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インバウンドを読む#12 JNTOシドニー事務所 田中陽子所長

By SCP編集部 in インタビュー/インバウンドを読む

昨年(2019年)は、ラグビーワールドカップ日本大会の影響もあり、訪日オーストラリア人の数が初めて年間60万人を突破した。これまでは地理的に近く、毎年数多くの旅行者を送り込んでくるアジア諸国に目を向ける自治体や企業がほとんどだったが、実際に訪日オーストラリア人と触れ合った観光施設や飲食店から「オーストラリア人がいろいろ買ってくれた」「オーストラリア人の豪快な飲みっぷりが良かった」などの声が徐々に上がり、現在、オーストラリアが日本人のアテンションを集めはじめていることに異を唱える人はいない。

その一例として、JNTO(Japan National Tourism Organization/日本政府観光局)主催の訪日観光セミナー・商談会「ジャパン・ロードショー(Japan Roadshow)2019」が挙げられるだろう。昨年12月に開催されたセミナーでは自治体や宿泊施設など日本全国から53団体が参加し、オーストラリアの旅行やメディア関係者は186名が来場。どちらも過去最高と言われた一昨年(2018年)を上回る数値で、日本の魅力を広めたい側と日本のことをもっと知りたい側との熱いディスカッションが会場内各所で繰り広げられた。

今年(2020年)開催される東京オリンピック・パラリンピック、来年(2021年)のワールドマスターズゲーム2021関西など、ここ数年は世界中に日本の露出が増えることが予想され、今こそがインバウンド事業をさらに活性化できる絶好の時期であることは間違いない。長年、日本の魅力を発信することを通して、オーストラリア人の訪日旅行を促進しているJNTOはどう考えているのだろう。昨年着任したばかりの同シドニー事務所の田中陽子所長にインバウンド事業を推し進めるためのヒントを聞いた。

数年間、訪日オーストラリア人数は一度も低下することなく伸び続けていますが、その要因として考えられるものは何でしょうか?

ワールドカップの影響もありますが、これとは関係なく、日本に行きたいというオーストラリア人が増えているのが大きな要因でしょう。日本を訪れたオーストラリア人が「日本は楽しかったよ」と高い評価をしてくれたことが口コミで広がり、オーストラリア人の興味が日本に集まっていることが一番の理由だと思いますし、航空路線の拡大も追い風となっています。

また、私たちもさまざまなプロモーション施策を実施してきていますので、それによって少しずつ日本の魅力が認知されてきたことや、自治体の皆さまも一生懸命やってくださっていることなどの相乗効果の現れもあると思います。

訪日オーストラリア人数のさらなる増加のために、JNTOシドニー事務所では、どのようなプロモーションを手がけていますか?

JNTOではコンテンツの充実化とあわせ、より長く滞在して多くの経験をしていただくことを目的に、トラディション、アート、ネイチャーなど7つの「パッション」に分け、それに基づいたコンテンツを紹介していくプロモーションを実施しています。

これらのパッションは、訪日意欲を高めるためにはどういったアプローチが望ましいか、そして日本に行きたい気持ちを掻き立てるコンテンツや日本に求められるものは何かなどを検討し、創りました。

各自治体からコンテンツを募集して制作した冊子『EXPERIENCES IN JAPAN』では、7つのパッションにあった体験型コンテンツを具体的に紹介しています。写真が美しく、こんな体験ができるんだと新しい発見があると反響がとてもいいですね。

オーストラリア人には、アウトドアやトラディションのパッションが人気ですが、JNTOとしては満遍なく紹介しています。ご自身にある地域の魅力探しの参考にしてもらえたらとも思ってるんです。またそれ以外にも年代別に分けたプロモーション展開や航空会社との共同広告も実施しています。

年代別のプロモーション展開とはどんなものですか?

20代・30代の層には、デジタルマーケティングを使います。メインとしては、インスタグラマーの発信力の活用ですね。インスタグラムの閲覧者はアクティブな方が多いので、大自然を主に打ち出しています。

インスタグラマーが訪れる場所の選定は、九州や四国など大きくエリアを決め、その後、メインスポットである大自然の場所を探します。そして、自治体の方とも相談しながらベストの行程をインスタグラマーに提案し、最終的な行程を決定します。これにより「こんなところ、日本にあったの?」「日本に行ってみたい!」と興味を持つ人が広がっています。インスタグラムは若い人が利用しているので、アプローチ方法としては効果が高いんですね。

50代・60代の層には、トラベルエージェントさんにアプローチします。これらの年代層の方は、エージェントを経由して旅行を申し込むケースが多いので、彼らが持つ単発ツアーや長期ツアーに組み込んでもらえるように新しい場所を紹介しているんです。

年代によって行く場所の違いはありますか?

アクティブに過ごす若者は地方に行きやすいと思います。インスタグラムを見てることや、人の知らないところに行きたい傾向があるので、より地方に誘客しやすいでしょう。

もちろん、シニア層が好む魅力を持つエリアもありますから、誰をターゲットにするかを決めてプロモーションすることが重要です。その魅力や受け入れ体制に合わせてターゲットを絞りましょう。年代を問わず人気があるのは、東京・京都等のゴールデンルートを訪れること。その後、どこに行くかはさまざまです。

では、訪日オーストラリア人がゴールデンルート以外を巡ってもらうために、地方はどのようなことに取り組んだ方がいいでしょうか。

まずは、その地域を知っていただくことが重要。そこに何があって、どんなことができるかを知ってもらいましょう。そのためにエージェントさんなら、何回か会って商談。若い方向けならデジタルコンテンツを使ったプロモーションに注力してみてください。

