シドニーで8月31日、「ワールド・マラソン・メジャーズ(旧:シドニーマラソン)」が開催された。今年の大会から、世界の主要なマラソン大会で構成される世界6大マラソンシリーズ「アボット・ワールド・マラソン・メジャーズ(Abbott WMM)」へと昇格した本大会。オーストラリア最大のマラソン大会として記録的な成功を収めた2024年に続き、過去最多の約3万5000人のランナーが参加した。世界で最も権威あるマラソン大会の仲間入りを果たしたことで、向こう3年間のNSW州内の観光消費は7,300万豪ドル(約70億2000万円)増加するとの試算もある。
昇格後初の記念すべき優勝者は、男子がハイレマリアム・キロス選手(エチオピア)、女子が昨夏のパリ五輪を制したシファン・ハッサン選手(オランダ)。フルマラソンで史上初めて2時間を切ったケニアのエリウド・キプチョゲ選手もランナーとして参加し、シドニー開催のマラソン大会としては2000年のシドニー五輪以来、最も期待できる大会と注目されていた。
本大会は「シドニーマラソン」の時代から「名古屋シティマラソン」と姉妹マラソン関係を結んでおり、毎年相互に代表ランナーを派遣し、スポーツを通した両市の交流を図っている。
今年は「名古屋シティマラソン 2025」にて優秀な成績をおさめた大野雄揮さんと鈴木ちひろさんが、名古屋市から派遣され、市代表ランナーとして出場。大野さんはフルマラソン、鈴木さんは10kmマラソンにそれぞれ出場した。大会翌日にシドニー市庁舎を表敬訪問し、Robert Kok市議と面会した。
2012年に姉妹マラソンを提携して以来、名古屋市とシドニーはお互いの都市大会の成績優秀者をもう一方の大会へと派遣してきた。昨年までに本大会の開催にあわせて10回の交流が続いており、2025年の今年は姉妹友好都市45周年の節目を迎える。
シドニー市庁舎を訪問した大野さんと鈴木さんは、名古屋市に縁の深いKok市議から温かな歓迎を受けた。今回の表敬訪問を祝い、市代表ランナー二人とKok市議のコメントを掲載する。
大野雄揮さん(男子フルマラソン 3分53秒)
「マラソンを始めたのは、中学校の時に所属していた野球部の練習がきっかけです。野球があまりにも下手で、三振して『走ってこい』、エラーして『走ってこい』という感じでよく走らされていました。『あいつ、走るのだけは上手くなってきたな』と言われるようになり、走り始めました。高校1年生から本格的に長距離走を始め、以来ずっと続けています。今年で33歳になるので、18年間走っていることになります。
国際大会に参加するのは今回が初めて。国内との直接的な比較は難しいですが、完走できたことを嬉しく思っています。国内ではハーフマラソンを何度も走ってきましたが、オーストラリアの大会は、速く走る人もゆっくり走る人もいて、勝負を楽しむというより、大会そのものを楽しむという雰囲気をとても強く感じました。これまでわりとシリアスに競技に取り組んできましたが、今回参加して楽しむマラソンというのも良いなと思いました。
途中、腰の痛みもありゆっくり走らざるを得なかったものの、走りながらドラゴンズの応援歌を口ずさんでいたんです。そうしたら、近くにいた現地の方が「Nice Singing!」と声をかけてくれて、面白かったし嬉しかったです。沿道の応援も力になりました。特に35km以降は膝の痛みで歩き始めてしまいましたが、「あと少しだから頑張れ!」と声をかけてもらって、もう一度走り出すことができました。
フィニッシュタイムは3時間51分01秒。フルマラソン自体が初めてだったので、これが自己ベストです。海外も今回が初挑戦でした。当初は「ハーフか10kmで出ないか」と言われたのですが、一生に一度あるかないかの機会だと思ってフルマラソンに挑戦しました。本当はもっと練習を重ねて、2時間20分くらいで走りたいという気持ちもありました。
