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インバウンドを読む#13 Japan Holidaysダイレクター アンソニー・ラクストン

By SCP編集部 in インバウンドを読む(インタビュー)

観光庁は「観光先進国・日本」としてのさらなる飛躍を願って、2020年の訪日観光客数の目標を4,000万人と設定。日本各地でもさらに外国人誘客を促進するべく、多様なプロモーションを展開している。この1月、2月と連月で訪日客が過去最高数を記録し、好調な滑り出しを見せるオーストラリア市場であるが(※)、訪日観光客増加に伴い、次の課題として挙げられるのがリピーター客の誘客であろう。

観光庁がオーストラリアで実施した訪日旅行後の満足度調査では約99%が「満足」と回答。その満足度の大きな要因でもある「歴史・伝統的文化体験」が、今後オーストラリア人リピーター客の伸び率の大きなカギのひとつになると言われている。そして今それらの体験や秘境スポットを求め、実際に地方の注目度がグングン増してきているという。

じつは旅行会社でもこの傾向に着目し、各社様々な体験型ツアーを販売している。そのなかでも他者とは一風変わったインタレストツアー(一般的な観光だけではなく、文化鑑賞や体験を 盛り込んだテーマ性、趣味性の高い旅行)を催行し、全国各地へオーストラリア人を送客しているのがJapan Holidaysだ。オーストラリアでの市場調査はもちろん、日本側からのヒアリングを基に旅行商品を造成。ディレクターを務めるアンソニー・ラクストン氏は日本から数々の招聘旅行に招待されるなど、観光関連団体とも連携して地方誘客促進にも携わっている。

現在、誘客競争が激化するなか、自分たちの地域をどのように訴求したら良いのか模索している地方自治体も多い。商品造成のポイントをはじめ、プロモーション展開の準備を進める日本サイドへの要望など、インタレストに特化した数々のツアー商品を販売するラクストン氏に伺った。

(※このインタビューは2020年3月上旬に実施)

2007年にJapan Holidaysを設立されましたが、提供しているツアー商品の移り変わりや伸び率を教えてください。

事業を始めたころは、まだまだスキー需要が拡大していたこともあり、開発があまり進んでいなかった白馬村の旅行商品造成から着手しました。その後、他の地域にも徐々に目を向け始めました。当時はまだゴールデンルート周遊が主流であったため、その他のエリアを訪れる方は少数でしたし、訪日する季節も冬・春と限定されていました。また日本は物価が高いというイメージも根強く、言葉の壁も懸念されていましたね。しかし、2011年の東日本大震災を機に弊社を含め旅行会社全体に変化が訪れたように感じます。しばらくの間、震災の影響があった東日本をまわることに抵抗を示す人も多かったため、大阪から入って九州まで抜けるというような、今まではあまりなかった西日本を中心としたツアーが多数販売されました。弊社もそのような商品から徐々にインタレストツアーを造成するようになり、今は売り上げ伸び率も毎年約15%と順調な成長を見せています。

スキーを目的とした訪日旅行は今後も続くと思いますか?

スキー客が選ぶリゾートは多様化すると思いますが、引き続きオーストラリア人が訪日する大きな要因になるでしょうね。私たちが白馬村へ送客を始めた頃は、ニセコがオーストラリア人にとって唯一のスキーリゾートでした。しかし、その後、オーストラリア路線拡大に伴い、東京から乗り継ぎせずに行くことができる白馬村を含めた日本アルプスを行き先として選ぶ方が増えました。それにあわせてニセコはどちらかというと若いカップル向けの傾向があったので、白馬村はファミリー層向けに東京観光を抱き合わせたツアーを販売しました。今、ニセコにはオーストラリア人が集まりすぎていると聞いています。オーストラリア旅行客のなかには日本文化のなかに身ををおきたい、日本人ともっと接したいと思う方も多くいらっしゃるので、そのような方たちはニセコを敬遠するでしょうね。日本のパウダースノーは世界的からみても評価が高いため、今後もスキー客は集まり続けますが、ニセコや白馬村以外のエリアにも散らばっていくでしょうね。

他社とくらべ、訪日ツアー商品を造成・販売・催行するうえで、Japan Holidaysの強みや特徴をどのようなものでしょうか。

日本文化に対する造詣が深いことに加え、インタレストに特化した少人数ツアーを催行していることですね。Japan Holidaysは東京にもオフィスがありますので、現地ガイドとも強固なコネクションを持っています。ガイドについて補足をすると私たちは日本の歴史や地理に精通している証である全国通訳案内士資格を持つガイドの方のみとしか提携していません。他の旅行会社は日本以外のツアーも販売していますが、弊社は日本のみのツアーに特化。築き上げたネットワークを駆使して、私たちでしか得ることができない情報や他社では訪れることができないレストランへ連れていくことができます。新商品を造成する際には調査のため、日本に長く滞在することもありますね。日本でツアーガイドをしていたスタッフもいますし、現地ガイドやその地域のことをよく知る方と連携して、新商品を造りあげます。弊社のモットーは「他社では叶えることができない日本の旅」ですからね。弊社のツアーで何度も訪日しているお客様も多いので、今は商品のバリエーションも増やしており、これはお客様が私たちのツアーに満足してくださっている証だと思っています。

人気が高いツアーはどのようなものでしょうか?

