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インバウンドを読む#03 JETプログラム卒業生 ダリン・ハミルトン

By SCP編集部 in インバウンドを読む(インタビュー)

年々、外国人観光客が増加する日本。アジア諸国のみならず、アメリカやオーストラリア、ヨーロッパなどからも訪日する人が増えています。特に注目株は、毎年訪日者数を更新するオーストラリア。なぜなら、オーストラリア人の訪日旅行は「長期滞在」と「高い支出額」という傾向をもち、インバウンド事業者にとって魅力的なマーケットだからです。

オーストラリア国内でも、和食やアニメ、キティちゃんなど日本のキャラクターが話題を呼び、毎年12月には「Matsuri – Japan Festival –」と題して日本の祭りイベントも開催され、多くのオーストラリア人が“日本体験”を楽しんでいます。世界でも上位にランクされるほど日本語学習者が多いことも踏まえると、やはりオーストラリアはインバウンド対象国として最適といえるでしょう。

では、日本好きオーストラリア人の目に日本はどのように映っているのでしょう

そこで今回は、15年前にボランティア活動で訪日したことを機に日本が好きになり、旅行のみならず、仕事や交換留学、JETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)などにより幾度にもわたる訪日を経験、さらに「Matsuri – Japan Festival –」では流暢な日本語を駆使してステージMCを務めるなど、日本人以上に日本を愛するオーストラリア人のダリン・ハミルトンさんに、日本の魅力やオーストラリア人が好む訪日旅行などについて、インバウンドプロモーションのヒントとなるようなお話をうかがいました。

ダリンさんは、どのようにして日本を好きになったのでしょうか?

19歳のときにボランティア活動で初めて訪日しました。じつは、日本にはまったく興味がなく、知っていた日本語は「相撲」「忍者」「ポケモン」「ドラゴンボール」だけですから当然日本語は話せないし、とても不安だったんです。さらに15年前には日本に外国人がさほどいなかったため、珍しがられたし、英語が伝わる場所もほとんどありませんでした。でも、日本での生活が始まったら、それはそれは楽しくて仕方がなかったですよ!

僕が派遣された場所は関東地方や長野県で、どちらかというと「地方」と言われる地域。最初は茨城県古河市に行きました。外国人カードを発行してもらうために市役所に行ったら、大きな看板に「Alien Registration(宇宙人登録)」と書かれていて、そこに案内されたんです。それを見て、僕は人間だと思うんだけど宇宙人になってしまうのか?とア然としました。

当時は外国人カードにAlien(宇宙人)と表記されていたんですよ。だから、“宇宙人”として登録してきました(笑)。今は公共エリアなどさまざまな場所で英語表記があり、外国人カードも在留カードという名称に変わり、外国人がだいぶ生活しやすくなりましたよね。

当時の僕は、日本に対する知識がゼロだったために困ったことや驚くことも多かったですが、毎日新しい発見があり、毎日が冒険でした。どんな単純なことでも新鮮だったんです。電話で問い合わせをすれば「できかねます」と丁寧な日本語が返ってきたし、銀行での手続きやスーパーでの買い物も僕にとってはすべてが目新しかったです。そうした日々の体験から、徐々に日本を好きになっていきましたね。

ダリンさんが経験した日本の良さとはどのようなものでしょうか?

まず日本で苦労したことは「道」です。オーストラリアでは、どんな道でも名前があり、標識があります。でも、日本では道に名前がない。地名と丁目、番地だけでしょ。「2丁目3番地。この2と3はなんなんだ?」と、道に関してはチンプンカンプンでした。

そんな僕が感動したのが、日本人の優しさです。道を聞いたら、みんな、その場所に連れて行ってくれるんです。ほぼ毎回ですよ。オーストラリアではそんなことあり得ません。口頭で説明してくれますが、その場所まで連れて行ってくれる人はいない。

東京などの都会では、地方ほど多くありませんでしたが、それでもその場所まで連れて行ってくれた人はたくさんいます。googleマップもないし、スマートフォンもない時代ですから、こうした日本人の優しさに助けられました。

また、「この人を探しているんです」と話すと、その人の家まで連れて行ってくれ、「おーい、友達が来たぞー」と紹介してくれることにもビックリしましたね。オーストラリアでは、マイホームを持ってその地域に長く住んでいても隣に住んでいる人を知りませんからね。そして、地域でごみ捨て当番があったり、子供たちの登下校を地域のみんなで見守るというスタイルにも感動したのをよく覚えています。近所の大切さ、近所間の絆がどれほど深いかということを思い知らされました。

日本の魅力はどんなところにあると感じますか?

