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インバウンドを読む#06 ANAシドニー支店長 定行亮

By SCP編集部 in インバウンドを読む(インタビュー)

年々増え続ける訪日数。それに伴い、日本国内ではインバウンド熱が非常に高まっています。依然として近隣のアジア諸国の比重は大きいですが、昨今、企業や自治体から注目を浴びているのは、訪日旅行者の「長期滞在」と「高額支出」の傾向を持つオーストラリア。航空路線の増加と相成り、オーストラリア人の訪日数は急速に増加。今、まさにホットなマーケットです。

そんなマーケットをさら活気づける旬の話題は、今年(2019年)9月に就航するANA(全日本空輸)の成田〜パース直行便。日本と西オーストラリアを直接結ぶ航空便は久しく途絶えていたため、この新規路線は日本全体、そしてインバウンド事業にとって大きな期待が寄せられています。

ANAは3年半前(2015年12月)に羽田〜シドニーを就航させたばかり。そして今秋にはパースとの間に新しい路線を設け、訪日オーストラリア人数の増加に拍車をかけようとしています。

そこで今回は、全日空シドニー支店の定行亮支店長にお話をうかがいました。定行氏の考えるオーストラリア市場とはどんなものなのでしょうか…。 オーストラリア人の声やオーストラリアにおけるプロモーションなどを混じえて語っていただきました。

2015年12月に羽田〜シドニー便を就航した経緯を教えてください。

80年代後半から90年代の日本では、オーストラリアがハワイと並ぶ人気旅行先でした。当時はほとんど日本からのお客様で、オーストラリアから日本に行く方はごく少数。今と比較すると、ほとんどいなかったと言うほど小さなマーケットでした。しかし、2012年頃からその比率に大きな変化が現れ、2015年についに逆転しました。

ANAでは、数年前から国際線のネットワークをグローバルに展開していくことを事業の柱に据えており、どこに路線を設けるかを検討していました。そこで、日豪間の人の流動が昔と様変わりし、公表されている数字からも明らかだったため、シドニーが大きな候補都市として浮上したのです。タイミングよく羽田空港から飛べる環境も整い、もう一回挑戦してみよう!と2015年12月に戻ってきました。一言でいえば、マーケットの景色が昔運行していた頃とはまったく変わっていたからですね。

就航から約3年半が経過した現在の状況はいかがですか?

実際にご搭乗いただく多数のオーストラリアのお客様を見て、統計の数字だけで見ていたことが本当に現実のものなんだと強く実感しています。

2015年12月12日の初便のときは、一生忘れられない経験です。その日私もチェックインカウンターにおりました。続々とチェックインに来るお客様気づくと長蛇の列となって、その67割がオーストラリア人だったのです!  

私たちの経験では、海外発の初便は就航して間もない時期だと、知名度がないため席数を埋めるのにとても苦労するのが通例でした。日本でしたら比較的簡単ですが、海外では「ANAって誰?」と言うレベルですからね。オーストラリアではカンタスさん、日本航空さん、ジェットスターさんなどが日本行きの手段として定着しています。その中で突然現れたわけですから、正直どうなることかと思っていました。しかし、まず初日に満席、その後もずっと満席が続き、その6、7割がオーストラリア人。相当な衝撃でしたね。弊社の国際線に長らく携わっていますが、このような光景を見たのは初めて。無名のANAにどうして乗るのかと思うほど驚きました。

その初日の驚きが今もずっと継続しているといった感じでしょうか。当時予想していたよりも、堅調な流動の成長が続き、復活してよかったと思っています。

羽田〜シドニー便は羽田に早朝5時に到着しますが、オーストラリア人からどのような反応がありますか?

