By SCP編集部 in ツーリズムデータ | 各国のインバウンドの違い
2012年より訪日観光客数が年々増加する日本。その多くはアジア圏からの観光客です。なかでも訪日観光客数が多い国は、「中国」「韓国」「台湾」。日本政府観光局(JNTO)の統計データによると、この3カ国が11年連続で1位から3位を占めています。
特に韓国は、2015年の「爆買い」現象以降、訪日観光客数が全体で40.3%と大幅に成長しています。
一方、オーストラリアは、滞在期間が長い、マナーが良いなどの理由から、近年重要な地域として認識されはじめている国です。訪日来客数はアジア諸国と比較するとまだまだ少ないですが、2018年4月から6月の1人あたりの旅行総支出額が264,327円と、上記3カ国を抜いて1位にランクしています。インバウンドターゲットとして非常に魅力的かつ期待度が高い国です。
それでは、韓国とオーストラリアのさまざまな違いをみていきましょう。
過去10年間の訪日観光客数や消費額、消費動向などを通して、韓国とオーストラリアの訪日観光関連のデータを比較しました。
訪日観光者数
過去10年間の訪日来客数の比較
出典:https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/since2003_tourists.pdf
これは、2008年から2017年までの訪日オーストラリア人と韓国人のそれぞれの来客数を比較したものです。
どちらも、2009年の世界的な金融危機やインフルエンザの流行、2011年の東日本大震災により観光客数が落ち込みましたが、それ以外は両国とも着実に増えています。
訪日韓国人数は、2015年の「爆買い」現象以降大幅に増加し、2017年には過去最多の714万人に。年々着々と増え続ける訪日オーストラリア人数も、同年過去最多の49.5万人を記録しました。
性年代別で見る違い
次は、訪日韓国人と訪日オーストラリア人の性年代別における違いです。
2016年のデータを基に性年代別の両国の訪日旅行者をまとめました。
訪日韓国人は、20代が大多数を占めており、特に20代の女性に大人気です。年齢が上がるにつれ減少傾向にあり、50代以上からは大幅に減っています。
訪日オーストラリア人も男女ともに20代の若い世代が多数訪れていますが、訪日韓国人とは違い、どの年代も男性観光客の方が多く、年齢層が高くなっても訪日客が一定しているのが特徴です。
滞在期間
続いて、訪日オーストラリア人と訪日韓国人のそれぞれの滞在期間を比較します。
出典:https://statistics.jnto.go.jp/graph/#graph–length–of–stay
上記は、2017年に日本を訪れたオーストラリア人と韓国人のそれぞれの滞在期間を比較したものです。
訪日韓国人旅行者は4~6日間の滞在が圧倒的に多く、日本からの距離が近いこともあり3日以内など短期間での旅行の割合が高くなっています。
一方、オーストラリア人旅行者は、距離や渡航時間が長いことなどから3日以内の旅行者はほぼおらず、一般的に1週間以上あるいは2週間以上と長期滞在しています。
韓国人のように渡航時間が短く、簡単に訪日できるという点ではインバウンド消費が期待されますが、オーストラリア人のように長期間の滞在は宿泊代や飲食代などの消費が増し、さらに観光やレジャー目的で訪れる人が多数いることから、インバウンドマーケティングへの貢献が注目されます。
滞在地域
それでは、訪日韓国人と訪日オーストラリア人の滞在地域をみていきましょう。
訪日韓国人の観光先ベスト3は「近畿」「九州」「関東」といった主要都市部がある地域。続いて日本有数の観光地エリア「沖縄」や「北海道」でした。また、訪日韓国人は、日本のさまざまな地域に訪れる人が比較的いるため、地方観光地の魅力をアピールすることで需要を生み出し、今後のインバウンド成長に期待をもつことができます。
訪日オーストラリア人の観光先は「関東」が70%以上と飛び抜けており、次に認知度の高い「近畿」、続いて「北海道」や「北陸信越」などのスノーリゾートエリアに人気が集まっています。また、「中国地方」へ行く人の割合も意外と高く、オーストラリア人が日本の文化・歴史への強い興味や関心を持っていることがうかがえます。
しかし、それ以外の地方観光地への訪問率が極めて少ないことから、訪日オーストラリア人に認知されている日本の観光地は限られており、そのほかの地域には足を運びにくいという現状が読み取れるでしょう。
この2つのデータを比較すると以下の要素が考えられ、今後の課題が現れてきます。
- 「四国」「九州」「沖縄」といった西日本方面への訪問率が断然に低いこと
- 主要都市やスノーリゾート以外のインバウンド対策が必要なこと
- 訪日韓国人観光客のように地方観光地への訪問率を上げること
都道府県別
次の表は、訪日韓国人と訪日オーストラリア人が具体的にどの都道府県に訪れているかを上位7位までまとめたものです。
オーストラリア人 | 韓国人 | ||||
---|---|---|---|---|---|
順位 | 都道府県 | 訪問率(%) | 順位 | 都道府県 | 訪問率(%) |
