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【四国遍路】オーストラリア人の価値観とリンクする自然と心の旅

By SCP編集部 in オーストラリアでのプロモーション, オーストラリア基本情報, ツーリズムデータ

「四国遍路」は弘法大師ゆかりの地を巡る日本独自の”巡礼路”であり、豊かな文化的体験を提供する観光地でもあります。

この巡礼の道は、自然との調和や心の癒しといった面を持ち、自然とのつながりや内面の充実を重視するオーストラリア人の価値観とも共鳴します。四国の山々や海岸線、田園風景を歩く「心の旅」は、喧騒を離れたスローな旅を好む訪日旅行者にとって大きな魅力です。

四国遍路の持つグローバル観光資源としての可能性と地域社会への影響を的確に捉えるためにも、今後の取り組みに対する包括的かつ深い検討が必要とされるでしょう。

世界から注目を浴びる四国と「四国遍路」

近年、旅行者の価値観は確実に「コト消費」へと移行し、文化的・精神的な充足や地域との深いつながりを重視する傾向が強まっています。なかでも訪日リピーター層においては、都市部を離れた土地での本質的で質の高い体験や、持続可能な観光のあり方に対する関心が顕著に見られるようになりました。こうした流れの中で、四国は今、独自の魅力を有する地域として静かに存在感を高めています。

「ロンリープラネット」のおすすめ旅行先に選出

旅行ガイドブックで世界的に知られる『ロンリープラネット』が毎年発表する「Best in Travel 2022」において、日本の「四国」が地域部門で第6位に選ばれました。このランキングは、ロンリープラネット社の公式サイトやガイドブックに掲載され、世界中の旅行者の注目を集めています。日本政府観光局(JNTO)によると、訪日観光客の20%以上が旅行前の情報収集にロンリープラネットのガイドブックやウェブサイトを利用しており、SNS全盛の今においても特に欧米圏、さらには同社発祥の地メルボルンがあるオーストラリアでも同様に大きな影響力を持ちます。

四国は「あまり知られていない日本の宝」と紹介されており、豊かで美しい自然景観とともに「四国遍路」も”著名な巡礼地”と掲載されています。四国遍路に多くの人々の興味が集まり、人気が高まっていることは自然な流れといえます。特に独自のお接待文化に代表されるコミュニティの繋がりは、四国ならではの点として評価されていると考えられます。

また、羽田空港からは松山空港をはじめとする四国各地の空港へ、飛行機で約1時間半とアクセスも良好です。本州各地や九州からはフェリーでも気軽に訪れることができ、さらに四国は本州と橋で結ばれているため、陸路での移動もスムーズです。特に国土の広いオーストラリアの感覚からすれば、本州から四国への移動距離はごく短く、旅程に無理なく組み込める魅力的な観光地だといえるでしょう。

【参考】Lonely Planet

 

四国遍路旅の魅力と現状

四国遍路は、真言宗の開祖として知られる弘法大師・空海ゆかりの88か所の札所を巡る、総延長約1,200kmにおよぶ巡礼路。日本における最も古く、かつ現代にまで継承されている巡礼文化の一つです。長い歴史の中で、宗教的意義だけでなく、自然・文化・人との出会いが融合する旅として独自の発展を遂げてきました。

現代は徒歩だけでなく、車や自転車、公共交通機関を活用するなど巡礼スタイルが多様化しており、個々のニーズに応じた柔軟な旅が可能になりました。こうした現代的な巡礼スタイルの広がりの背景には、海外の巡礼文化、特にスペインの「サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼」の影響も見られます。同地は、1993年にユネスコの世界遺産に登録されたことを契機に、国際的な認知度が飛躍的に高まりました。登録以前は年間の巡礼者数が1万人に満たなかったものの、2018 年には 32 万人を超えるなど巡礼者数は年々増加。宗教的な動機にとどまらず、人生の節目や自己再発見を目的とする旅行者が世界中から集まるようになりました。このような動きは、四国遍路の国際的な魅力を再評価する追い風となっています。

