勝した当時のラグビーワールドカップの決まりは、15人でしか出場できませんでした。チームの核となる15人の選手を見るなら、私は昔の監督であったボブ・ダウヤーの言っていた「もし、ラグビーワールドカップで優勝したいならば、世界レベルで名前の挙がる15人の内から5人を獲得していることが条件だ。そして、他の5人はこれまでに世界で挑戦したことがある、または実力が証明されているプレイヤーが必要だ」という言葉は正しいと思います。

現在そんなに素晴らしい選手たちをオーストラリアチームが持っているとは、個人的に全く思えません。世界トップレベルの15人の選手を獲得できたか? たぶん、デビッド・ポーコックぐらいだと思いますね。しかし、私は今のワラビーズに対して、ラグビー界の闘牛たちと呼びたくなるようなチームを持っているとは思わないし、勝利を約束してくれるような世界的に優れた選手がいるとも言えません。結局のところ、今のままでは優勝の瞬間を見せてくれるなんてことはないでしょうね。

質の高いスクラムとラインアウトなしでは間違いなくラグビーワールドカップの優勝はないでしょう。一貫して勝ち続けなければならないし、ボールをまず最初に追って、支配率を保たなければならない。個人的には、ワラビーズは現在その領域に達していないと思いますね。

2019年は日本がワールドカップの開催国として選ばれましたが、これは他の国々にどのような影響を与えると考えますか?

昔はラグビーがマイナーなスポーツである世界の国々が、ラグビー強豪国を追い上げる必要はなかったと思いますが、今は違います。過去10年間は小さな国が強豪国に追いつくレベルに達していると確信しています。

2015年大会で日本が南アフリカに勝利したように、アルゼンチンなどの国々もワールドカップで準決勝まで勝ち進んだりなど非常に良い成果をあげています。あまり強くなかったイタリア代表のレベルもどんどん上がっていたり、強豪国であるフィジー代表やサモア代表なんかもさらに優れたプレイができています。アメリカ代表の力強さは、ラグビーセブンのゲームからみて取れます。

現在、ラグビーはオリンピック種目の一つになり、ラグビー市場が確実に人気を博してきていることから、多くの先進国が莫大な資金をラグビーへ投資していますね。アメリカやカナダも強くなってきていますし、ヨーロッパの国々も同様です。結論を言えば、ラグビー業界にとってはいい傾向にあります。

よくワールドカップ開催時に、多くの人は3つから4つの国が優勝するチャンスを持っていると予測を立てます。おそらく、ニュージーランドやイングランド、アイルランドがその候補として挙げられますが、現実的に考えて、現在はワールドカップの6カ月前から78カ国が優勝するチャンスを持っているとの見込みがあるのも事実です。

確実に、ニュージーランド、アイルランド、南アフリカ、オーストラリア、フランス、ウェールズ。特にフランスは3回もワールドカップで決勝まで勝ち進んでいる強豪なので、彼らが優勝できる日はそう遠くはないでしょう。

また、すでに6つの優勝候補と肩を並べて、前大会で準決勝にいるべきだったスコットランドがいます。スコットランドはオーストラリアを打ち負かせることができたはずですからね。彼らは非常に手ごわいチームに成長していて、6つ、7つ願わくば8つのチームが優勝争いに上がると思います。そのため、すべての試合が非常に見応えあるものになるでしょう。

一番楽しみにしている試合は何ですか?

もちろん、どのチームがベスト8に進むのか、準決勝に進むのかなんて予測が立てられませんよ。しかし、今回のワールドカップでは見逃せない素晴らしいマッチがありますね。

「ニュージーランド対南アフリカ」戦は激しい試合になるでしょう。強豪国のライバル同士がどのように衝突するのか楽しみで仕方ありません。そのほか、「オーストラリア対ウェールズ」も素晴らしい試合展開になると思います。

「アルゼンチン対フランス」戦も見逃せませんね。この2つのチームは伝統的なライバル関係ですから。アルゼンチンはラテンの魂とカルチャーを持っていますし、ここ15年間で定期的に強豪・フランス代表を破っています。これもまた見応えのある試合になると思いますよ。

そして、「アイルランド対スコットランド」戦。アイルランドは優勝の2番手に入ってくる優秀なチームですが、最近ではイングランド代表に負かされていて、おそらく現状は3番手ぐらいでしょうか。スコットランドは確実にアイルランドと同じ土俵で戦えるくらいに強くなっています。彼らは有能なうえに良いコーチングをしてもらっていますからね。

日本への旅では、どのような思い出がありますか?