「おもてなし」です。それは間違いありません。サービスの質はどんな国よりも高い。訪日時はもとより、どんなときにも必ず歓迎してくれる気持ちがとてもうれしいです。オーストラリア人にとって日本は異国ですから困ることは多少あります。しかし、他国と比べたら断然に少ない。これも、日本人のおもてなしの精神のおかげだと思います。

そして、なんといっても日本はおもしろい! 海外旅行好きでいろんな国を旅している僕のおじさんも「日本は違う! 普通じゃない!」と言ってます。それは、日本のどの街にも同じようなモノがそろい、マクドナルドもスタバもある(笑)。オーストラリアは移民国家ですから、国内に日本人もいますし日本食もあります。しかし、訪日すれば日本人は多いし、和食屋さんがどこにでもあります。歌舞伎や神社もあり、大都会もあれば、古い町並みもある。日本人からしてみれば、ごく普通のことかもしれませんが、オーストラリア人にとってはどれも新鮮で楽しい光景なんです。

電車事情も興味深いですね。車内に人が多いことだけでなく、暗黙のルールがあるのに驚きました。例えば、山手線の場合は座ってる人、その前に立つ人、その後ろに立つ人のレーンがあり、ドア前の空間はごちゃごちゃゾーンで、各ドアの角に立っている人は「いい場所とったぞ」的な雰囲気でなかなかそこから動かない。

オーストラリア人からみたら「これは一体なんなんだ!」と最初は驚異でしたが、そんなところがおもしろいんです。だから、電車に乗るだけでひとつの体験として楽しむことができます。それから、肌露出の高い女性が掲載された表紙の雑誌を電車の中で読む人がいることにもビックリしましたよ。その雑誌は漫画だったりするんですが、「その表紙、恥ずかしくないの?」と思いました。

このように、とにかく日本は違う! そういったところが、日本の魅力だと思います。

JETプログラムでは、どんな活動をしていたのですか?

JETプログラムには、外国語指導助手、国際交流員、スポーツ国際交流員の3つの職種があります。僕は最初に訪日したときと違って、この頃には日本語が話せたので国際交流員として宮崎県に派遣されました。日本、しかも地方に長期滞在したかったので、配属先が決まったときはむちゃくちゃうれしかったですね。だから、仕事も充実し、休みには九州巡りをしていました。

 

具体的な活動内容は、子どもたちにオーストラリア事情を発信することと外国人の生活サポートです。小学校に行って、オーストラリア人のクリスマスやお正月の過ごし方、新聞記事を集めて今オーストラリアで話題になっていることなど、さまざまな角度からオーストラリアがどういった国なのかを紹介し、市内に住む外国人に対して翻訳や通訳をはじめ、新しく移住してきた人に小学校の制度や幼稚園・保育園の違い、その応募の仕方などを説明したりしていました。

地方ですから、子どもたちは外国人を見るのが初めてのようで、興味あふれんばかりの目で僕を見て、なんともいえない笑顔で迎えてくれるんです。たまらなく可愛かった! あのときの顔は一生忘れられませんね。住人の方も、最初は僕に対しての理解が乏しかったのですが、何度も顔を合わせるうちに慣れてくれたようで、「なんでそんなことするの?」という質問もなくなりました(笑)。僕をきっかけに外国人に慣れてくれ、新しく移住してきた海外の方も地域に溶け込みやすくなりましたよ。

ダリンさんは日本の「地方」経験が豊富ですが、オーストラリア人が訪日旅行で地方に行ったときにどんなことがあるとうれしいと思いますか?

今、地方に行きたいオーストラリア人は増えていると感じます。初の訪日旅行は、東京で都会を体験し和食を食べて、京都で文化の経験をするというパターンが多いと思いますが、2回目以降は温泉、相撲観戦など別の日本らしさを求めます。そんなとき、この地方ではこんなアクティビティや体験が楽しめると宣伝されていると、その場所での滞在を検討するでしょう。

個人的に体験して良かったのが、田植え。泥の中に入るなんて、オーストラリア人はほとんど経験したことがありません。日本はお米を大切にしていることを伝えて田植え体験させると、オーストラリア人にとってより意義深いものになると思います。そしてそのあと、布団をパンパンパンとはたき、その布団を和室に敷いて昼寝するというプランがあったら最高ですね。

また、僕は神楽と太鼓を習っていたので、お正月にお面をして神社の歴史を踊りで表現していました。オーストラリアの友人たちは、その踊りやお面に興味津々です。沖縄ではエイサーを教えていますが、日本各地でも神楽や太鼓、踊りを教えることができると思います。それから、オーストラリアでは今格闘技が人気で、友人は弓道や柔道を経験したいと言ってるので、武道体験もいいのではないでしょうか。

 

こうした日本の文化体験は、オーストラリア人にとってものすごくエキサイティングです。幼稚園や小学校などで伝統文化を教える課外授業などがありますが、オーストラリア人にも似たようなことをしてもらえたらうれしいですね。日本人であっても小さい子は日本のことを知りませんよね。オーストラリア人も同様ですから。

それから、地方は自然が豊かですから、それを利用した体験もオーストラリア人は大好きです。オーストラリアの隣国は自然の宝庫、ニュージーランドですが、日本の自然の美しさはニュージーランドのそれと変わらないと思うんです。