訪日観光客の巡礼が増加

出典:四国運輸局・第11 番札所藤井寺付近休憩所「へんろの里」歩き遍路数の推移

国内の巡礼者数はゆるやかに減少しており高齢化も進んでいます。一方、四国遍路を行う訪日観光客数は、まだ割合としては少ないものの増加傾向にあります。例えば、2023年に第11番札所・藤井寺(徳島県吉野川市)近くの休憩所に立ち寄った外国人は1543人で、コロナ禍前の2019年の約1.8倍に増え、全体の4割超を占めます。

外国人旅行者の増加に伴い、英語ガイド付きのツアーや体験プログラムも展開されつつあり、信仰の枠を超えて文化体験や精神的な内省を求める旅として新たな広がりを見せています。しかし、言語対応や情報発信、外国人旅行者向けのインフラ整備において地域間で格差があるのも現状です。

現在、四国遍路も世界遺産登録を目指して関係自治体や文化庁、地元団体が連携し、文化的・歴史的価値の整理や保全活動、情報発信を進めています。登録が実現すればインバウンド観光への波及効果は大きく、地域経済や雇用への好影響も期待されます。

【参考】国土交通省四国運輸局「令和元年度“歩き遍路”を目的とした 欧米豪からの訪日外国人旅行者の受入環境整備対策事業」「DX を活用した四国遍路の受入環境整備 に向けた調査事業」

オーストラリア人観光客が関心を寄せる巡礼地への旅

オーストラリア人に高い認知度を誇る熊野古道

日本の主要都市をひと通り観光し終えた後、さらに「一生に一度の貴重な体験」を求める旅行者のニーズに応える旅先として名前が挙がるのが、和歌山県の「熊野古道」。2004年に世界遺産に登録されてから様々な整備やインバウンド対応が進み、今も観光客数を伸ばし続けています。巡礼やトレイルウォークのベースになる熊野本宮温泉郷に宿泊した海外観光客のうち、2023年にはオーストラリア人観光客が15%を占めるなど、オーストラリアでも着実にその存在感を増しています。充実した多言語対応の案内整備や、外国人目線でのプロモーションが進められたことで情報が得やすく、オーストラリア人旅行者にとって足を伸ばしてでも訪れたい人気の観光地となっています。

【参考】和歌山県地域振興部観光局「令和5年観光客動態調査報告書」/JNTO「田辺市熊野ツーリズムビューローインバウンド事例調査レポート

 

カンタス航空機内誌「世界で最も美しい散策路21選」

2023年5月、カンタス航空が発行するトラベルマガジン「Travel Insider」にて「世界で最も美しい散策路21選」が特集され、四国遍路がそのひとつとして紹介されました。カンタス航空はオーストラリア最大手の航空会社であり、その機内誌に掲載されたことは、オーストラリアの旅行市場においても注目されつつあることを示しています。こうした国際的なメディアでの露出は四国遍路の魅力が海外に広がるきっかけとなり、前述のロンリープラネットへの掲載と合わせて、今後より一層の認知度向上と訪問者増加に繋がっていくことでしょう。

オーストラリア人の価値観との親和性

オーストラリア人観光客の約6割が日本の自然や歴史・文化体験に強い関心を寄せていることと、リピーター層は個人の志向に合った旅を求めて地方部へと足を運ぶ傾向にあることが明らかになっていることを合わせて考えると、よりディープな文化体験に精神的安らぎや自己啓発の機会を求めているといえます。

四国遍路は、美しい山々や海岸線の風景を楽しみながら「自らの内面と静かに向き合う時間」を提供します。これは、自然の中で心身を整え、ウェルビーイングを大切にするオーストラリア人の感性に大きく共鳴する点といえるでしょう。景観の美しさだけではなく、遍路の途中で出会う仏教寺院や宗教儀礼、地域の人々とのふれあいは、異文化理解や精神的な成長を重視する旅行者にとって貴重な体験となるはずです。