1位 | 東京都 | 84.2 | 1位 | 大阪府 | 31 |
2位 | 千葉県 | 77.4 | 2位 | 福岡県 | 26.7 |
3位 | 京都府 | 47.2 | 3位 | 東京都 | 23 |
4位 | 大阪府 | 44 | 4位 | 京都府 | 16.5 |
5位 | 広島県 | 18.4 | 5位 | 千葉県 | 14.3 |
6位 | 長野県 | 17.1 | 6位 | 大分県 | 11.2 |
7位 | 北海道 | 11.4 | 7位 | 沖縄県 | 8.5 |
出典:出典:日本政府観光局(JNTO)
オーストラリア人の訪日先は「京都府」や「広島県」といった日本の文化や歴史、景観などを楽しめる日本独特の観光スポットが上位にランクイン。「長野県」や「北海道」などのスノーリゾートも訪問率の高いエリアとなっています。
一方、韓国人観光客には「大阪府」「福岡県」「東京都」といった都市部への訪問率が高く、主にショッピングを楽しむようです。また、「大分県」や「沖縄県」など、地理的に近い場所にも人気が集まっています。
*上記のデータは2016年度のものです。
1人当たりの旅行支出額と消費項目(円)
順位 | 国籍 | 総額 | 宿泊費 | 飲食費 | 交通費 | 娯楽などサービス費 | 買物代 | その他 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1位 | オーストラリア | 264,327 | 106,918 | 64,127 | 40,842 | 12,848 | 38,986 | 605 |
2位 | スペイン | 243,743 | 90,021 | 76,544 | 39,893 | 6,850 | 30,435 | 0 |
3位 | 英国 | 218,944 | 101,330 | 56,465 | 31,670 | 5,104 | 24,303 | 71 |
4位 | 中国 | 209,951 | 41,346 | 37,714 | 15,041 | 6,557 | 109,120 | 172 |
︙ | ︙ | |||||||
21位 | 韓国 | 69,221 | 22,132 | 18,732 | 6,374 | 3,795 | 18,143 | 45 |
全国籍・地域 | 144,082 | 42,107 | 33,495 | 15,415 | 5,148 | 47,805 | 112 |
出典:http://www.mlit.go.jp/common/001245491.pdf
上記は、訪日旅行客の1人あたりの旅行支出額(2018年4-6月)をまとめたものです。
訪日韓国人は1人あたりの旅行支出額が統計の21カ国中最下位の約7万円。滞在日数が短いことから、宿泊にかける費用が他国と比較して最も低く、主に飲食とショッピングにお金をかける傾向があります。
反対に、訪日オーストラリア人は1人あたりの旅行支出額がトップ。日本滞在中に総額26万円を費やし、なかでも「宿泊費」におよそ10万円と多額をかけていることは注目に値します。これは、全国籍平均42,000円の2倍以上となる金額です。
また、約13,000円の「娯楽・サービス費」も全国籍と比較しても最も高く、オーストラリア人は「アクティビティ好き」「旅行にかける費用を惜しまない」といった点がよく表れています。
滞在期間が長いことを受け、訪日オーストラリア人向けに「日本らしさ」を提供できるホテルや旅館などの宿泊業界によるプロモーションが、今後のインバウンド誘致において着目すべきポイントでしょう。
年間で見る1人あたりの消費額(億円)
順位 | 国籍 | 一人あたりの旅行支出(円/人) | 訪日旅行者数(万人) | 旅行消費額(億円) |
1位 | オーストラリア | 264,327 | 12.9 | 341 |
2位 | スペイン | 243,743 | 2.7 | 65 |
3位 | 英国 | 218,944 | 8.7 | 190 |
4位 | 中国 | 209,951 | 162.1 | 3,403 |
︙ | ︙ | |||
21位 | 韓国 | 69,221 | 187.6 | 1,298 |
出典:http://www.mlit.go.jp/common/001245491.pdf
既述したように、訪日オーストラリア人の1人あたりの旅行支出額は統計国中最多ですが、その最少支出額である訪日韓国人の「年間」の旅行消費額は、訪日オーストラリア人よりも断然多い1,298億円です。これは、年間旅行消費額341億円のオーストラリアの3.8倍にも及びます。
このデータから、「安さ」を重視する訪日韓国人は、1人あたりの旅行支出額が少ないですが、訪日する人数とリピーター率でこの数値をカバーしていることが分かります。インバウンドターゲットとして魅力的な国となるのは当然でしょう。
相反して訪日オーストラリア人は、リピーター率が少なく、年間でみるとインバウンドの伸び率は低め。積極的なプロモーション活動により、認知拡大を図る必要があります。
訪日旅行を希望する理由とは?
