By SCP編集部 in ツーリズムデータ | 各国のインバウンドの違い
2015年の「爆買い」現象を境に、アジア圏からの訪日観光客数が増加しましたが、近年では欧米豪圏が日本のインバウンド市場にとって重要な位置付けとなっています。
特にオーストラリアは、訪日観光客数が2012年以降着実に増加しており、1人当たりの旅行支出額も全国籍の2倍以上と高い支出額の国。日本の経済成長にも貢献できるという点では、とても大きな存在です。
一方、アメリカからの訪日客数は2015年から急増し、欧米圏ではトップを占めるまでに至りました。また、1人当たりの旅行消費額も全国で高い割合を占め、訪日アメリカ人によるインバウンド消費の拡大は順調であると言えます。
今回は、訪日旅行に関する項目でそれぞれトップに位置する、訪日オーストラリア人と訪日アメリカ人のデータを比較し、違いをみていきます。
訪日観光者数
まずは、アメリカ人とオーストラリア人の訪日観光客数からみていきましょう。
2014年〜2017年までの訪日観光客数推移
アメリカからの訪日客数は2015年以降に急激に増加し、2014年から比較すると20.3%成長しています。また、2017年には過去最高の1,374,964人を記録。伸び率はとても順調です。
同じく、オーストラリアからの訪日客数も年間着々と増えており、訪日アメリカ人同様、2017年には過去最高の495,054人を達成しました。
性年代別比較
次に、2016年の訪日アメリカ人と訪日オーストラリア人を性年代別でみていきます。
訪日アメリカ人は、男性が全体の60.4%と女性よりもはるかに多いことが分かります。
訪日オーストラリア人も男性が多く、訪日アメリカ人と同様でした。しかし、オーストラリアからの訪日者は、どの年齢層も男性の方が多いというだけで、男女比にあまり違いがありません。
両国とも20代の若い世代がそれぞれの割合の半分を占め、年齢が上がるに連れ減少傾向です。
年齢や性別はインバウンドプロモーションにおいて、ターゲットを絞るときの重要な要素のひとつ。観光地でのアクティビティやグルメメニューなどの商品づくりにも役立つデータです。
滞在期間
続いて、訪日オーストラリア人と訪日アメリカ人の日本での滞在期間を比較します。
日本との距離があるため、2カ国とも1週間以上の滞在が多いことが特徴です。
訪日アメリカ人は、「7日~13日間」の滞在が50.5%と1番多く、次に「4~6日間」と「2週間~20日間」の滞在がどちらも約18%となっています。
対して、訪日オーストラリア人は「7~13日間」と「14~20日間」滞在がどちらも約40%であり、平均すると「1週間以上3週間未満」という長期滞在がオーストラリア人の傾向となります。
また、日本に3日以内のみ滞在する訪日者はオーストラリア人が2.1%のみに関わらず、アメリカ人は7.3%と比較的多いこともひとつの特徴です。
滞在地
では、訪日オーストラリア人と訪日アメリカ人はそれぞれどこに滞在するのでしょうか。滞在先の上位ランキングをまとめました。
アメリカ人 | オーストラリア人 | |
1位 | 東京都 | 東京都 |
2位 | 京都府 | 京都府 |
3位 | 大阪府 | 大阪府 |
4位 | 神奈川県 | 北海道 |
5位 | 千葉県 | 長野県 |
出典:http://www.mlit.go.jp/common/001179486.pdf
滞在先の第3位までは、アメリカとオーストラリアともに順番も同じ「東京・京都・大阪」のメイン都市。
続いて、訪日アメリカ人は「神奈川県」「千葉県」といった関東圏の人気観光地へと旅を選定しています。一方、ウィンタースポーツ好きのオーストラリア人は、スキー・スノーボードを楽しめるエリアの北海道や長野県が4位、5位と続きました。
滞在先により、オーストラリア人とアメリカ人の訪日目的の傾向がはっきり分かります。これは、プロモーションを展開する際のヒントとなるでしょう。
1人あたりの消費額と消費項目(円)
次の比較は、訪日オーストラリア人と訪日アメリカ人の1人当たりの消費額と消費項目です。
(円) | 旅行支出総額 | 宿泊料金 | 飲食費 | 交通費 | 娯楽/サービス費 | 買物代 | その他 |
米国 | 171,418 | 70,707 | 41,137 | 27,856 | 5,427 | 26,111 | 180 |
オーストラリア | 246,866 | 99,802 | 51,202 | 40,169 | 17,957 | 37,587 | 150 |
全国籍・地域 | 155,896 | 42,182 | 31,508 | 17,838 | 4,725 | 59,323 | 320 |
出典:http://www.mlit.go.jp/common/001179486.pdf