四国遍路は観光地を「見る」旅ではなく、文化や自然を「感じ、深く知る」旅であり、まさにオーストラリア人が求める旅の価値が体現されているのです。

【参考】観光庁観光戦略課「訪日外国人旅行者(観光・レジャー目的)の 訪日回数と消費動向の関係について」/Tourism Australia「Future of Demand Market Snapshots

地域の取り組みと今後の展望

愛媛県がリードする取り組み

第51番札所石手寺

愛媛県は、四国遍路と地域の観光資源を戦略的に結びつけることで四国の中でも先進的な取り組みを行っている自治体であり、「四国遍路の世界遺産登録推進とブランド化」をインバウンド観光振興の柱のひとつに掲げています。これに伴い、ツアーガイドの養成や受け入れ環境の整備、関心の高い層への的確なプロモーション展開など、四国遍路を国際的に魅力ある観光資源として高める取り組みが進められています。さらには、巡礼の精神性に自然や温泉、食、歴史文化などを融合させた多面的な旅の魅力を創出しています。

「四国遍路」X「人気観光地」、「しまなみ海道」の組み合わせ

第51番札所石手寺は、松山市のアイコンともいえる人気観光地「道後温泉」や「松山城」の近くに位置します。石手寺の境内には、1番札所から88番札所までの全札所の土が置いてあり、すべてを触ることで88か所めぐった場合と同じ功徳を積めるといわれています。本堂や三重塔、護摩堂など重要文化財に指定された建築物も見応えがあり、初めて四国遍路を訪れる人や観光も楽しみたい旅行者には魅力的な組み合わせであることは間違いありません。また、今治市の札所の巡礼とキラーコンテンツであるしまなみ海道を経由するサイクリングを組み合わせたルートも、アクティビティを重視したい旅行者には人気の選択肢です。

こうした取り組みにより、愛媛県は四国遍路の価値を広域観光の中で再構築し、観光誘致の先導的な役割を果たしています。

【参考】いよ観ネット「道後温泉と一緒にめぐりたい石手寺参拝

鍵は「認知度」の向上

現在四国を訪れる外国人観光客は、主に四国と直行便を結ぶ都市のあるアジアの国が大半を占めます。一方、欧米豪圏全体での四国認知率は依然として低く6.3%に留まっています。

欧米豪圏における四国遍路の認知度を高めるポテンシャル要因として挙げられるのは、「文化的背景の理解」と「情報発信の充実」。四国遍路の歴史や精神性についての認知は、まだ十分に浸透しているとは言い難い面があります。巡礼文化自体には親しみがある欧米豪圏に対し、文化理解の促進とともに訪問者のニーズに合わせたプランをどのように訴求していくのか……現地の旅行会社やメディア、インフルエンサーと連携した戦略的な情報発信が重要視されていくでしょう。この点において、愛媛県では旅行商品の造成を目的に、オーストラリアの旅行会社を対象としたファムトリップ(視察旅行)を実施するなど、積極的な取り組みが進められています。

また、東京をはじめ多くの都市からアクセスが可能な広島は、四国にも近く、訪日オーストラリア人観光客の間でも人気の高い観光地です。そのため、四国遍路への誘客においては、広島が重要な起点となり得ます。特に広島まで訪れる旅行者に対し、四国へのアクセスをいかにわかりやすく魅力的に案内できるかも大事なファクターとなるはずです。高速バスやフェリーの増便、予約・案内システムの多言語対応強化、観光案内所等での遍路情報の提供の充実など、自治体と連携して実現することも多くありそうです。

【参考】G’Day Japan

 