九州に関連した商品ですね。特に好評だったのは去年の春、秋に催行した「Last Samurai」というツアーで、隠れキリシタンが暮らしていた天草、そして五家荘をめぐりました。日本におけるキリスト教の歴史を天草では学んでいただけましたし、平家の落ち武者が逃げ延びて里を作ったといわれる「平家落人伝説」が残る五家荘の新緑および紅葉はまさに絶景でしたね。あのエリアは九州最後の秘境と言われるにふさわしいです。ほかの人気商品でいえば、熊野古道のツアーですね。商業化されておらずありのままの自然の美しさが残っていることに加え、歴史上の人物が数多くがたどったことで、歴史文化体験の要素もあるので、数多くのオーストラリア人を惹きつけています。じつはスキー以外に商品の幅を広げようと熊野古道のツアー販売をオーストラリアで最初に始めたのが弊社でした。ですので、ここまで認知度が向上し、多くのオーストラリア人が訪れていることを嬉しく思います。

なぜ日本はオーストラリア人にとって魅力的なのでしょうか。

オーストラリア人が日本に魅了されるのはいくつかの要因がありますが、四季があるのは大きいですね。オーストラリアでは季節間の差があまりないので、衣替えは個人的にとても興味深い慣習です。また、安全性の高いことと交通機関の発達も高く評価されています。今後、スキーシーズン以外でも楽しめる場所として北海道が脚光を浴びると感じますね。東北地方も訪日インバウンドにかなり力を入れていますので、需要がさらに高まるのではないでしょうか。弊社としては四国の商品をもっと増やしたいですね。何度か足を運んだことがあるのですが、サイクリング、トレッキングなどのアウトドアアクテビティから歴史的建造物やアート要素もあるので、オーストラリア人のどの層にも受け入れられますし、美しいビーチも点在しています。また、本州からも簡単にアクセスすることができますので、秘境の地として多くの人を魅了することができる場所だと思っています。

需要の高いコンテンツのひとつに挙げられるのがサイクリングであり、今後も発展していくでしょう。サマーシーズンの集客をねらって、山の中を走るサイクリングロード建設を始めたスキーリゾートもありますので、他も続くのではないでしょうか。トレッキングに関して言うならば、熊野古道以外にも、日本各地の至るところに素晴らしいルートがありますので、近い将来、貴重な観光要素になると思いますね。また、弊社では料理体験教室や日本庭園をめぐるツアーもありますし、ニッチな市場ではありますが、電車旅に特化したツアーも催行しています。どのインタレストも大きなビジネスにつながるポテンシャルを秘めていますので、今後も様々な需要に合った商品を提供していきたいですね。

Japan Holidaysのツアー商品は主要観光スポットを網羅している商品もありますが、他ではなかなか取り扱いがない商品が多くあると見受けられます。新しい商品を造成する際にどのようなポイントをふまえて、旅程に組み込んでいるのですか。

まずは需要を探すために市場調査を実施します。例えば電車旅ツアーを造成した際は、まず電車への関心が高い層はいるのか、鉄道サークルはあるのか、それに加入している人達はどのような人なのか、訪日したことがあるのか、訪日ツアーに参加したことがあるかなど細かく調査しました。同時にそのツアーの催行方法、行き先、ターゲット層、宿泊施設などの情報をふまえ、日本側と交渉を進めました。また、これは特に地方に関して言えることなのかもしれませんが、弊社が安心してお取り引きいただける企業だということをご理解いただくために、東京オフィスを通して前金をお支払いすることも重要なコミュニケーションの一部だと思っています。小さいことの積み重ねなのかもしれないのですが、このような地道な配慮や調査がインターネットのみのリサーチだけでは造成することができない、弊社だからこそ催行できる商品へつながるのだと思っています。

Japan Holidaysではゴルフツアーも提供していますが、ゴルフに特化したツアーを始めようと思われた背景を教えてください。

市場調査を実施していく過程でこちらのゴルフクラブとも話をする機会があったため、そこからゴルフツアーへと派生していきました。今までオーストラリア人にとってのゴルフ旅行先と言えば、ベトナムや中国で、日本でゴルフをするには出費が大きく、社員旅行でしか叶うことができない体験だというイメージが強かったのですが、近年、日本へリーズナブルに行けるようになったこともあり、日本ゴルフツアーの需要も高まるだろうと造成を決断しました。残念なことに、今年のツアーは新型コロナウイルスの影響でなくなくキャンセルしなければいけなかったのですが、ほぼ完売に近い状況でしたね。次に催行する際はツアー参加者が日本人ゴルファーの方と一緒にプレーし、食事も共にするような旅程にしたいです。ゴルフをしながら日本の大自然の美しさを堪能するだけでなく、同じスポーツを通じて、文化交流も促すことができるツアーへと発展させたいと強く思っています。