また、知ってもらうためにはその地域の魅力・セールスポイントを定めることも大事です。オーストラリア人は人との触れ合いやちょっとした日常体験などに魅力を感じます。自分たちでは当たり前すぎて気付かないことが多いのですが、地域ごとに「そこにしかない」というものがあるはずなんです。ですから、地域に住んでいる外国人に聞いてみたり、オーストラリアを熟知している人の意見を参考にしたりして、外国人目線で地域を見渡してほしいと思います。オーストラリア人に好まれるものも結構あると思いますよ。

認知度を高める絶好の機会となるJNTO主催の商談会について教えてください。また参加するにあたってなにかアドバイスはありますか。

年2回開催する訪日観光セミナー・商談会「ジャパン・ロードショー」では、日本の参加団体とオーストラリアの旅行関係者が集まります。オーストラリア国内で日本人気が高まっていることもあり、来場するエージェントさんの数が増え、うれしい限りです。

ツアーを作るプロダクトマネージャーはもちろん来場されますが、最近では「お客さんから日本について聞かれるんだけど、自分たちがアドバイスできるほど日本のことを知らないので勉強したい」と販売スタッフも多くいらっしゃいます。自分たちの地域を発信できると同時に、オーストラリア市場についても知ることができるので参加団体さんから喜ばれています。

商談会に参加する際、例えばプロダクトマネージャーに会うなら商品として出せるものを用意し、商談ができるような形にしておくこと。認知度アップのためであれば、写真をたくさん利用したツールを。より具体的に知らせたいというのであれば、その背景が分かるストーリーを作っておくなど準備があると効果的です。

その場で何かを体験してもらうことは時間的に厳しいので、動画などを準備するといいでしょう。文章より動きの方がイメージつきやすいですからね。深く知ってもらえるような施策を実施すると、その地域での訪日オーストラリア人の滞在時間も長くなり、消費も発生してもらいやすいです。

シンガポール事務所の経験から、東南アジアとオーストラリア市場の違いについて教えてください。

色々ありますが、1番大きい違いは、日本に対する認知度です。シンガポールでは、日本の県や都市を言っても分かる方がたくさんいますが、オーストラリアでは分からない方が大多数ですからね。また、シンガポールでは日本の情報が街の中でも溢れていますので、情報格差も違いのひとつです。また、オーストラリア人は自然やトラディションを好みますが、シンガポール人はどちらかと言うと都会を好みます。もし、「自然」というテーマがあったとしても、両者で求める自然体験が違いますね。

果物狩りを例に挙げると、東南アジアはフレッシュなフルーツが採れにくいので、果物狩りは人気のあるコンテンツです。一方、オーストラリアでは、果物狩りは労働的なイメージがあるので、あまり好まれないんです。もし、果物狩りが地域のウリだとしても、オーストラリア人には別の魅力を押し出しましょう。アジアと欧米豪では好まれるコンテンツが異なるので、市場によって特性が違うことを理解するといいですね。

東京オリンピック・パラリンピックが開催されることから、JNTOでは今年(2020年)に特化したプロモーションを検討していますか。

「Your Japan 2020」というキャンペーンを実施しています。これは、2020年だからこそできること、2020年だけの割引といった内容です。

例えば、普段は見ることができないような観光施設を2020年だけオープンさせる、お城に宿泊できる「城泊」を体験できるなど。また、航空会社もいつもより安い運賃を用意しています。いつか訪日したいと思う人に、「今」を効果的に訴求できるキャンペーンです。

今年開催される東京オリンピック・パラリンピックでは、チケットの関係や混雑することなどで、純粋に日本に行きたい観光客の訪日数が下がることがあります。しかし、日本の露出はすごく高まるので、今まで訪日を考えていない方たちも日本に行ってみたいとなる可能性はとても大きいです。オリンピック・パラリンピックにフォーカスするのではなく、この機会の露出の高まりをうまく利用し、オリンピック・パラリンピック後もふまえたプロモーションするといいですね。

日本誘致の課題として、日本の夏の訪日オーストラリア人減少があります。これに関してのどのような取り組みをされていますか?

日本の夏はオーストラリアのスクールホリデーと重なり、海外旅行によく出かける時期なんですが、ライバルが強力で、オーストラリア人はヨーロッパや東南アジアに行ってしまうことが多いんです。

そのため、夏だからこそできるアウトドアなど、その時期に日本に行く意味があることを全面的に押し出しています。つまり、意味付けすることが重要。その時期にしかできないことを話しています。

インバウンド事業を手がける地方自治体にアドバイスをお願いします。

基本的にオーストラリア人は日本についてあまり知らないので、プロモーション後すぐにオーストラリア人が押し寄せるというわけではありません。ジワジワと訪日オーストラリア人が増えていく感じです。観光には時間がかかります。ですから、1度きりでなく、継続的にネットワークを構築し、発信していくことが重要です。今年プロモーションしたけど成果がなかったと1、2年で中止してしまうと、この1、2年がもったいない。まさに継続は力なりなんです。

また、地域の受け入れ体制については、ある程度整える必要がありますが、100%の体制になってないからと言って何もしないより、まずはスタートすることが大切ですね。

JNTOもお手伝いしますよ。オーストラリア人は「日本」というキーワードで情報集めするため、認知されていない場所のサイトを見つけることは難しいです。独自のプロモーションはむずかしいので、現地とのタッグが成果への近道だと思います。

 

田中 陽子(たなか ようこ)

日本政府観光局(JNTO)シドニー事務所所長。1992年国際観光振興会(現国際観光振興機構)に入会。以降、事業部門にてさまざまな業務を担当。2014年から2017年までシンガポール事務所に勤務し、マレーシアでのプロモーションやクアラルンプール事務所立ち上げを担当する。人事グループマネージャーを経て、2019年7月から現職。日本の魅力発信とオーストラリア人の日本誘致に精力的に活動する。

取材:茂木 宏美

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