ほとんどの場合がビジネスでしたが、何度も日本を訪れています。16歳のときに学校の修学旅行で訪れたのをよく覚えていますね。東京を訪れたんですけど、そこで日本のラグビーチームと2回ほど試合をしました。

また、私が勤めている会社「タウラス(Taurus)」という鉱業系の会社では、日本へ、木炭や鉄鉱石などを輸出しています。25年間、私は鉱石産業の財政業務に携わっていて、その役職が私と日本をコンスタントに繋いでくれました。

そして、2003年大会はオーストラリアで開催したので、トロフィーツアー(※)のために、2000年、ラグビーユニオン協会の会長と私で、森喜朗さんにお会いしました。森さんは当時、内閣総理大臣と日本ラグビー協会会長を兼任しており、2011年のワールドカップ誘致でも日本を引っ張ってくれた人物です。オリンピックの組織とラグビーワールドカップにも非常に深く関わっていましたからね。

森さんは、オーストラリアでのラグビーワールドカップ開催が決まるととても喜んでくれ、熱狂的なラグビーファンであることや、早稲田大学でラグビーをプレイしたことがあるということを語ってくれました。

その後は、東北にある学校数校を訪れました。多くの人たちがラグビーというスポーツとワールドカップに興味を示してくれ非常に楽しく有意義な訪問になりましたね。

ラグビーワールドカップの優勝チームに授与される優勝トロフィー「ウェブ・エリス・カップ」が、世界18カ国を訪問。ラグビーが世界でさらに広まることを目的としている。

ラグビーの楽しみ方を教えてください。

私はラグビー観戦をする前にビールを数杯飲みます(笑)。ラグビーワールドカップにおけるホスピタリティの精神は本当に素晴らしいものです。特に2003年の「イングランド対オーストラリア戦」は互角の戦いをしていました。最終的にオーストラリア代表が地元シドニーで負けてしまったのですが…。でも、負けはサポーターを含めたチームをより強くするという認識がありますよね。

ラグビーにおいて良いことと言えば、フランス語で「la troisième mi-temps」と言う言葉があるんです。この言葉はラグビー用語「ノーサイド(試合終了)」という意味です。自分の国を応援できる前半戦と後半戦は、もちろん大好きですが、ラグビーのサポーターたちは、勝ち、負け、引き分け関わらず、試合終了後は感動を分かち合おうという精神を持っています。つまり、サッカーなどの他のスポーツサポーターのように、敵だから壁を作るということはなく、ラグビーファンは互いに尊重し合っているということです。だから、サポーターを含めた世界のラグビーは人々を魅了しているのだと思います。

正直言って個人的にはスーパーラグビー()はもう興味はなかったのですが、ラグビーワールドカップの開催で、20か国の国々が1つの場所に集まるのは素晴らしいと感じています。

私は、ノーサイド時の、高ぶる感情と興奮がとても素晴らしいと思っており、試合終了後に敵同士のサポーターやファンが1か所に集まってくるシーンが非常にエキサイティングだと感じてます。

つまり、ラグビーワールドカップでは単純に2つの国同士のサポーターの声援だけでなく、ワールドカップの状況や試合そのもの、歴史的な試合を目の当たりにしたい!というさまざまな国のサポーターが世界各国から集まってきます。彼らはラグビーがマイナーなスポーツである国の試合を観戦することも好きです。

そのため、私の中でノーサイドは、なんかこう、特別なんです。たぶん、ノーサイドはラグビーワールドカップでしか味わえないものだと思いますし、4年に1度しか観ることができませんからね。私は、ラグビーワールドカップ開催都市の地域を歩いて、その地に根付く文化や地元の人々と触れ合いつつ、一緒にビールを呑むことが毎回楽しみですね。

スーパーラグビーの説明)

2月から8月までの期間限定で実施されるラグビーの国際リーグ戦。オーストラリアとニュージーランドでのラグビーリーグ人気への対抗などから作られる。1996年から2005年まで12チーム、その後参入チームが増え、2011年シーズンから名称が「スーパーラグビー」となる。日本のサンウルブズは2016年シーズンから参加。

もしワラビーズと日本代表が対戦することになったら、ワラビーズは日本代表のどんなところに着目すべきだと思いますか?

ワラビーズは、前回のイングランド大会時の日本の試合記録に注目すべきだと思います。「日本対南アフリカ」の試合展開は南アフリカに深い印象を与え、かなり動揺させましたからね。

彼らの素早い試合展開、素早い判断力、ラグビー強豪国で試合をするときに、日本の選手たちは自分たちが他のチームと違う動きやゲーム展開をしなければならないのを知っています。その試合運びは、格上の相手を驚かせ動揺させているのも事実です。

ここで私が言いたいのは、日本代表は革新的で、創造的かつ早い試合展開を見せてくれるということ。彼らの素早い判断力と俊敏な動きは、強豪国と身体的な能力の差を感じさせません。

基本的に日本は、ラグビー強豪国のチームと試合をするときは本当にいいプレイをします。なぜなら日本の選手たちは皆、自分の全体重と身体的強さを可能な限り出し尽くし、それがどのように作用するかをよく理解しています。日本代表は他のチームとは違うプレイスタイルで、戦わなければならない。この創造性と革新性にワラビーズは気を付けなければならない点と言えるでしょうね。

ニック・ファー=ジョーンズ(Nick Farr Jones)

元ラグビーオーストラリア代表。1991年大会には決勝でイングランド代表を破り、キャプテンとしてオーストラリア代表をラグビーワールドカップ優勝へと大きく導いた。現在はシドニーにある鉱業会社に勤めるかたわら、イギリスSKY Sportsでのラグビーの解説者、ニューサウスウェールズ州ラグビーユニオン協会会長も兼任している。

 取材・文: Ayla Yuile
 翻訳:   西脇 聖晃

 

 

 

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