By SCP編集部 in インバウンドを読む(インタビュー)
日本におけるインバウンド事業が活気にあふれ、訪日外国人の数は年々増加傾向にあります。中でも顕著なのは、訪日オーストラリア人。新たなインバウンド対象国として注目されているオーストラリアは、ラグビー愛好者が多いこともあり、ラグビーワールドカップ日本大会によって訪日観光客数の増加が見込まれます。
オーストラリア人が日本を好む理由は何なのかを探るべく、今回は、オーストラリア出身のラグビー界のスター、クレイグ・ウィングさんにインタビューしました!
彼は、ラグビーリーグ(※1)の「Sydney Roosters」「Sydney Rabbitohs」で優れた実績を持ち、その後、オーストラリアのラグビーユニオンリーグ(※2)に移籍。そして、イングランドで開催された2015年ラグビーワールドカップで日本の代表として大活躍したことは、記憶に新しいのではないでしょうか。
クレイグさんは日本のエキスパートと言えるほど日本に詳しく、今回のインタビューでは、日本での選手生活の思い出や楽しみ方、そして2019年のラグビーワールドカップ日本大会について各国代表の動向を語ってもらいました。
※1 ラグビーユニオンは、日本で一般的に「ラグビー」として知られているスタイルのラグビー。基本ルールに大きな違いはないが、15人制と7人制がある。
※2 ラグビーリーグは、13人制で攻守交代のルールがあるスタイルのラグビー。ラグビーユニオンのルールにあるハードな接触や密集戦を極力排除し、ボールがどんどん移動していくランニングプレーが主体になっている。
オーストラリアのラグビーリーグから日本へ来た経緯と、最初の日本の印象を教えてください。
僕は高校時代、ラグビーユニオンとラグビーリーグの両方でプレイしていました。プロになることを決めたときに、どっちのリーグで自分のキャリアを築いていくのか決めなければならなかったんです。結果、ラグビーリーグでプロになりましたが、いつも頭の片隅にユニオンでやり残したことがあるような気がしてなりませんでした。
歳を重ねるにつれ身体に重症を負い、それからですね、プロとしてのキャリアにおいて、引退する前に何かやり残したことがないかを考え始めたのは。そして、30歳を手前にして再びラグビーユニオンでプレイすることを決めました。
もうひとつの理由は、異国でラグビーをプレイしながら、オーストラリアとは異なる文化や経験を吸収したかったんです。でも、そのときは日本にラグビーユニオンがあるなんて知りもしませんでした。イングランドやフランスでの選手生活を視野に入れている時に偶然にも、友人を通して、日本の存在を知りました。
そして、日本に行くことに賭けてみました。当時は悩みましたね。なんたって日本のことはまるで分らないし、これから起こることは今まで自分が経験したことがないことだと思っていたので。それまでに日本に行ったことがあるのは2006年の1回だけでした。
Foxtel(フォクステルメディア)の生活情報番組でホストをしていたとき、海外に住んでいるオーストラリア人を訪ね、北海道まで取材に行ったんですよ。北海道がオーストラリア人のホットスポットになりつつあるときでした。でも、3日だけだったので、思うようには日本を満喫できませんでしたね。
それから、2010年に日本に引っ越すまでは日本には訪れませんでした。当時は独身で、日本にこれといった友達や親族もいなかったので、僕とたまたま同じチームの外国人コミュニティー以外は、日本のラグビーチームの機能も、文化も、国も違ったので、本当に異国の地って印象でした。それと、日本の大きさに驚かされました! 東京は街の規模がものすごく大きくて、密集度や高層ビル群の規模なんかはシドニーの町ひとつが田舎町みたいに小さく感じましたね。東京は街全体が整っていて、その効率性にたびたび驚かされたのを今でも覚えています。
正直、日本のラグビーユニオンへの移籍はタフな日々でした。結果的にはいい6カ月でしたよ。日本のラグビーや日本語を覚えようとも努力しました。僕の所属チームに外国人はめったにいないし、日本人のチームメイトはまったく英語を話せないし、僕も日本語を話せなかったから、ただ観て、日本語を暗記するだけっていうことが、けっこうありました(笑)。
今でも良く覚えていることは、プレイしてた最初の頃のこと。自分はこのチームにすごく貢献していると思っていました。でも、僕のチームはペナルティばかり課せられていき、4、5試合で合計15回目のペナルティをもらったのです。そして溜まっていったストレスで、遂にコーチに抗議しました。「一体、どこの誰がこのポイントを台無しにしてるんだ︎」って。そしたら「お前のせいだ!」って言い返されたんですよ。あれは、本当に面白かったですね(笑)。
日本ではどのように休日を過ごしましたか?