四国4県の連携強化と地域発信による相乗効果

さらに四国遍路の振興と国際的な認知度向上を図るには、四国4県が一体となった広域的な連携が不可欠ですが、それだけでは十分とは言えません。全88か所の札所を巡るこの巡礼文化の価値を最大限に伝えるためには、各県がそれぞれの特色や強みを活かし、独自の視点で発信していくことも不可欠です。

現在、四国ツーリズム創造機構(TOURISM SHIKOKU)を中心に、四国遍路に関する多言語での情報発信が進められています。また、2010年に設立された「四国遍路世界遺産登録推進協議会」では、世界遺産登録に向けたルート整備や魅力の発信、多言語パンフレットや専用ウェブサイトの制作、札所へのQRコード設置によるアクセスデータの活用など、具体的な取り組みが本格化しています。

こうした広域的な戦略と並行して、各自治体や地域団体による独自の受け入れ体制の整備やプロモーション活動も、全体の認知度向上に寄与する重要な要素です。とりわけ、愛媛県のように、オーストラリア市場に対して独自の観光資源や価値観を打ち出していくような県ごとのアプローチは、各地域の特色を活かしながら市場ごとのニーズに応える柔軟な戦略として有効です。

四国4県の連携に加え、それぞれの県が主体的に異なる角度からオーストラリア市場へ働きかけることが、全体としての相乗効果を生み出す鍵となるでしょう。

【参考】愛媛県・株式会社日本政策銀行「With/Afterコロナにおける愛媛県への訪日富裕旅行者誘致に向けた調査報告書

期待される課題へのアクション

 

出典:四国運輸局

ニーズにあったプランと環境整備

外国人遍路の受け入れに関しては、自治体や関係団体、ボランティア等による取り組みにより、一定の効果が認められます。しかし四国遍路は、寺院・遍路道・地域のお接待・宿泊・飲食施設など多くの要素が関係しており、それぞれが個別に対応している現状があります。札所のロケーションによっては主に一般道を歩くだけのコースもあり、事前情報からイメージしていた旅との乖離が発生してしまうこともあるようです。キャッシュレスなどの支払い方法や宿泊施設については、外国人巡礼者だけでなく国内の若い世代への訴求を含めた対応が求められていくと考えられます。

危機管理と多言語対応

四国遍路では、多言語対応としてウェブサイトやQRコードを活用した札所情報の提供、SNSを通じた情報交換が一定の効果を上げており、今後の展開にも期待が寄せられます。一方で、台風や通行止め、事故等の危機管理情報の迅速な多言語共有体制は、引き続き整備が求められます。熊野古道では、こうした多言語対応が訪日巡礼者の安心感と満足度の向上に寄与しており、四国遍路でも同様の仕組みの強化が有効だと考えられます。

【参考】国土交通省四国運輸局「DX を活用した四国遍路の受入環境整備 に向けた調査事業

まとめ

四国霊場第1番札所霊山寺

四国地域は現時点では海外における認知度が十分に高いとは言い難いものの、アウトドアツーリズムへの関心の高まりを背景に「四国遍路」はインバウンド観光の新たな牽引役となる可能性を秘めています。特にアウトドア文化が根付き、長期滞在や自己探求型の旅への関心が高いオーストラリア市場においては、その体験価値との高い親和性が期待されます。

オーストラリア人を含む海外からの観光客の誘致を促進するためには、安心して巡礼を楽しめる環境の整備が不可欠。広域にわたる遍路道を適切に支えるには、四国4県および各市町村、関係団体が連携して取り組むことがますます重要になってくるでしょう。

寺院や巡礼道、お接待といった伝統的要素に加え、地域の自然や景観を活かした体験型観光と組み合わせた「歩き旅」としての魅力を打ち出し効果的に発信することが、さらなる裾野の拡大につながるはずです。

こうした取り組みによって、四国遍路は「新しい日本の旅先」として、オーストラリアからの訪日観光の有力な選択肢となっていくことでしょう。

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