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インバウンドを読む#9 JALオーストラリア支店長  宝本聖司

By SCP編集部 in インタビュー/インバウンドを読む

2019年7月の訪日外国人客数は前年同月の約16万人を上回り、単月としては過去最高の約299万を記録しました(2019年8月日本政府観光局[JNTO]発表「日本の観光統計データ」より)。オーストラリア市場も7月としては過去最高の訪日観光客数を記録し、この数字に貢献しています。

そして長きに渡りオーストラリアと日本の架け橋となってきた日本航空(以下JAL)の東京~シドニー線が、今年(2019年)で就航50周年を迎えます。

90年代には日本からの豪州観光ブームの影響により日本人の渡豪者数は90万人に達し、ブリスベンやケアンズへの航路も開設するなど飛ぶ鳥を落とす勢いで路線拡大してきたJALですが、2010 年には経営破綻を迎え苦境の時代に突入。そうしたさまざまな変遷を経てもなお、日本を代表する航空会社としてオーストラリアで人気を誇り、2017年には成田~メルボルン便が就航するなど、オーストラリア人の訪日観光客数の増加を後押ししています。

苦境から一転、新たな路線開設など経営を盛り返したJALの戦略やサービス、そしてその秘訣はどのようなものだったのでしょうか。JALオーストラリア支店のトップとして采配を振るう宝本聖司支店長に、オーストラリアにおけるプロモーション展開やオーストラリア人が求めるサービスなど、インバウンド事業者にとって価値ある情報を伺いました。

まず簡単に東京~シドニー線を就航してからの50年を振り返っていただけますでしょうか。

50年前はDC8という機体で香港を経由し、さらにマニラで給油して、シドニーに飛んでいました。1970年代にボーイング747、いわゆるジャンボジェットが導入され、航空業界が大量輸送時代に入り、直行便を設けることができるようになりました。この頃は、新婚旅行や卒業旅行など観光目的の日本人がメインのお客様で、ケアンズやブリスベン、シドニーといった東海岸にお連れしていました。観光目的が中心ですと、航空会社としては航空運賃を高くいただけないため、東海岸に何便も飛ばしていましたが、正直のところあまり収益が上がらなかったのが実情です。

皆さんにご迷惑をおかけしましたJALの経営破綻(2010年)前から、オーストラリア線の需要が減り始めていました。オーストラリア線は2000年の頭くらいまでは比較的順調だったのですが、その後はオーストラリアドルが高くなったり、日本がリーマンショックの影響で経済的に苦しかったりで、オーストラリアへの日本人観光客数も激減。2011年には東日本大震災があり、オーストラリア人の訪日数が減るなど日本人もオーストラリア人も移動してくれない状況でした。

こうした中でお客様を取り戻そうと、ヘッドレストのカバーや食器類に可愛いイラストをつけ、観光のお客様に対してリゾート気分を盛り上げるような工夫をしました。しかし、飛行機はそんなに新しいものではなく、しかもジャンボジェットでしたから席数を埋めるために航空運賃を安くしないとならないことなどから経営が苦しくなり、座席や機内食にお金をかけることもなかなかできませんでした。お客様からも「リラックスできなかった」など、ご不満の声をいただくこともありました。さまざまな工夫を施しましたが、このころはお客様を取り戻すことはできませんでしたね。最終的にシドニー線以外の路線は撤退となり…。まさにマイナスのスパイラルの時代でした。

経営破綻後は社員の意識改革のもと、サービスのスタイルを変えて取り組みました。同時に日本人のオーストラリアへの需要も緩やかながら回復し、2015年頃からはオーストラリア人の訪日需要が急増してきたため、現在はとても順調です。今はプラスのスパイラルになっています。

どのようにサービスを変えたのですか?