僕は日本の山々が好きでよく訪れていました。夏の山も、冬の山も、どちらも好きですが、特に冬の山が好きですね。スキーやスノーボードで楽しんでいました。その中でも、人の手のついてない自然の山でスプリットボードを使って滑るアクティビティが一番のお気に入りでしたね。日本でのスキー体験を振り返ると、パウダースノーのおかげで地面のデコボコがあまりなく安定していて、雪の質感がしっかりしていた印象があります。
日本のような雪はないですけど、ヨーロッパへ旅行に行こうと思えば、たくさんの旅費をかけて、たぶん2、3週間くらい行けますよ。でも、日本ならほんの少しのお金で旅行に行けるし、3、4日いれば充分に新鮮な雪を感じることができます。それに、日本の雪質なら、山の斜面を滑れるし、転んでもすぐに起き上がって滑り続けられるし、ソリ滑りなんかもできますよね。
そのほかだとゴルフをして休日を過ごすことも多かったです。日本には、僕たち外国人が、英語圏のGoogleで調べただけだと見つけられないような、とても綺麗に整備されたゴルフコースがいくつもあります。日本ではゴルフのゲームの仕方が、海外とは少しだけ異なりました。オーストラリアだと、早めに9ホールか18ホールを終わらせてそのまま仕事に戻ったり、ほかのことをしたりしますが、日本だと丸一日使ってゴルフをするので、短いバケーションみたいな感覚でした。まず、9ホールまでプレイしていったんみんなで美味しいランチを食べに行って、すべてのゲームを終わらせたあとは、そのまま皆で温泉に行ってリフレッシュしたり、時々ディナーに行くなんてこともありましたね。こうやって、皆で出掛けられるので、慌ただしく、忙しい都会の生活から解放されていい気分転換でした。本当に素晴らしい経験をできたなぁと実感しています。
僕は秋がお気に入りなので、葉っぱの色が変わる紅葉の季節に日本を訪れたいですね。本当は桜の開花前か、桜が咲いている春の日本に行きたい! …と言いたいのですが(笑)。秋は気温もちょうどいいですし、特に京都や奈良界隈はものすごく鮮明な景色でした。秋はさまざまなアウトドアを楽しんで、新しい日本を発見できる素晴らしい季節だと思います。
日本の各所を巡る一番効率のいい方法は、公共交通機関を使うことです。きちんと整備されていて、とても使いやすいから! でも、レンタカーを借りてドライブするのもすごく気持ちいいです。日本人でさえ見たことがない地にも行けますしね。日本の道路はとても快適で、特に雪道や山道を走り抜けるのに夢中になりました。しかし、最初に走った時は、いちオーストラリア人にとっては少し怖い印象がありました。オーストラリア人には、日本の交通情報なんてめったに手に入らないですし、何よりスリップ事故といった車の事故について聞いているのがほとんどですからね。でも、日本の道路は隅々まで整備されていて安全でした。さらに、ドライブで田舎の農村や温泉を訪れたり、レストランなどを発見したりと、より新鮮な日本体験ができると思います。
ある休日に、伊豆の下田まで車を走らせたこともありました。この辺り一体には、綺麗なビーチがたくさんありますね。それと、日本海側の京都の北部に位置する琴弾浜にも行きましたが、素晴らしかったです。四国の方へもドライブしましたが、あそこの海岸もとても印象に残っています。ドライブで遠方を訪れるのは疲れますが、一度辿り着いてしまえば良い思い出になりましたね。
神戸にいる頃は淡路にもよく行っていました。台風が過ぎ去った後は少し増水していて風もいい感じなので、1時間半ほどドライブして、サーフィンをしてたのです。神戸は、六甲山やほかの山が連なっているので、山登りには最適な場所でした。よく六甲山を登って、その先にある有馬温泉に立ち寄り、少し宿や温泉でゆっくりしたあと、ロープウェイを使って下山するなどしましたよ。僕自身は旅行を通して日本の文化と日本という国を十分に満喫しました。僕からアドバイスするとすれば、まずは日本の色々な場所を訪れて、自分のお気に入りの場所を見つけることですね!