だから、今友だちに勧めているのは、和歌山県での2泊3日のトレッキング。和歌山県はハイキングが有名ですからね。そして、川でのカヌー遊びも最高。僕が四万十川でカヌーを漕いだとき、岸に鹿が現れ、空にはイーグルが飛び、まさに夢のような時間でした! 今もその光景を思い出すだけでワクワクしてきます。この日、川から上がったら、うどん屋さんでお腹を満たしたんです。いやぁ、おいしかったですねぇ。

ひとつの街に海があり、街があり、山がある、地方にはそんな場所がたくさんあります。オーストラリアにはありませんよ。海の近くはだいたい平池ですからね。だから地方では、アクティビティなどの体験を楽しみ、地元の名物でお腹を満たすという旅がオーストラリア人にとって好まれると思います。日本はどこに行っても、地元を大切にしているので、どこにでもアクティビティや名物があるのがすごいところです。

若い世代のオーストラリア人は「ツアー」「パッケージ」で行くよりは、訪日してから何をするか、どこに行くかを決めることが多いので、ここに行ったら「こんな体験ができる」というのを地方の皆さんが打ち出してくれると助かります。オーストラリア人は、ココでしか体験できないというものを望んでいるんです。そして、日本人にとっては普通のことでも、オーストラリア人にとっては珍しいこと。日常の体験なども「日本に来た!」という満足感が得られるので、ぜひ検討してほしいと思います。

今、訪日オーストラリア人数が増えていますが、観光地として日本の人気が高いのはなぜでしょうか?

日本文化を知り、そのさまざまな経験できるからだと思います。例えば、シドニーでの「Matsuri – Japan Festival –」をきっかけに、本場の祭りを経験したい、お神輿を見たいと訪日する人もたくさんいます。特に数回訪日旅行をしているオーストラリア人は、何しろ“日本”を経験したいと思っているのです。祭りは日本の暑い時期に開催されますが、暑さなんて関係ないですね。

 

そして、オーストラリアでは今和食がブームなので、本場の和食を食べたいということで訪日する人も大勢います。友人や母は、よく唐揚げや天ぷらが食べたいと言いますが、その理由は「健康的だから」なんです。オーストラリア人は、和食=健康的というイメージ強く、何しろ和食が好き。オーストラリアではオーガニックフードがたくさん流通していますが、オーストラリア人はそれほど健康的なものを好きなんです。

また、若者の訪日旅行者も増えています。これは、格安航空券や安価な宿泊先が増えていることが大きな理由でしょう。さらに、ユニークなミュージシャンが出現するなど、「COOL JAPAN」が若者にも浸透し始めているからだと思います。

オーストラリア人にもっと訪日旅行したいと思ってもらううために、観光地域はどんなことをしたらいいと思いますか?

オーストラリア人を考えて何かをするというより、自分たちはこういったことができるよ、こんなものがあるよ、これが得意だよと伝えた方がオーストラリア人は受け入れやすいと思います。お世話になった宮崎県都城市では、ふるさと納税のPRに力を入れていました。それは返礼品が全国でも人気が高かったからです。ふるさと納税をしてくれる人が多ければ、市も潤います。それと同じように観光客を呼ぶには、何しろ地域のPRが必要です。

今年はオーストラリア人が大好きなラグビーのワールドカップが日本で開催されますよね。オーストラリアのラグビー人気はすごいですから、日本に興味がなくても日本に行こうと思っているオーストラリア人はとても多いです。翌年は東京オリンピック・パラリンピックも開催されるので、日本に興味がない人も取り込むチャンス。地方には、先ほども言ったような素晴らしい財産があるので、ぜひ「うちはこれができるよ!」とPRしてください。

インバウンド事業を手掛けている、また今後手掛けようと思っている自治体や企業に伝えたいことはありますか?

オーストラリアは移民国家でかなり多様化されています。オーストラリア人もいろんな好みがあり、絶対にコレに興味があるといいきれません。何が流行るか、何に人気が出るかを予想できないのがオーストラリア。国内を見渡しても、各人好きなものがいろいろありすぎて、全体的に流行っているものがないくらいです。

日本人は、記事で取り上げられたり、番組で紹介されたりするとそれが流行りますよね。オーストラリアではそうしたことはほとんどありません。流行ったとしても人口の1割程度くらいの中での流行になります。ですが、たった1割しかなくても、そこにマーケットがあるということを忘れないでいただけたらと思います。

Dalin Hamilton(ダリン・ハミルトン)
イスラエル、アフガニスタン、イラク、日本、そして国連の各国政府の外交政策および国際関係の研究に携わり、現在はキャンベラの連邦局において国際関連の政策責任者として活動している。ボランティア活動や交換留学、JETプログラムといった長期滞在のほかにも仕事や旅行で、過去10回以上の訪日を経験。日本語を巧みに使い、滞在地域の方言も話す。

取材:茂木 宏美、浜登 夏海

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