 

訪日インタレストツアーに関して今後の展望をお聞かせください。

オーストラリアが一時期ハネムーン先としてブームだったように、今度は日本をそれで売り出していきたいですね。エリアはまだまだ検討中ですが、京都で和婚体験後、高級旅館に滞在し、ロマンティックな時間を過ごすなどはどうでしょう。アウトドア向けには、現在ヨガツアー先としてバリ島やフィジーが人気ですが、日本も参入させたいですね。つい先日群馬県を訪れる機会があったのですが、キャンピングカーでキャンプに来ている方が多いことに驚きました。日本のキャンピングカーの性能は凄いですし、国内でキャンプブームが起きているならば、外国人も取り込める可能性が大いにあると思いますね。もちろん、これらのようなツアーは全て日本サイドとの協力なしにして実現することができません。もし、弊社でツアー造成をご検討されているならば、お気軽にご連絡いただければと思います。弊社のスタッフは頻繁にオーストラリアと日本を行き来しているので、日本でお会いすることもできますし、東京オフィスでも打ち合わせさせていただきます。今後も様々なニーズにこたえることができるインタレストツアーを造成し、日本の魅力をオーストラリア人に幅広く知ってもらえるように取り組んでいきます。

オーストラリアで訪日プロモーションを展開するにあたって効果的またはそうではない取り組みがあれば教えてください。

今の時代、何らかのSNSアカウントを保有している人が大半なため、ひとりひとりにどう発信してもらうのかを考慮しなければいけませんね。昨年60万人以上のオーストラリア人が訪日しましたが、要はこの人たち全員がメディアとしての役割を果たし、自分たちの訪問先や体験をPRしてくれるわけです。そう考えると、「口コミ」は影響力が高く、非常に効果的なマーケティング手法ですし、SNSでの拡散も考えると想像以上に幅広い層へ届けることができます。昨年1年ほど、弊社で映画上映前のCM出稿をしましたが、期待できるほどの効果は得られなかったですね。プロモーション方法も従来通りではなく、新しいテクノロジーを積極的に活用しなければいけないかもしれませんね。

現地旅行会社やインフルエンサーの方にとって充実した招聘旅行になるように、自身の経験をふまえてどのような情報やサポートがあれば良いと思いますか。地方自治体や企業の方へアドバイスをお願いします。

日本サイドにお願いしたい点は招聘旅行の目的をしっかり把握することですね。私たちは旅行会社なので、旅行商品を造成することはできますが、持続的な送客のためには時間がかかります。これは仕方のないことかもしれませんが、残念だと思う点は地方自治体と連携しその地域を組み込んだツアーを造成している過程で、担当の方が他の部署に異動してしまうことですね。せっかく今まで密なコミュニケーションを取り、関係を築きあげてきたのに、また一から構築しないといけないと思うとそれが歯がゆく感じることがあります。また、どのマーケットを狙っていくのかも明確にする必要がありますし、エリアによって誘客要因になりえるのはお寺・神社ではなく、その土地を形成する山や川などの自然なのかもしれません。よく神社やお寺を海外に向けて訴求したいと視察に連れて行っていただくことがあります。もちろんそのエリアにとって特別で深い関わりがあるスポットだということは重々分かっているのですが、よっぽど特化した点がない限り、京都の清水寺や伏見稲荷大社など圧倒的な人気を誇る観光地を見て回ったあとで、同じような建造物を訪れるためにわざわざ地方まで行くとは考えにくいです。また、その地域にあるすべての観光スポットをあれもこれもと盛り込む傾向がありますが、まずは誘客の要因になりえるコンテンツをひとつ確立させましょう。それを中心にどう自分たちの地域をまわってほしいかを考えれば良いと思います。あとは、認知度拡大ならばメディア、実際の送客数につなげていきたいならば旅行会社と、招聘相手が目的遂行に適しているかどうかも吟味しなければ、効果を見込むことができる事業には結びつかないでしょう。

アンソニー・ラクストン(Anthony Luxton)
1983年よりオーストラリア政府観光局の東京オフィスに勤務し、日本からオーストラリアへのアウトバウンド業を担当。1980年後半以降に起こった訪豪旅行ブームを支え、オーストラリアをインバウンド先進国としての地位確立に貢献すると同時に訪日インバウンド市場に関しても造詣が深い。2007年にJapan Holidaysを設立後、日本側旅行業界関係者とのネットワークを駆使し、多様な訪日ツアーを造成・催行。また定期的に日本を訪れ、商品調達や新規市場開拓も意欲的に行うと同時にインタレストツアーを通した地方送客のため、観光関連団体とも積極的に連携を図っている。

取材・文:臼井 佑季

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