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インバウンドを読む#07 料理研究家 ジェーン・ローソン

By SCP編集部 in インバウンドを読む(インタビュー)

ここ数年日本を訪れるオーストラリア人の数は飛躍的に伸び続けています。彼らが日本に旅行する大きな目的のひとつは「和食体験」です。

ユネスコ無形文化遺産に登録されるほど世界でその価値が認められている和食は、オーストラリアでも人気があります。

和食の特徴であるヘルシーさが、健康志向の高いオーストラリア人にとても好まれ、オーストラリア国内に1500以上の和食レストランがあると言われています。

また、オーストラリアの人気テレビ番組『マスターシェフ・オーストラリア』のチャンピオン、アダム・リアウ(Adam Liaw)さんが、日本食普及の親善大使に任命されるなど、オーストラリアでの和食への熱は非常に高く、本場の和食を食べたいと訪日するオーストラリア人が増えています。現在では食事を楽しむだけでなく、料理教室や酒造巡りなど食に関わる体験ツアーも人気です。

オーストラリアの和食ブームをさらに盛り上げるオーストラリア人に、料理研究家でもあるトラベルライターのジェーン・ローソンさんがいます。

彼女は、和食のレシピ本を執筆するほか、和食体験を絡めたツアーや旅行者のニーズに合わせたカスタムツアーを企画し、自らガイド役も担当するなど、食と旅を通してオーストラリア人に日本の素晴らしさを説きながら、両国を繋いでいます。

今回はさまざまな肩書きを持つジェーンさんに和食のどのような点が魅力と捉えているのか、オーストラリア人が日本に求めているものは何かなど、オーストラリア人ならではの視点を伺いました。

ジェーンさんと日本の繋がりはどのようなものですか?

まずは、学生時代に日本語を少し勉強していたことですね。そして、ジャルパック(JALグループの海外旅行会社)でインバウンドツーリズムに携わり、日本に行く機会が多々あったことで日本との接点が生まれました。

旅行業界で仕事したあとは、執筆の世界に移り、和食について書き始め、そのうち、日本への旅行についても書くようになりました。また、当時東京にしばらく滞在していたのですが、仕事の関係で京都に引っ越し、そこで夫に出会いました。私たちは日本文化や和食、旅行への情熱を共有し合いました。このようにして、私の人生に日本が繋がるようになりました。

なぜ、和食を焦点にあてたツアーを企画しようと思ったのですか?

オーストラリアへ帰国後、私たちは日本への思いや日本で学んだ知識をいろんな人に伝えるにはどうしたらいいかと考え始めました。そして、食で成り立ってきた私の経歴を生かせないかと思い、京都で和食を学ぶことに決めたのです。また、オーストラリアの人々に一般的なツアーでは体験できないことをしてもらいたいと考え、このようなツアーの企画を始めました。これに伴い、さまざまな新聞や雑誌で日本のツーリズムについて書く機会が増えていき、今では旅行を通して食と日本の魅力をたくさんのオーストラリア人に届けるようになりました。

 

オーストラリア人にとって、和食はどのような点がユニークであり、魅力的なのでしょうか?

今考えると普通のことなのですが、当時私が驚いたことは、さまざまな食文化が流行り、消えていくのに対し、和食の人気は衰えることがないということでした。これは旅行業界にとっても観光客を惹きつける大切な要因です。私は新聞を含むさまざまなメディアを通じて、このことを発信することができ嬉しく思っています。そして、日本がどんな場所かをきちんと知りたいというオーストラリア人のニーズがとても多いので、今でも日本について研究しているんです。

オーストラリアはどの国からも遠くに位置しているため、オーストラリア人は旅行を通じて新しいものを発見することが大好きです。これは食に関しても同様。比較的近い東南アジアに関しては情報が入ってくるので馴染みがありましたが、日本は金額面と言語、ひいてはコミュニケーションにおいて旅行しにくい場所だと思われていました。しかし、日本の物価が下がり始め、スキーブームの相乗効果もあり、日本の他の側面もオープンになってきたことから、オーストラリア人は日本の文化に触れ、和食の素晴らしさを体感し始めました。