全体的に見ると、訪日アメリカ人と訪日オーストラリア人のどちらも1人当たりの旅行支出総額は全国籍・地域と比べて高く、特に宿泊料金、交通費、娯楽/サービス費は、どれも全国籍・地域よりもはるかに多いことが特徴です。
2カ国とも「宿泊料金」の割合が全体の消費項目の4割前後と高い割合であり、訪日アメリカ人と訪日オーストラリア人は、宿泊先に多額をかけると言えるでしょう。
また、交通費に着目してみると、2カ国とも1回の旅行でさまざまな場所を訪れていることが分かります。この傾向は、各地域の魅力をプロモーションしオーストラリア人に届けることで、オーストラリア人が日本の各地を訪れる可能性が大きいことを示しています。インバウンド事業を手がける団体としては見逃せない情報です。
1人あたりの消費動向
訪日者の消費動向を把握することで、インバウンドプロモーション実施を的確に推進できます。
それでは、アメリカ人とオーストラリア人が考える日本旅行とはどのようなものでしょうか。2017年に発表されたアンケート結果をもとに、旅マエから旅アトのことをまとめてみました。
今後旅行したい国
行ってみたい国 | |||
アメリカ人 | オーストラリア人 | ||
1位 | オーストラリア(45%) | 1位 | アメリカ(58%) |
1位 | イタリア(45%) | 2位 | カナダ(54%) |
1位 | フランス(45%) | 3位 | ニュージーランド(53%) |
4位 | イギリス(44%) | 4位 | イギリス(45%) |
5位 | 日本(43%) | 5位 | 日本(44%) |
6位 | ドイツ(42%) | 6位 | フランス(43%) |
出典:https://www.dbj.jp/ja/topics/region/industry/files/0000028801_file2.pdf
こちらは、アメリカ人とオーストラリア人の今後旅行したい国のランキングです。アメリカ人とオーストラリア人の両方とも、日本は第5位にランク。アジアの旅行先としては、どちらの国でもトップの座にいることから、日本旅行への人気がうかがえます。
日本旅行をする際の不安材料
次に、訪日アメリカ人と訪日オーストラリア人が抱える不安点をまとめました。
日本旅行をする際の不安材料 | ||
アメリカ人 | オーストラリア人 | |
1位 | 言葉が通じるかどうか不安(38%) | 言葉が通じるかどうか不安(39%) |
2位 | 渡航費用が高い(35%) | 滞在費が高い(34%) |
3位 | 滞在費が高い(33%) | 渡航費用が高い(28%) |
4位 | 日本に行くまでの時間がかかり過ぎる(22%) | 地震が起こるかどうか不安(18%) |
5位 | 公共交通機関の利用方法やネットワークが分からない(18%) | 公共交通機関の利用方法やネットワークが分からない(17%) |
出典:https://www.dbj.jp/ja/topics/region/industry/files/0000028801_file2.pdf
両国とも同じような不安を抱えていることが分かります。1番の不安要素は「言葉が通じるかどうか不安」ということ。つまり、オーストラリア人もアメリカ人も日本の英語対応を心配しています。
ここ数年で外国人観光客の往来が急増し、英語表記の取り入れや外国語を話せるスタッフの増員などの取り組みが全国的に進められていますが、日本はまだ「英語が通じない国」という印象が強いようです。
次に、「移動距離」「渡航及び滞在費用」といった点が、日本を旅行する際の壁となっています。また、「公共交通機関の利用方法やネットワークが分からない」といった「よく知らない」という点も改善ポイント。リピーター率を上げるためには、これらに対してなんらかの対策を講じる必要があります。
こうしたポイントを理解し、外国人旅行者の視点に立って旅マエの整備に取り組むことが重要でしょう。ただし、プロモーションには多少期間を要すため、整備と同時にプロモーションは実施することをおすすめします。特に異国の地に働きかけるインバウンド事業は数年というスパンで取り組む必要があります。
実際の旅行中の不満点
日本旅行を考慮する際の不安材料は、主に「言語」「渡航及び滞在費用」などでしたが、実際に日本へ訪れたときに抱える不満な点は訪日アメリカ人も訪日オーストラリア人も異なる結果でした。
下記では、外国人観光客が日本滞在中に抱える不満要素をまとめています。
アメリカ人 | オーストラリア人 | ||
1位 | 有名な史跡や歴史的な建築物の見物 | 1位 | 旅行代金 |
2位 | 自然や風景の見物 | 2位 | 英語の通用度 |
2位 | 近代的、先進的な建築物の見物 | 3位 | 近代的、先進的な建築物の見物 |
2位 | 繁華街の街歩き | 3位 | 自然や風景の見物 |
5位 | 桜の鑑賞 | 3位 | 日本の酒 |