日本全国どこでもほぼ午前中に到着できるため、非常に好意的に捉えていただいております。と申しますのは、皆さん、訪問地が東京だけとは限らないため、羽田到着後、国内線に乗り換えて目的地に向かいます。例えば、北海道にスキーに行かれる方は、羽田から札幌に行く朝一番の便に搭乗でき、千歳空港に着いてバスでニセコに行くにしても午前中に現地に到着できます。つまり、ランチ前にひと滑りできてしまうのです。

弊社は日本全国へ国内線が飛んでいますから、羽田空港に到着後スムーズに乗り継げます。そのため、どこでもだいたい午前中に着き、訪日したその日から有意義に過ごしていただけるのです。オーストラリアと日本は、セイムタイムゾーンで時差がほぼなく、体への負担も非常にミニマム。皆さん、午前中から活動できることをとても喜んでいます。

また、帰りの便も夜中のフライトのため、帰る日も一日観光を楽しめます。ビジネスでいらしている方も同様で、非常に時間効率がいいとご意見をいただいております。

ではオーストラリア市場に向けて、どのような戦略を お持ちなのでしょうか?

欧米に比べ、オーストラリア人は、日本に対する関心がとても高いと感じます。会う人会う人が「日本に行ってよかった」「また行きたい」と口にされるんです。正直、ネガティブなリアクションは聞いたことがない。とても珍しいことです。

そのため、ANAの業績アップを図るだけでは小さな視点ですから、オーストラリア人にもっと日本を知ってもらおうという想いで戦略を立て押し進めています。これは我々だけでは力不足。日本政府観光局(JNTO)さん、オーストラリア市場を熟知している専門家の皆さんなどと連携し、ANAを売ることに固執しないで「日本を売る」という観点で臨んでいます。

日本とオーストラリアがもっと強固な二国間関係になるためにできることを考えないと、非常にマイクロな競争になってしまうんでね。そんな競争は意味がありません。日本を訪れる人数が増えれば、関係する皆がWIN-WINになるわけですから、その需要全体の底上げをどれだけできるかに注力しています。

具体的にどのようなことを展開していますか?

たくさんのオーストラリア人に訪日してもらうためには、ANAを知ってもらわないといけません。つまり、知名度の向上が必要です。以前飛んでいたとはいえ、当時のことは誰も知らないに等しい。再開して3年以上たった今でも知名度はまだまだで、道半ばだと思っています。

その対策として、著名人とのコラボレーションも実施しました。2016年に、オーストラリアの超人気番組『マスターシェフ・オーストラリア』のシーズン2優勝者であり、農林水産省の日本食普及の親善大使であるアダム・リアウ(Adam Liaw)さんと機内食をプロデュースしたんです。これは、数年経った今でも「今度はいつやるんですか?」と話題にしてくれる方が多いので、大きな反響を得たと感じています。

それから、旅行会社やジャーナリストの方々に実際に日本に行ってもらい、見てもらい、感じてもらう。その体験をもとにツアーを作ったり、ANAの搭乗記も含めた各地の紹介記事を配信してもらうことにつながる招聘旅行は積極的に手掛けています。オーストラリアは、フライトセンターをはじめリテールがたくさんありますから、旅行会社の方への日頃の営業の中で、日本に関する情報提供を積極的に行い、彼らのお客様に日本に行くならANAもあるよと伝えていただけるよう働きかけることも怠りません。

もちろんメディア広告も出しますよ。オーストラリアには、富裕層、一般消費者、若者など様々なセグメントをターゲットにした旅行メディアがあるので、その時期に必要な媒体をピックアップし広告を掲載しています。

我々はオーストラリアでのプロモーションに関して素人ですから、JNTOさんや専門家の方々にアドバイスをもらいながらプロモーションを続けています。

オーストラリア市場におけるプロモーションはどのように展開していくといいでしょうか?