今後について、ハーフマラソンはもっと力をつけたいと思っています。もともとトラック種目の経験があり短い距離の方が得意でしたが、逆にハーフは苦手意識があるので、そこを克服できたらまたフルに挑戦したいです。シドニーマラソンは本当に良いコースで、素晴らしい街でした。ぜひまた参加したい。2回目のフルマラソンもシドニーで走りたいなと考えています」
鈴木ちひろさん(女子10kmマラソン 42分)
「小学校のマラソン大会では、5年生までずっと2位だったんです。それが悔しくて『1位を取りたい!』と思ってクラブチームに入り、そこから陸上が好きになって今も続けています。高校は公立で、それほど強いわけではありません。長距離選手は自分ひとりしかいないので、男子と一緒に練習しています。
国内では高校の大会などに出ていますが、ロードレースにはあまり出たことがありません。今回のシドニーマラソンが初めて。普段はトラックレースが多いです。今回出ようと思ったのは、母がフルマラソンを走っている影響で。親子ランナーなんです。
シドニーのコースはアップダウンが激しくてきつかったですが、走りながら海やハーバーブリッジの上の景色を楽しめたのは良かったです。現地の人たちとの交流もあり、レストランなどでは日本語で話しかけてくださる方もいて、とても温かく迎えてもらいました。マラソン当日も沿道の声援が本当にすごくて、大きな力になりました。
今は10kmを中心に走っていますが、大学生になったら母のようにフルマラソンにも挑戦したいと思っています。一緒に走れたらいいですね。直近では、駅伝に出たい気持ちもあるものの、女子が一人しかいないのでチームを組めず、出場が難しい状況です。受験もありますし、一度は陸上から離れるかもしれませんが、大学に入ったらまた続けたいと思っています」
Robert Kok市議によるスピーチ
「歴史あるマラソンにお二人が参加されることは、とても意義深いこと。今年は非常に重要な節目の年であり、皆が大きなエネルギーと熱意を持って準備に取り組んでいます。お二人も名古屋を代表してここに立つことで、将来日本を代表する道を切り拓くことにつながると信じています。
今年は私にとっても特別な年です。というのも、姉妹マラソンプログラムを通じて17歳(鈴木さん)のランナーをシドニーで迎えるのは、今回が初めてのこと。会議室で名古屋との姉妹マラソン協定を締結した日を思い出します。シドニーと名古屋の姉妹都市関係は深く、動物園、マラソン、学生交流などさまざまな形で結ばれています。毎年、名古屋の学校から20人以上の学生を2週間受け入れており、これがさらに両市の絆を強めています。
私は2008年に市議会に初めて選出され、翌2009年には川村たかし市長率いる大規模な代表団とともに、シドニーと名古屋の姉妹都市関係30周年を祝いました。市議会で川村市長をお迎えした時のことも覚えています。市長が突然エルヴィス・プレスリーの歌を「I Love Sydney」と歌詞を変えて歌い始めるなど、忘れられない思い出です。両市の友情を象徴する出来事でもありましたね。
その後も、35周年や40周年(新型コロナウイルスの世界的蔓延のためオンライン開催)の節目を祝ってきました。そして今年、45周年記念日が近づいています。ハイドパークには名古屋ガーデンがあり、そこには私が川村市長と共に植えた木が今も元気に育っています。
私事ですが、妻は愛知県出身なので名古屋にはよく訪れます。訪問時にはひつまぶしを食べるのをいつも楽しみにしています。今回のシドニーマラソンへの参加を意義深いと述べましたが、このようにスポーツだけでなく文化理解や人々の絆を深めることにもつながるからなのです。シドニーは非常に多文化な都市で、世界でも最も多様性に富んだ都市のひとつ。さまざまな料理が楽しめますので、シドニー滞在中は日本食も含めていろいろな食事を楽しんでいただければと思います。日本食は現在シドニーで非常に人気があります。
今後の皆さまの数々のご活躍を心よりお祈りしております」