出典:https://www.dbj.jp/ja/topics/region/industry/files/0000028801_file2.pdf
アメリカ人に人気の観光地は主に主要都市がメインであるため、英語対応が進んでいるところが多く、旅マエにかかえていた英語の通用度は実際に訪れると不満ではなかったと感じる人がそれほど多くありませんでした。比較すると、訪日オーストラリア人の不満点第2位は「英語の通用度」。英語でのコミュニケーションが取れないことに不満が大きく、改善を求める人が多いことがわかりました。
両国に言えることは、訪れた歴史的・近代的な建造物、自然や風景の見物の際での不満が多数となったことです。
特にオーストラリア人が感じる、旅マエと旅アトの共通要素・言語の問題を打破するために、その場所での楽しみ方、作法や方法、していいこと&してはいけないことのルールなどが書かれた英語表記のパンフレットを用意することをおすすめします。訪日観光客にそれを渡すだけでなく、パンフレットを広げて「ここを読んでください」と指差しで伝えてあげることは、サービスの一環でもあるでしょう。こうしたことが、海外から絶賛される日本のおもてなしのひとつではないでしょうか。
リピーター
ここでは、訪日アメリカ人と訪日オーストラリア人に関して、初訪日後に日本に再び訪れるリピーターを比較します。
以下のグラフは、リピーター率を分かりやすくするために初訪問、2~9回目の訪問、10回以上の訪問に分けました。
訪日アメリカ人、訪日オーストラリア人ともにリピーター率が約30%と少ないのが現状です。そのため、リピーターを増やす商品づくりとプロモーション展開が必要となります。
特に10回以上日本へ訪れるヘビーリピーター率は、アメリカ人が4%を超えているのに対し、オーストラリア人は2%も満たしていません。
オーストラリア人はスノーリゾートによく訪日することから、スキー・スノーボード以外にも楽しめるアクティビティを発見、または作り出し、推進することが求められます。また、「日本らしさの体験」が好きなオーストラリア人に魅力ある“体験”を生み出すこともアイディアです。
リピーター確保に向けたプロモーション展開も視野に入れ、インバウンドプロモーションに力を入れていく必要があります。
日本旅行/次回の訪問に期待すること
最後に、アメリカ人とオーストラリア人が日本旅行に期待することを、2カ国合わせ、「訪日経験あり」と「訪日経験なし」でまとめました。
訪日経験あり | 訪日経験なし |
良い、安価な旅行のオトクな情報 | 低価格 |
ハイエンドショッピング | 合理的な値段のパッケージ |
新しい魅力 | 価格が安ければ |
2020年オリンピック | 食物アレルギーへの対応 |
日本文化を紹介するイベントやアトラクション | 高級ホテル&スパ |
無料の早いWi-Fi | レンタカーの利用しやすさ |
ベジタリアン料理を簡単に見つけられる |
出典:https://www.dbj.jp/ja/topics/region/industry/files/0000028801_file2.pdf
訪日経験者で、次回の日本旅行に期待することは「新しい発見・体験」など、日本の新しい魅力を知りたいという意見から、リピーターは新たな場所を見つけたり、新しいアクティビティを体験したいという気持ちが強いことが分かります。
一方、日本にまだ訪れたことがない人は「低価格志向」を求める人が多く、続いてアレルギーやベジタリアン料理などの「食」に関する改善を期待する声でした。
新規訪日者に向けて、あるいはリピーターに向けて、どちらのインバウドプロモーションを展開するかで、戦略に取り入れたい要素が変わってきます。もちろん、どちらもターゲットとしたプロモーション展開も可能です。
まとめ
近年、日本は欧米豪圏からの人気旅行先として非常に注目されています。
外国人観光客の訪日数の記録を毎年更新し続け、英語での表記や外国人観光客向けの対応が増えている反面、旅マエの日本旅行への戸惑いや実際の旅行中の不満点など、改善に向けての課題はまだまだあります。
「言語」「移動距離」「渡航及び滞在費用」「よく知らない」といった点の適切な改善や、プロモーション方法に工夫を凝らすことで、外国人観光客のさらなる取り込みに成功するでしょう。また、日本のおもてなしというサービスに関して、海外からの評価も上がり、訪日者数のアップとなるでしょう。そして、一人当たりの旅行支出額が多い訪日オーストラリア人、訪日アメリカ人に対するインバウンドプロモーションを強化することで日本のエコノミーにも効果をもたらします。
こうした改善に大事なポイントは、外国人の視点に立ってニーズや不満などの解決に取り組むこと。それらがインバウンド消費拡大への大きな貢献となるでしょう。
オーストラリアでのインバウンドプロモーションに関するご不明な点やご質問などございましたら、お気軽にお問い合わせください。