いくつかの面でサービス改革をしました。まずは、飛行機の変更ですね。オーストラリア線にはボーイング787という中型機でありながら長距離を飛ばせる飛行機を使用することにしました。エコノミークラスの座席は3-3-3の9席配列ですが、JALは2-4-2の8席配列を実現し、一般の航空会社の横幅を5cmほど広くし、ピッチもエコノミークラスとしては世界最大級の広さを提供できるようにしました。オーストラリア人からも、非常にゆったりして楽だとお褒めの言葉をいただいているんですよ。

さらに、機内食にも力を入れています。各航空会社が機内食のトレーを小さくして簡素化している中、JALは長方形の大きなトレーで、メインディッシュ、小鉢やサラダを提供し、アイスクリームもお召し上がりいただけます。LCCの台頭により、それを意識したサービスを提供する航空会社が増えてきましたが、JALはエコノミークラスも含めすべてプレミアムサービス! 機内でゆったりと楽しんでいただけるサービスを実施しています。本当はもう少し航空運賃をあげさせていただきたいところですけどね(笑)。もし、他の航空会社と似たような運賃で予約できるのであれば、JALのエコノミークラスは相当お得だと考えていただければと思います。

こうしたサービスの質を変える要因は、破綻前の薄利多売という考えを一新し収益性を考えた経営に移行したことです。部門別採算制を実施し、全スタッフが自分たちの業務においてコストを考えて利益を出すといったマインドで仕事をしています。以前のJALは半官半民の会社でしたから国に甘えていた部分もあり、多大なご迷惑をおかけしたと思っています。今は人として何が正しいかで判断できるようになり、自分たちで汗をかいて、お客様にも楽しんでいただく。そして利益を出して、お客様と社会に還元していく。ちょっと綺麗すぎるように聞こえるかもしれませんが、スタッフは健全な心で経営、サービスができるように変わったんです。

だから、お客様に寄り添ったサービスができ、それを気に入って乗ってくださる方が増え、今や日本人だけでなく、大勢のオーストラリア人が好んでJALに乗ってくださるようになりました。

オーストラリア人がJALを選ぶ決め手はなんですか?

丁寧にお客様に寄り添うサービスでしょうか。言葉は悪いですが、「ベタベタのサービス」だと思っています(笑)

通常、ボーイング787ですと230~240人くらい乗れますが、今のJALシドニー線は195席しかありません。席数が少ないため、地上職員も客室乗務員もお客様に目が届きやすく、動向がよく見えるんです。だから、お客様が困ってらっしゃる、こうしたいんだろうなというのがすぐに分かり、細いところまで気を配れます。席数が少ないことは、ゆとりある座り心地を提供するだけでなく、質の高いサービスも提供できるんですね。

また、機内の清潔さも評判です。きっちり掃除するので、トイレも含め機内の美しさは、オーストラリア人からもよく褒めていただいています。

そして、大きな遅れもないという定時運航も、丁寧なサービスとともにオーストラリア人に評価されているひとつです。

こうしたサービスを提供できることから、スタッフにも自信が芽生えました。どうぞ我々のサービスを楽しんでくださいという気持ちを込めた挨拶がオーストラリア人にも伝わり、快適に過ごしていただけるのだと思います。

オーストラリア人が求めているサービスとはどんなものですか?

フレンドリーさですね。日本人のお客様は整列して笑顔でお出迎えするなどきちんとした対応がお好みですが、オーストラリア人はフレンドリーに接してほしいというご要望をお持ちです。笑顔はもちろんですが、ジェスチャーを交えながら大きな声で挨拶するなどウェルカム感を出しています。日本人がきちんとしすぎているというイメージを意図的に少し緩めているんです。

また、日本の航空会社なので、日本らしさを求めるオーストラリア人が多く、お見送り時は「おはようございます、グッドモーニング」とあえて日本語と英語を併用し、チェックインカウンターには折り鶴のデコレーションや日本文化を紹介する雑誌などを置いています。7月はスタッフが浴衣を着用し、七夕イベントを実施しました。オーストラリア人の大人も子供も短冊に願いことを書いて笹にくくりつけたり、浴衣のスタッフと写真を一緒に撮るなど楽しんでくださっていました。

和風のものを食べたいという声も多いんです。チキンの照り焼き、そぼろご飯、そばなどを提供し、ボリュームにも気をつけています。その一方でオーストラリア人が好む食事も意識し、朝食にはオーストラリア人の好きなミューズリーを取り入れたりしています。

成田~メルボルン線は、どのような戦略で臨みましたか?

