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現地旅行会社に聞く#02 Zenbu Tours

By SCP編集部 in 現地旅行会社に聞く

京都に在住していたジェーン・ローソン氏がオーストラリア人にもっと日本(特に京都)の魅力について知って欲しいとはじめたZenbu Tours。料理研究家でもある同氏のツアーは日本の食文化を幅広く体験できることを主にしている。また、参加者最大8名という少人数だからこそ一般的なツアーでは行くことが難しい老舗旅亭や地方観光なども盛り込んでいる。オーストラリア人の訪日目的第一位としてあげられるのが「和食体験」。全国で約1,600の和食レストランがあるといわれているほど和食熱が高まっている今、ツアーオペレーターだけでなく、料理研究家そしてトラベルライターという三つの肩書をもち、様々な分野で日本と関わりがあるローソン氏が提供するZenbu Toursの全容を聞いた。

 

Zenbu Toursではゴールデンルート以外の地方も網羅されていますが、旅程はどのように決められているのですか?

例えるならば、レシピを考える作業と似ていますね。味や食感のバランスを大切にするように、各地域の特徴が被ることなく、それぞれのオリジナリティがしっかり引き立つような旅程にしています。年末年始に実施したツアーでは、福岡県で海鮮居酒屋や自然食レストラン「茅乃舎」を訪問し、佐賀県では伊万里焼・有田焼の陶芸体験もしました。青森では雪景色を堪能後、兵庫県は都市開発の波にのまれず、城下町の美しく独特な雰囲気がそのまま残っている丹波篠山市を散策しました。
ツアー内容は大体1年前から考案するのですが、たとえ、それが路地ひとつであっても、その地域の文化を感じることができれば旅程に組み込むか検討します。Googleマップのストリートビューも駆使して、アイディアを得ることもありますね。私はもう35年以上日本と関わっていますから、各地域でどのような体験ができるかは大体把握しているつもりです。けれど、まだまだ実際に訪れるまで気づかなかった日本の美しい佇まいが残る場所は多く存在します。そのような場所を発掘して、お客様を連れていくことができる唯一無二のツアーを目指しています。

 他社催行のツアーと比べZenbu Toursの強みはどのような点にあるのでしょうか。

長く日本に住んでいたこともあり、私自身が日本側と時間をかけて築いた関係を基盤にツアーを催行している事だと思います。ご存知のように、日本で深い信頼関係を構築するには長い月日を要します。ただ、一度そのような関係を築くことができれば、その方を起点にネットワークが一気に広がり、思いがけない場所や体験をツアーに盛り込むことが可能になります。私達のZenbu Toursは王道な観光スポットや体験を求めている方向けではなく、贅沢な時間を過ごしながら、日本のことを「深く」知りたいという方に向けて、提供しています。だからこそ、東京や京都に留まることなく、他の関西圏や九州、そして東北地方などにも足を伸ばし、まだまだ知られていない日本の魅力が詰まったツアーになるよう徹しています。

オーストラリアは空前の「和食ブーム」ですが、その影響はZenbu Toursにもありますか?

ゆっくりとした伸びは実感しています。有難いことに私達のツアーにはリピーターの方が多く参加いただいていることもあり、それも地方へと行き先を拡大しようと決めた要因のひとつでした。また、「口コミ」によって新しいお客様も増えています。中には、日本に全く興味がなかったけれど、以前Zenbu Toursに参加していたお客様のSNSを見て、申し込んだという方もいらっしゃいます。正直、私達のツアーは決して安くありません。だからこそ、ツアー中はできる限り多く場所をまわり、様々な文化体験をしてもらいます。他のツアーと比べると、自由時間は短いかもしれませんが、個人旅行では経験することができないような内容にしたいと思っていますし、お客様もそれを求めています。例えばそば打ち体験ならば、その背景にある歴史や文化、そこに携わっている現地の方との交流も促し、お客様にとって忘れられない旅になるよう努めています。

ここ数年、訪日旅行のトレンドはどのような変化があったと思われますか?