順位 | 韓国人 | オーストラリア人 |
---|---|---|
1位 | 日本食に関心があるから(52%) | 日本の文化・歴史に関心があるから(50%) |
2位 | 日本の温泉に関心があるから(51%) | 日本食に関心があるから (49%) |
3位 | 渡航時間が短いから(43%) | 日本の風景や自然に関心があるから (46%) |
4位 | 日本の風景や自然に関心があるから (38%) | 治安がいいから (38%) |
5位 | 治安がいいから (28%) | 日本人のライフスタイルに関心があるから(37%) |
出典:https://www.dbj.jp/ja/topics/region/industry/files/0000028801_file2.pdf
これは、訪日旅行を希望する理由を韓国人とオーストラリア人で比較した表です。
どちらも共に「日本食への関心」が訪日旅行をするきっかけとして上位に入っており、「日本の風景や自然」に高い関心を寄せていることがうかがえます。
韓国人は、渡航時間が短いなど物理的な好条件での訪日が多数。この「安い・近い・安全」という利点は、訪日リピート者の数にも大いに関係しています。
そして、オーストラリア人の訪日旅行は、日本の文化、歴史、食、ライフスタイルや風景など、「日本らしさ」を求めて旅をすることが分かります。日本の各地には、こうした観光スポットが点在するでしょう。そのため、それぞれの地域がもつ特色や魅力を強化することで、オーストラリア人を呼び込むことも可能です。
買い物場所は?
では、訪日韓国人と訪日オーストラリア人はどこで買い物をするのでしょうか。
グラフから分かることは、「コンビニ」はどちらの国の人々も多数利用するということ。そして、韓国人の買い物の特徴は、「空港の免税店」「ドラッグストア」など、比較的低価格で物を販売する場所に人気が集中しています。一方、オーストラリア人の買い物は、「百貨店」「観光地の土産店」「スーパーマーケット」などの割合が高く、値段に関わらず、日本でしか手に入らないような品物を求めているという結果でした。
リピーター
訪日韓国人と訪日オーストラリア人に見られるリピーターとはどういう人たちなのでしょうか。韓国とオーストラリアの立ち位置を明確にするために、まず全国籍との比率をみてみます。
出典:https://www.travelvoice.jp/20180403-108446
これは、2017年の訪日リピーターを国籍別・地域別に比較したものです。近隣4カ国のうち韓国が全体の30%を占め、約370万人が日本に再び訪れています。反対に、オーストラリア人のリピーターは1%。とても少ない割合です。
では、訪日韓国人と訪日オーストラリア人のリピート率の詳細をみてみましょう。
リピート率
出典:出典:日本政府観光局(JNTO)
訪日韓国人は、地理的にも近いという点に加え、近年の格安航空会社(LCC)による新規就航や増便などが功を奏し、リピーター率が60%以上と著しい成果を生み出しました。
一方、訪日オーストラリア人のリピーター率は低く、初訪日以外の割合を合わせても35%、10回以上訪日している人はわずか1%でした。
しかし、訪日オーストラリア人は旅行総支出額が非常に高いため、今後訪日オーストラリア人のリピーターを増やすことを視野に入れてプロモーションすると、インバウンドの増加が見込まれるでしょう。
まとめ
今回は、日本政府観光局(JNTO)の資料をもとに、訪日韓国人観光客と訪日オーストラリア人観光客を比較し、インバウンド成長につながる要点をご紹介しました。
訪日韓国人観光客の特徴と比較して見出したことは以下に。
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訪日オーストラリア人には、スノーリゾートや東京・京都などの観光地以外、つまり、地方観光地における認知度が極めて低く、さまざまなアクティビティや地方に存在する観光地のプロモーションに取り組む必要がある。
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訪日韓国人は、訪日数の増加と1人あたりの旅行支出額の減少が反比例しているが、これはリピーターでカバーされている。一方、訪日オーストラリア人は、来客数と旅行支出額が共に増えている。そのため、今後のインバウンド市場としてオーストラリアは有効なターゲット国である。
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若い世代の訪日者が多い韓国人とは違い、訪日オーストラリア人は、全年齢層からの旅行者が多数。この特徴を活かし、どの年代でも楽しめる訪日旅行のプロモーションを展開することでリピーターを増やし、インバウンドのさらなる増加が期待される。
この情報がインバウンド事業の一助になると幸いです。