日本を初めて訪れるラグビーファンに日本国内旅行のアドバイスをお願いします。
最初のアドバイスは、JRパスを購入して日本各地を新幹線で回ることです。新幹線は本当に速く、荷物の重量制限もなく快適なので、日本国内のあらゆる場所に飛行機より簡単に連れて行ってくれますよ。もし、日本を探検したいならば、新幹線は外せません。
そして、日本の料理を食べるときは、まず何も聞かずに食べることをおすすめします。そのあとに、店員さんにさっき自分が食べた物を尋ねましょう。僕たち外国人は、その食べ物が何なのかを先に聞いてしまうと食欲がなくなってしまうかもしれないからです。なので、その料理が自分の好みに合うかどうかに関係なく、まず食べてから店員さんに聞いたほうがいいです。
そして、味の違うラーメンに挑戦することをすすめますね。日本には、さまざまな種類のラーメンとその地域独特に発展した味のラーメンもありますからね。ラーメンを食べに遠出するときは、事前にその地域にはどんな味や種類のラーメンがあるのか? など、あらかじめ下調べすることをおすすめします。きっと日本のラーメンには驚かされると思いますよ。ラーメンという概念の中に、それぞれ解釈の仕方や考え方の違いがあってとても面白いからです。
ラーメン以外では、肉が大好物なので、日本の焼肉や焼き鳥を食べに行きました。日本では、その肉(牛肉、鶏肉、豚肉、馬肉など)の色々な部位が食べられるので、どんな味なのかなど試してみる価値があると思います。僕は鳥軟骨の味と食感が好きですね。皆さんもぜひ、色んな肉の部位を試してみてください。
日本を旅するうえで重要なのは、まず色んなことをトライして、さまざまな体験をすることだと思います。日本人はとても親しみやすく、もし何かトラブルにあったり、巻き込まれたとしても助けてくれますよ。
例えば、道に迷ったとき。丁寧に道を尋ねれば、彼らが自分たちの動ける範囲内で付き添ってくれることもあるんです。言語の違いから日本人は最初少し控え目ですが、それをいったん乗り越えてからは非常に親しみやすくなりますね。今でも覚えていますが、最初に東京に友人が来たとき、一緒に時計を買いに行ったんですよ。帰る駅が分からなくなってしまい、店員さんに道を尋ねたんですね。そしたら、わざわざお店を閉めて、300メートルくらい私たちと一緒に歩き、どうすれば駅に辿りつけるか詳しく教えてくれたんです。あの対応には、本当に驚かされましたね。
2019年の日本ワールドラグビーカップについて、クレイグさんの想いを聞かせてください。
もちろんオーストラリアをサポートしますが、日本のことも応援しますよ。両チームが対戦したとしても、決勝までは当たらないですからね。僕個人としては、日本の友人がどのようにチームに貢献するか、興味があります。
日本のラグビーは他国のラグビーと大きく異なる面を持っていますからね。例えば、タックルの衝突はそんなに大きくないですし、身体の接触もずっと激しさを伴うかと言ったら、そうでもないですね。確かに、日本のラグビーのゲームは規模が大きいうえ、身体のぶつかり合いもあります。ですが、他国と比べるとそれが小さめだったり、回数も多くはないんです。そのため日本のラグビーは試合展開が早い傾向があると思いますね。オーストラリアの戦術的で構成的なゲームよりも、楽しんで観戦できます。日本にはその場で対応できる知恵があるはずなので、そこを意識すればもっと楽しいものになると思います。
日本はきっと、ふたつある選択肢からひとつを取れると思います。前大会の結果もあるので、おそらく日本には多くのプレッシャーがのしかかってくるでしょう。もし、日本のチームがプレッシャーとの向き合い方を知っていれば、強豪国を相手に打ち勝てるはずです。もしくは日本のチームは前回のワールドカップで得た自信を強く持ち、日本で確立されたプレイスタイルを貫けば、いい結果が出ると思います。