メルボルンの人口は460~470万人。数年後には500万人のシドニーに追いつき、その後追い越すとも言われているほど大きな都市です。現在はシドニーに比べるとやや小さいですが、それでもオーストラリアでは第2位のビジネス都市ですから、それなりに業務需要はあります。我々が運航を計画していたときは、日本とメルボルンを結ぶ便はジェットスターしかなく、その後、カンタス航空が引き継がれました。ただ1便しか飛んでいないことから、我々が飛んでもご利用いただけるのではないかと考えました。

メルボルンのあるビクトリア州は、イギリス風の街並みや美味しいカフェ、ヤラバレーやグレートオーシャンロード、フィリップアイランドなど、世界的に有名な観光地をたくさんお持ちです。日本ではまだ浸透していないですが、しっかり宣伝すれば日本からも観光需要が見込まれ、双方向で需要があるだろうということから就航しました。

現在、年平均8~9割とたくさんのお客様にご搭乗いただいています。日本人のピークである8月と、オーストラリア人のピークである12月と1月は100%に近い状況です。閑散期の7月でも8割くらいは乗っていただいているんですよ。

シドニー線もメルボルン線も中心部より離れた成田発着ですが、オーストラリア人はどう感じていますか?

普通は、羽田の方が便利だと思いますよね。でもオーストラリア人は旅行期間が長く、最低2週間、長い方だと3~4週間も日本に滞在されるので、到着後、まず成田を楽しむオーストラリア人も多いんです。成田山新勝寺をはじめ、鰻や寿司を含めた成田名物をご紹介することもありますが、外国の航空会社のクルーが集うパブやバーなどをご存知のオーストラリア人もいて、訪日の1つの醍醐味になっているようです。

また、シドニーからは昼間に飛んで日本に夕方到着しますが、体への負担が少なく快適だという声も多数いただきます。特に企業のトップクラス層は好んで乗ってくださっていますね。ちなみにメルボルン線はシドニー線と昼夜反対のスケジュールですから、日本から帰るときに昼間運航するメルボルン線を使うなど、日本、メルボルン、シドニーの三角形で移動する方も多いです。これは、日本人がオーストラリアに行く際に行きも帰りも昼間便を使えるルートになり、人気があるんですよ。

時間が限られた業務渡航者は羽田発着が便利かもしれませんが、日本政府も羽田と成田の2つの空港を上手に利用して訪日を盛り上げていくという構想があるので、成田線もしっかりとアピールしようと思っています。

オーストラリア人へ向け、どのようなプロモーションを実施していますか?

メルボルン線は就航してまだ2年くらいなのでキャンペーンを実施したり、メルボルンの中心地で日本から持ってきた座席を展示し、折鶴などを飾ってお客様に楽しんでいただくなど、告知を続けています。

シドニーでもメルボルンでも、特に注力しているプロモーションは、ファムトリップです。オーストラリアは旅行会社の力が強く、各駅やショッピングセンターの中にテナントを構え、旅行の受付をしています。ウェブを通して申し込むより旅行会社にお任せするという方も多いんです。そのため、JALのサービスを気に入って少々運賃が高くても乗りたいというお客様を顧客に持っている旅行代理店のキーパーソンを日本、特に地方に連れて行き、「日本にもまだ知られていない魅力的なところがありますよ」「今、日本では○○がトレンドになっていますよ」と紹介しています。ファムトリップはとても有効なので、去年(2018年)から引き続き今年もたくさん実施していますね。

ファムトリップの反響はいかがですか?

非常にいいですよ! JALのサービスも気に入ってくださり、東京、京都、大阪、広島だけではなく、まだ隠された場所があるんだと実感いただいています。パンフレットやウェブで見るのと違って、「行って」「見て」「聞いて」「食べる」という体験は、とても効果的です。

ホームページを英語で制作し、パンフレットを作って配ったことでプロモーションできたと思う企業や自治体が多いですが、現状、なかなかオーストラリア人が各ホームページまで辿り着きませんし、パンフレットもあまり見られません。旅行会社のご推薦、友人知人の口コミから、やっとホームページに興味を持つといった流れになりますので、いかにその場所を体験してもらうか、そして知ってもらい広めてもらうかが大事ですね。体験してもらうのが1番早いと感じています。

ファムトリップでは、どのような場所に行きますか?

