岡山県内の4つの酒蔵が連携したPRイベントと商談会が、10月9日、シドニー市内で開催された。
嘉美心酒造(岡山県浅口市)、三光正宗(新見市)、室町酒造(赤磐市)、板野酒造本店(岡山市)の4社は、それぞれ味わいの異なる酒を作る酒蔵だ。海外でも日本酒が浸透しきっていないオセアニアをはじめとした海外市場の開拓に動き出し、今回はメルボルンとシドニーの計4箇所で共同展示会に出展した。
連携の背景には、「1社では参加できないイベントにも動いていくことができる」点があるという。日本国内の日本酒市場が縮小傾向であることや、近年の世界情勢の混乱を受け、リスク分散と輸出先の多角化を図る。4社一体となって動くことで、現地の要望への幅広い対応や、「岡山の酒」としてのブランディング化などを進めることが可能になる。
三光正宗株式会社 代表取締役 宮田恵介氏
三光正宗の代表取締役である宮田恵介氏は、今回の4社連携のイベントについて「これまでは米国や東アジア、ヨーロッパなどが輸出先でしたが、オーストラリアも日本酒にとって非常に魅力的な市場だと思っています。これまで十分に紹介できていなかった岡山の酒を、もっと広く知っていただきたいという思いから参加しました」と語る。日本酒は国内で消費量や製造量も減少傾向にあるものの、ここ数年、海外で評価が高まり輸出量も非常に伸びている。2013年に「和食」が、2024年には「伝統的酒造り」が世界無形文化遺産に指定されたことも大きな要因だろう。
酒造4社は、今年8月上旬にキックオフ会議を開き、今年度はオーストラリア市場に自社の日本酒を売り込むことを決定。10月に現地の展示商談会や現地飲食店でのイベントに積極的に参加する運びとなった。今回のオーストラリア訪問での現地輸入業社や飲食店との交渉は、今後のニュージーランド参入への足がかりとしても期待される。
「私たち4社は、岡山県内でも微妙に地域が離れており、それぞれ味に特徴のあるチームを組んでいます。共同出展することで、互いの弱みを補い合いながら日本酒を紹介できますし、4社それぞれが2銘柄ずつ持ち寄ることで、合計8種のお酒がすべて異なるバリエーションとなります。オーストラリアは日本食文化が非常に発展していると感じました。私たちはさまざまな国へ足を運んでいますが、その中でも日本食が浸透している地域のひとつだと思います。今回のイベントは、地域によって味わいが大きく違う岡山の日本酒の魅力を知っていただく非常に意義深い場となったと考えております。実際に、みなさまから『岡山のお酒は面白い』と評価していただきました」
また、宮田氏は今後の展望について、「オーストラリア市場では、地域ごとの個性に合った飲み方も提案しながら、これまでの日本酒のイメージとは少し違う楽しみ方を知っていただけるよう、お酒の提案だけでなく飲み方も含めた提案をしていきたい」と述べた。
三光正宗の日本酒は海外では香港、フランス、台湾を中心に高い評価を得ており、国や地域に合わせて少量サイズを販売するなど、現地の人々がより手軽に日本酒を楽しめる形を常に模索している。また、日本の酒蔵の中には海外市場向けに味を調整する中、同社は、地元の文化や風土が生み出す味わいをそのまま届けることを大事にしてきた。
「私たちの岡山の酒は、ひとつの味だけではありません。岡山県の酒の特徴の一つに、「雄町米」に代表される特別なお米を使用している点が挙げられます。雄町米の90%以上が岡山県で栽培されており、こうした特別な酒米で造られたお酒があります。さらに、山間部の清流や恵まれた自然環境が生み出す、旨味と深みのある味わいも魅力です。 かつて岡山には、「備中杜氏」と呼ばれる、戦前最大級の杜氏集団のひとつが存在しており、優れた杜氏が数多く活躍していました。現在ではその数は少なくなりましたが、彼らの技と心を受け継ぎ、贅沢にお米を使って旨味のある酒づくりを続けています。そうした伝統と環境に育まれた“旨味のある岡山の酒”を、オーストラリアでも届けていきたい」
4社の目指すところとして、海外展開において、日本酒を販売するだけではなく岡山の自然や文化の魅力を一緒に伝えることが肝要となる。三光正宗ではこれまでも「岡山の酒」を手に取った現地の人々が地元に興味を持ち、酒蔵体験ツアーなど岡山の訪問へとつながった経験から、この挑戦が地元に新しい風を吹き込み、人々が集う場を創出できると確信している。
酒造4社は、将来は南米への販路拡大も見据え、その国々の需要を取り込みながらも地元で取れた米を使い、酒の醸造まで県内で完結できる岡山の酒の地域性を訴求していく。4社は遅くとも年度末までにはオーストラリアへの日本酒の輸出をスタートする計画だ。