オーストラリア人の日本に対する関心はとても高い。これがベースですので、プロモーションのハードルは比較的低いと言えるでしょう。とはいえ、漠然と日本を紹介するのではなく例えば「四国にはこんなところがあるんだよ」「九州って、知ってる?」といったような地域の特徴をストーリー仕立てで訴求する方法が効果的です。日本のメジャー都市、東京と大阪でも、オーストラリア人からするとどちらも大都市であり、その違いは分かりません。魅力のポイントを抽出して伝え、より関心を持っていただくかが鍵となってきます。

オーストラリア人の満足度はどのように高めていますか?

フレンドリーに接することですね。日本的にいうと「親しみやすさ」。これはオーストラリア人に限定しているわけではありませんが、フレンドリーさは我々が追求し続けているサービスの基本です。この3年半オーストラリアのお客様と向き合ってみて気づいたのは、この我々が普段から心がけていることを忠実に自然な形で全うすることが大切だということです。だから、奇をてらうようなことはしていません。ANAらしさで、オーストラリアのお客様をもてなしています。

あくまでも私見ですが、オーストラリア人に訪日が人気があり、リピーターを増えているのは、対極にある日本文化にエキゾチズムを感じることももちろんですが、日本人の親切さにふれ、オーストラリア人の元来フレンドリーなマインドとマッチして、親しみを覚えることがポジティブに働いているのではないでしょうか。

成田〜Perth便就航に至るまでの経緯を教えてください。

西オーストラリアは日本からの直行便がなくなって8年以上経ちます。しかし、経由便で行き来する人々は絶えることなく、むしろ、ここ数年けっこう伸びているんです。

日本の認知度の高まりは、西オーストラリアでも例外ではないと思います。また、日本人も西オーストラリアへ行ってみたい、留学したいという人々が多数いらっしゃいます。パースは語学研修や短期留学などで人気の留学先となっており、昨年発表された人気留学先のランキングではベスト10に入っていました。その10都市で日本との直行便がないのはパースだけなんです。

人の流動が20年前とはまったく違うこと、実際にシドニーでさまざまな手応えを感じたことなどを踏まえると、直行便を設けることが日本や西オーストラリアに行き控えている人たちの背中を押すきっかけとなるかもしれないと考えました。そして弊社の就航でオーストラリアと日本の一層の交流拡大に貢献できればと思い、我々がチャレンジしてみようとなったのです。

西オーストラリア州というマーケットで展開するにあたり課題や困難な点はありますか?

「ANAって誰?」というほど、知名度が低いことです。シドニーなど東海岸の都市以上に知名度がないため、旅行系の媒体に宣伝広告を打ち、SNSを利用し、カンファレンスで話をするなど様々な告知方法を駆使して認知度アップを図っています。

ただ、非常にありがたいことに、去年(2018年)12月にプレスリリースした瞬間からパースでは大きな話題になっています。一番驚いたのは今年(2019年)2月、出張でパースに滞在していたときのことでした。このとき、景気付けにセールフェアをドンと発表したんですね。セールフェア開催当日に朝のニュースで、それが取り上げられていたんです! テレビを観ていると弊社の飛行機が映し出され、「みんな知ってるかい? 今日からANAのセールが始まるぞ」と流れ、目が点になりました。我々は何も仕掛けていないですから、いやぁ、びっくりしましたね。

おそらく、パースで日本に行きたいというニーズがとても高まっているのでしょう。「やっと直行便ができた!」「日本に簡単に行ける!」と考えてくれているのだと思います。非常にポジティブな反応で、たいへん光栄です。

しかし、これでANAが認知できたわけではありません。皆さん、直行便が飛ぶことは知っていますが、その会社はANAっていうらしいといったレベルですから。これからが正念場ですが、まずは認知度アップに注力し、一つひとつ積み重ねていきます。

オーストラリアにおけるANAさんの今後の展望についてお聞かせください。

日本とオーストラリアの間には大きなイシューが見当たらない極めて良好な関係が続いています他の国家間ではたくさんあるのに比べると極めて少ない。むしろ、数々の物事が相互補完関係にあると感じます。今まででも十分関係が深まってきていますが、まだまだできることはたくさんあるはずです。