最近では、新潟、九州など、ニッチな場所やオーストラリア人にまだ知れ渡っていない地方に行きます。オーストラリア人は、我が道を行きたいんです。トレッキングがオーストラリア人に好まれる理由もその辺りからだと思います。

アジアの方みたいにツアーで旅行というより、誰もが行かない新たな面白い場所を知りたいのです。私自身も実際オーストラリア人の友人に、オーストラリア人が少ないスキーリゾート地はどこか?と聞かれますからね。

ですから、オーストラリア人の認知度が低い東北海道、東北、九州・沖縄などは、全社的にも非常に力を入れてアピールしていこうと考えています。

地方のインバウンド事業者はオーストラリア人に向けてどんなプロモーションをするといいでしょうか?

プロモーションの前に、まずその土地の魅力を見つけることが最優先です。私が広報部時代に、ある地域に行ったときに「この夕焼け、素晴らしいですね」「この食べ物美味しいですね」と担当者に伝えたのですが、「これは普段から見てるよ」「この食べ物は昔からあるよ」と現地の人はその良さに気づいていないんだなと感じたことがあります。

思いもよらない点がオーストラリア人にとってはすごく魅力的だったりするのですが、それはオーストラリア人にしか分かりません。また、仮に中国人、タイ人に気に入られているものでも、オーストラリア人にはあまり好まれないかもしれません。どの国民にも絶賛されるというものはあるでしょうが、オーストラリア人を誘致したければ、オーストラリア人にとって「ここは魅力だ」「ここは改善するといい」「この食べ物は好まれる」など、的確なアドバイスをもらった方がいいですね。

オーストラリア人は、宿泊、体験、食べ物にお金を使ってくださる最高の訪日旅行者です。オーストラリア人やオーストラリア事情に長けている人から見た魅力とは何かを知り、それをきっかけとしてプロモーションを展開していくといいでしょう。できれば、ファムトリップを実施し、旅行会社の推薦や口コミを広めていくといいと思います。

今後、オーストラリアでインバウンド事業を展開していく皆さんにアドバイスをお願いします。

オーストラリア人は旅行が大好きで、旅行だけはやめられないと言います。オーストラリア人はスキーだけでなく、スクールホリデーごとに旅行に行く傾向があるので、一般家庭のお客様もせっかくの家族旅行だからとビジネスクラスやプレミアムエコノミーに乗ってくださるんです。他は節約しても、旅行はケチらないのがオーストラリア人です。その中でも日本を選んでくれているオーストラリア人が増えているのはありがたいですね。以前は日本人ばかりのお客様だったJALも、現在は通年で平均すると、半分くらいはオーストラリア人です。

いろんな研究機関の調査からも判断できますが、オーストラリア人の日本熱は今後も伸びます。まだまだチャンスがある国です。

JALにはさまざま自治体にアドバイスする部門があり、旅行会社や観光局とのパイプもあるので誘致したいときに物事が進みやすいと思います。オーストラリアのマーケティング会社などもこうしたことを手がけていますので、プロとタッグを組んでインバウンド事業を進めて行くことをおすすめします。

左より営業所長:Mark Lucas氏、支店長:宝本 聖司氏、営業所アシスタントマネージャー:梅井 康二氏

 

宝本 聖司 (たからもと せいじ)
 

日本航空株式会社 オーストラリア支店 支店長

1990年京都大学法学部を卒業し、同年、日本航空株式会社入社。香港支店や名古屋支店で総務マネジャー、本社広報部・報道グループ長を経て、2017年4月より現職。オーストラリアの観光業界へリーチを広げるだけでなく、オーストラリアで開催されるさまざまなイベントに出展し、オーストラリア人に日本の魅力を真摯に発信している。

 

取材・文:  茂木宏美

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