和食は種類が豊富です。それぞれの国が独自の料理を持っていますが、日本では地域ごとに個性溢れる名物料理があり、また距離的に近い中国や韓国、歴史上関係のあるロシアやオランダなどから、あらゆる影響を受けた料理が幅広く存在します。ジャンルも洋食をはじめラーメン、懐石など多種多様です。いろんな食感や色、盛り付け、サービスもさまざま。サービスのレベル、料理の質と美しさは言うまでもなく、お店そのものや清潔さは初めて訪日するオーストラリア人にとって本当に感動的です。

さらに新鮮さと値段も魅力ですね。この国で日本と同じものを食べようとすると2倍の値段になりますが、日本ではお金をかけなくても美味しいものを食べることができます。

オーストラリア人観光客は日本にどんなことを求めていると思いますか?

和食はオーストラリア人が訪日する目的のひとつであり、同時にまた日本に行きたいと思う大きな要素です。日本の文化と食の虜になり、私のツアーに繰り返し参加しているオーストラリア人も大勢います。そのような方は酒蔵を訪れたり、料理と酒の密接な関係を理解したりと、一般的なツアーではできないリアルな体験を求めています。

私自身、長年日本を行き来している経験から、ツアー内で本物の和食と日本での体験を提供できる知識をかなり深く得ることができました。それこそがオーストラリア人が訪日旅行に求めるものです。彼らは固定観念や伝統的なことに縛られず、今のリアルな日本の姿を見たいと望んでいます。

訪日オーストラリア人が増えるに伴い、これから日本はどんなことに注力していくべきでしょう?

旅行をするなら、その人自身が現地の言葉を少しでも学ぶことが理想ですが、オーストラリア人は旅行の際に一定レベルの英語を期待してしまいます。東京には英語の標識や表示などがすでに多数整備されており、京都も少しずつ増えていますが、さらなる充実を図ってほしいです。

それだけでなく、人によるサポートも重要。金沢に行ったときに、女性が駅のプラットフォームで降りてくる人を介助したり、外国人利用客の行き先を調べてあげたり、手伝ってほしいことがあるかを尋ねていました。とても素晴らしいことですよね。これはラグビーワールドカップ(2019年9月開催)の期間だけでなく、それ以外の時でも大事なことです。こうした駅での英語の補助やサービスが訪日外国人の負担を大幅に軽減してくれるでしょう。

今後、多くのオーストラリア人が地方へも旅行すると思いますが、アドバイスはありますか?

今後、ますます多くのオーストラリア人が地方にも訪れることを踏まえて、地方側に万全な受け入れ体制を整備していく必要があります。

私が少し問題だと感じることは、地域によっては外国人観光客を受け入れるために当てられる予算が十分ではない点です。場所によっては街全体に観光インフラを整備することができないため、一部の場所にだけ予算を投じる傾向があります。そのため、それ以外の地域の整備は後回しにされ、結局、受け入れ体制が満足に整わないうちに観光客が訪れてしまうという結果に陥りがちです。

外国人観光客に対応できる人材が少ない地域では特にお店や飲食店で働いている人に負担がかかります。言葉の壁からか観光客の気分を害させたくないと、観光客が訪れても何もさせずに帰してしまったり、誤って失礼な印象を与えるだけに終わってしまいます。地方自治体はツーリズムにお金をかける際に、こうした問題背景にもっとお金をかけることを検討する必要があると考えています。

今後、さらに多くのオーストラリア人が日本でより深い体験を求め、繰り返し訪日するようになるでしょう。地方にただ観光を広げるのではなく、インバウンド事業として外国人観光客を受け入れるためにはどのような準備が必要なのかをしっかり検討し、実施していくことが今後重要になると思います。

ジェーン・ローソン(Jane Lawson)

料理研究家・トラベルライター

30年前、シドニーにてシェフとしてのキャリアをスタートさせ、現在は料理研究家、評論家、ライター、メディアコンサルタントなど料理界で多岐に渡り活躍している。10代の頃から20回以上も日本を訪れ、日本の食文化への造詣が深い。また独自に訪日ツアーを造成、ツアーガイドも務める。2016年には“Tokyo Style Guide – Eat Sleep Shop”を出版し、東京のディープなスポットを紹介。現在、旅行紙“Escape”にも寄稿している。

取材・文: Ayla Yuile
翻訳: 切敷和恵

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