関係をさらに深めるポイントのひとつは、人の交流だと思っています。人の交流はすべての礎。昔どこかに訪れて、ここ最高!と感じた原体験は、またその地に行こうとなりますよね。だから、弊社が手がけるかどうかはまだ分かりませんが、日豪の関係がより深まるように航空ネットワークがさらに充実してほしいと強く希望しています。

ロサンゼルスにいた経験から、アメリカと比べたオーストラリアの違いを教えてください。

オーストラリアは、先進国と言われる国々の中では日本への関心の高さが突出していますね。アメリカは西海岸の人々は太平洋を向いて生活していますから、日本はじめアジアへの関心はある程度ありますが、東海岸の人たちは大西洋に向いて生活しているため、日本で何が起きているかということに関心が低めです。

オーストラリアは東側と西側があっても、世界を見渡すには北を向くことになります。アフリカや南米へ興味を持つ方もいらっしゃるでしょうが、私の感覚ではオーストラリアの方々は上、つまり西はヨーロッパから、真上のアジア、東はアメリカと広範囲が見渡せますよね。これらの国の中で、各人の関心の度合いは違うかもしれませんが、見ている角度はいっしょ。

そして「セイムタイムゾーンに自分たちと同じような先進国があるぞ」「アジアだから見た目では違いが分からなかったけど、行ってみたら全然別世界で面白い!」などが、オーストラリア人の日本に対する印象ではないでしょうか。地理的な関係も人の興味に影響しているような気がします。

日本のインバウンド事業者から相談されることも多いと思いますが、どのようなアドバイスをされていますか?

多くの自治体さんは近隣のアジア諸国からの受け入れに長年注力されてきているため、アジアに対する考えを元にオーストラリアに取り組みがちです。しかし、両者の旅のスタイルはまったく異なります。

そのひとつは滞在期間。アジア圏の方は、年数回訪日されることもありますが、1回の滞在は3泊など短く、各地を駆け足で巡ります。当然、1箇所にいる時間も非常に短いです。一方、オーストラリア人は2~3週間滞在し、じっくりと日本各地を巡ります。

そして、オーストラリア人は歴史や文化などに強烈な関心を持ち、その場所を見てみたい、土地土地の日常を肌で感じてみたい、それぞれの特徴を学びたいというニーズがあります。アジア人向けのように「ここで綺麗な写真が撮れますよ」とご案内をしても喜ばれません。綺麗な写真を撮り、インスタグラムにアップするオーストラリアの若者たちもいますが、コアな人たちは違います。

このようなことから、オーストラリア人には「ここにはこうした歴史があるからこの食文化が根づいているんです」「この神社の素晴らしさは何で、なぜならば…」といった背景やストーリーがある資料などを用意してプロモーションに取り組まなくてはならないとお話させていただきます。

オーストラリア人に自分たちの魅力をどう伝えていくかを考えることが大事です。日本を宣伝するという視点が大切ですし、自治体の枠を超えた広域で誘致する取り組みも重要だと思います。外国人旅行者、特にオーストラリア人のように長期滞在する旅行者は、自治体の境界線に関係なく動き回りますからJNTOさんやその他専門家などと協力することもおすすめします。

日本各地に無数に広がる魅力ある場所に、1人でも多くのオーストラリア人をお連れできるよう、我々エアラインも日々知恵を絞ってゆきたいと考えています。

定行 亮 (さだゆき りょう)
全日本空輸株式会社 豪州・オセアニア地区総代表 兼 シドニー支店長。1986年全日本空輸(株)入社。ロサンゼルス支店マネージャーや東京支店国際販売部長などを経て、2015年10月より現職。シドニーで開催する「Matsuri Japan Festival」にスポンサーとして参加するなど、日豪間の友好を深める活動を積極的に推進している。

取材・文:  茂木宏美

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