それと、開催国としての自信とサポーターの応援も心強いですよ。すでに、前回のラグビーカップを経験している選手たちが何人か日本代表として選ばれていますし、その経験から彼らはチームの中枢になるはずです。事実、いくつかのチームは日本チームに驚かされるでしょうね。
しかしながら、前回と同じようにほかのチームに忍び寄ることは恐らくむずかしいと言えますね。前回はどのチームも日本にどんな選手がいるか、ましてや、日本がラグビーをしていることなんて知らなかったですから。他国にとって日本代表は未知数だったんです。しかし、現在はさまざまな国のチームがある程度の下調べを終えて、日本に対する知識や予測を立てていますね。
今、日本はとてもタフな状況にあると言えます。前回のワールドカップでスコットランドに1つ借りがありますし、スコットランドはオーストラリア同様に試合で勝利を重ねていて、ボーナスポイントを持っていますからね。スコットランドは絶対に倒さなければならない国のひとつだと断言できます。もうひとつ、勝たなければならない相手はアイルランドです。開催国としての利点があるので、日本には勝てる見込みがありますよ。
最後に、ラグビーワールドカップにおいて最も待ち望んでいること、オーストラリアのナショナルチーム・ワラビーズについての意見をお願いします。
ワラビーズにとっての試練はウェールズ戦でしょう。おそらく両者にとって、タイトルマッチになることでしよう。その前に両者ともほかの試合で勝って準々決勝まで進まなければなりません。そしておそらく、多くの代表チームにとって、フィジー代表は大きな脅威となりうるでしょうね。彼らは全員体格が良く、強い。さらに足も速いんですよ。フィジー代表はフィジカルも良くて、選手の体調管理を徹底する素晴らしいコーチも付いているんです。僕は、そのコーチに日本で4年間お世話になりました。彼が日本をワールドカップに導いてくれたと言っても過言じゃないですね。僕のラグビー選手のキャリアの中で、彼は間違いなく一番のコーチでした。日本の選手と僕に指導してくれたことは素晴らしかったです。
だから、彼がどのようにフィジー選手たちの生まれ持った強靭さとアスリート本来の能力をどう高めて行くかが非常に気になります。フィジー代表は試合でスイッチが入ると、常識では考えられないようなたくましいプレイをして成し遂げるでしょう。彼らはダークホースになると思います。
僕個人としては、日本の各地でラグビームードが高まることが待ち遠しいです。日本では、ラグビーワールドカップが近づくに連れて、お祭りのような雰囲気になってきますよね。すべてのバーやレストラン、そのほかのビジネスなどもラグビーワールドカップと関連付けています。街全体が、世界各国からラグビーを観戦しに来るサポーターの国旗、色やジャンパーなどで溢れかえるでしょう。
ラグビー日本ワールドカップが、言語の壁を超えて世界の人々をよい方向に巻き込んで行けると思います。日本の人々、企業、日本政府などがこの大きなイベントを祝う、その日が今から待ち遠しいです。もし、1つの国があるとして、その国が多くの人々を一斉に動かしたり、きちんと対応したりできるとしたら、それはまさしく日本でしょう。僕自身、今回のラグビーワールドカップは、間違いなく素晴らしいものになると感じています! バーやパブが一番盛り上がるその瞬間が訪れるのをもう待てません!
オーストラリア出身の元ラグビー選手。オーストラリア時代にはシドニールースターズやシドニーラビトーズでプレイし、2003~9年までニューサウスウェールズ州の代表にも選出された。2010年からは拠点を日本に移し、前回のラグビーワールドカップ・イングランド大会時には日本代表として活躍。現在はゴルフを中心に日本のアウトドアアクティビティの普及に奔走している。
取材・文:Ayla Yuile
英語記事:Star Rugby Player Craig Wing on Japan and RWC 2019
翻訳:西脇聖晃