数年前まで、スキー体験がオーストラリア人にとって一番の訪日目的でした。しかし、最近では和食、特に日本酒への関心が高いですね。お客様にはオーストラリアで日本酒を嗜んだ時にはあまり惹かれなかったが、ツアー中訪れた料亭で出された日本酒の美味しさに感動し、生酒や古酒も試した方がいます。訪日をきっかけに、日本酒の虜となり、帰国後すぐに日本酒のソムリエ向けマスタークラスを受講、今では日本酒ビジネスを展開している知人もいます。お酒に関連して言うと、長野県のワイナリーを訪れた際、素晴らしいワインに何本も出会いましたので、近い将来、日本ワインの人気も出てくると思いますね。
食以外ですと、オーストラリア-日本間の新規路線が拡大することで、よりリーズナブルに航空券を買い求めることもできます。それに伴い、もっと日本を知りたいと訪日リピーター客が増えると思います。例えば、京都ならば新選組や合戦跡地巡りが今後、観光コンテンツとして成長するかもしれませんね。また、いくつかの地方自治体がインバウンド誘客に向けた取り組みとして、電車での旅を強く訴求していますので、これももっと認知されて欲しいですね。日本は小さい国ですが、各地で独自の文化が根付いており、簡単に国内を行き来することができます。そのうえ、各路線にはそれぞれの特徴そして魅力があり、日本の電車はただの「移動手段」ではなく、移動中も日本の日常体験ができると知ってもらいたいです。

 

 

インバウンド事業成功のために地方自治体や企業はどのようなことを実施すべきですか?

つい最近、インバウンド強化に努めているホテルに滞在したのですが、まだまだ改善すべき点があると思いました。ただ英語を話せるだけでなく、様々な国の文化を学び、深い理解をしている人をスタッフとしてもっと配置すべきですね。時として外国人宿泊客は、日本人客と異なるリクエストをすることがあります。そのような要望に曖昧なこたえをするのではなく、最適な決断を瞬時に考え、対応するスキルが必要です。相手を気遣って、物事を強く言いたくないという国民性もあるのかと思うのですが、時にそれが外国人にとってフラストレーションを感じることがあります。畳に地べたで座ることが慣れていない外国人が多いので、椅子なども必要ですね。また、どんなに素晴らしい場所でもアクセスするのが困難であれば、集客は難しいので、交通環境の整備も実施しなければいけませんね。

JETROや数々の地方自治体からFAMツアーに招聘されていますが、改善点などがあれば教えてください。

地方自治体によっては、外国人を誘客するために、すでに確立している観光地や名産物に固執しすぎていると思うこともできます。もちろん、国内で強い観光コンテンツがあることは素晴らしいことですが、外国人には響かない可能性もあります。特に名産物単体でプロモーションするのは難しいかもしれません。日本は物流サービスが充実しているため、その地域にいなくても食べることができ、一時的な集客にはつながるかもしれませんが、観光客を引き付ける誘客力として長期的な持続は難しいと思います。観光関連団体の中には「外国人にはこれが魅力的だ」と決めかかっているように見受けられる時もありますが、その考えから一度離れてみて、私達の意見に委ねて欲しいのです。そのためにまずはその地域にどのようなスポットがあるのか、どのようなことをプロモーションしたいのかを事前に共有していただけたらと思います。私達もそれを基に事前調査をしっかりおこなって、現地に伺います。実は過去に詳しい説明も特になく、ただFAMトリップの旅程にのっとって、機械的に各地をまわるということがありました。これでは、その地域を深く知ることが難しいですし、オーストラリア人を集客するのに果たして適正かかどうかの判断をなかなかすることができません。できれば、ガイドさんと自由に動き回る時間も設けて欲しいです。そうすることで、今までの経験、そして外国人である視点もふまえ、どのような点が魅力的で訴求するのに値するのかを発見することができます。もちろん、各地域でインバウンド需要を取り込みたいコンテンツを独自で持っていると思います。ただ、必ずしも国内で成功していることに外国人が惹きつけられるとは限りません。固定概念を捨て、一度まっさらな状態から検討してみるのも効果的ですね。もしかしたら、その地域に長年住んでいるからこそ気付かない「その地特有の魅力」を外国人の私達だからこそお伝えできるのかもしれません。

和訳:山田 枝恋
文:臼井 佑季

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