By SCP編集部 in オーストラリアでのプロモーション, ツーリズムデータ
日本を訪れるオーストラリア人観光客数は、2022年の入国制限解除を境に急激な回復を見せており、今年2024年の10月時点で72万人を超え、これまでの過去最高であった2019年の62万人を上回りました。オーストラリアから日本へのフライト時間は比較的短く、アクセスの良さもあり日本は非常に人気の渡航先としてオーストラリア人に親しまれています。また、オーストラリアと日本の時差はほとんどなく、時差ボケの心配がないため、快適に観光を楽しむことができることも人気の要因と言えるでしょう。オーストラリアでは日本語学習者の数が多く、親日的な文化背景も日本旅行の人気を後押ししています。
特に、オーストラリア人は年末年始の長期休暇を利用して日本を訪れる傾向があり、じっくりと滞在を楽しむことが大きな特徴です。東京や大阪などの大都市、長野や北海道のスキーリゾートは特に知名度が高く、オーストラリア人にとって定番の観光地として広く知られています。
一方で、最近ではこれらの定番エリア(ゴールデンルート)に加えて、地方の観光スポットや各地が持つユニークな体験を求める旅行者が増えてきました。日本各地の新たな観光地が注目を集め、人気が高まっています。
そこで今回は、スキーリゾートやゴールデンルート以外で、オーストラリア人に人気がある地方の観光地に焦点を当て、その魅力を紹介します。また、オーストラリア人観光客の特有の旅行傾向についても触れていきたいと思います。
(参考:日本政府観光局(JNTO)「2023年 都道府県別訪問率ランキング」)
人気の旅行先①:広島
しまなみ海道でのサイクリング
訪日するオーストラリア人観光客にはスノースポーツだけでなく、サイクリングも非常に人気があります。オーストラリアではサイクリングが日常生活や趣味として広く根づいており、健康志向や環境意識の高まりもあいまって、多くの人々が自転車を利用しています。そのため、日本国内でもサイクリングを目的に訪れるオーストラリア人観光客は多く、特に「サイクリングの聖地」として知られるしまなみ海道のサイクリングコースは非常に高い人気を集めています。このコースの美しい景観や整備されたルートが、オーストラリア人にとって大きな魅力となっています。
平和記念公園
オーストラリアは反核の意識が非常に強い国です。1950年代にオーストラリアの一部地域が核実験の場として使用された歴史があり、それに対する反発から核兵器廃絶を求める声が高まりました。1985年には南太平洋非核地帯条約(トラロアファ条約)に加盟し、核兵器の存在を強く否定する姿勢を示しています。こうした背景もあり多くのオーストラリア人は、広島の原爆ドームに足を運んでいます。また、平和を祈念する場である長崎の平和記念公園も同じ理由からオーストラリア人にとって関心が高く、これらの地は観光だけでなく歴史学習の場としても重要な意味を持っています。
人気の旅行先②:岐阜
飛騨高山
岐阜県には、白川郷の茅葺き屋根の風景、飛騨高山の宮川朝市、下呂温泉といった日本特有の観光体験が豊富にそろっています。世界遺産に登録された『合掌造り』集落の白川郷は、雪景色や四季折々の自然が織りなす風景の中で、日本の伝統美を堪能できる特別な場所として多くの訪問者を魅了しています。飛騨高山では、江戸時代から続く歴史的な町並みを散策し、宮川朝市では地元で採れた新鮮な食材や手工芸品に触れることで、日本の地域文化を深く感じることができます。下呂温泉は日本三名泉の一つとして名高く、外国人が選ぶ日本の温泉地TOP10にもランクインするなど、多くの観光客を引き寄せています。これらの独自の魅力が相まって、岐阜県は西洋圏をはじめ、オーストラリア人にとっても心に残る旅先となっています。
中山道トレイル
中山道は里山の田園風景や竹林、清流沿いの道など、多彩で美しい景観を楽しめるハイキングコースとして非常に魅力的です。変化に富んだ地形が特徴であり、歴史的な宿場町を結ぶこの道は、日本の伝統と自然の美しさを同時に味わうことができます。3時間以上の道のりでありながら、風景の移り変わりが豊かで、歩く人々を飽きさせません。特に、長期滞在する観光客が「身体を動かす日」を設けてハイキングやウォーキングを楽しむ傾向が強い中、アップダウンのある地形は景色の変化が堪能できるとともに体力的な達成感を味わうことができ、街道ツーリズムにおける稀有な観光資源とされています。こうした自然豊かな道を歩く体験は、都市部とは異なるリラックスした時間を提供し、多くのオーストラリア人を含む外国人観光客にも人気を集めています。
人気の旅行先③:石川
金沢の兼六園/ひがし茶屋街
金沢は、「日本の小京都」と称される風情ある美しい景観や街並みが特徴です。兼六園をはじめとする名庭園では、四季折々の自然美を堪能しながら日本文化に触れることができ、多くの観光客にとって旅行の大きな目的となっています。また、茶道や能楽といった文化と武家文化が融合した、独自の文化を形成する街として知られ、ひがし茶屋街にある、お茶屋記念館の「志摩」や、ひがし茶屋街からほど近い「武家屋敷跡 野村家」は、特に旅行者に人気があります。ひがし茶屋街は、重要伝統的建造物群保存地区である風情と情緒ある街並みはもちろん、町屋をリノベーションした飲食店やお土産店が軒を連ねるユニークなエリアとして注目を集めています。近代的なアートを楽しめる金沢21世紀美術館も国際的に評価が高く、多様な展示が訪れる人々を魅了しています。金沢は加賀友禅や金箔といった日本特有の伝統工芸の街としても知られており、その歴史や技術に触れる体験型のプログラムも考案されており、観光客の間で人気を集めています。こうした伝統と現代が融合した文化的な魅力が、金沢を世界中の旅行者から注目される観光地として際立たせています。
人気の旅行先④:福岡・長崎
九州の玄関口、福岡
福岡は九州の交通のハブとして知られ、国内便や新幹線でのアクセスも便利なため、九州の玄関口として多くの観光客が訪れています。福岡の食文化は日本人だけでなく、訪日外国人からも注目されています。オーストラリアでは豚骨ラーメンが人気で、一風堂をはじめとするさまざまな博多ラーメン店がシドニーやメルボルンなどの主要都市に進出しています。この影響もあり、オーストラリア人の中には、福岡で本場の博多ラーメンを味わうことを楽しみに訪れる人も増えています。博多の屋台文化も人気の観光コンテンツの一つで、屋台で食べ飲みしながら地元の人々と交流する体験も人気です。
長崎の島めぐり
オーストラリア人にとって、個性豊かな日本の島巡りは大きな魅力です。長崎県は、日本の中で離島の数が最も多い県です。一口に「離島」と言ってもそれぞれに異なった文化があるので、知れば知るほどどの島も奥が深く、魅力が詰まっています。世界遺産に登録された五島列島は、美しい海と独自の文化が融合したスポットとして人気です。また、軍艦島(端島)は、かつての炭鉱の歴史と廃墟となった独特の景観がオーストラリア人を引きつけています。五島列島も軍艦島も、自然と歴史を感じる貴重な体験ができる場所として国内外で高く評価されています。
人気の旅行先⑤:香川
芸術と瀬戸内の島々の融合
四国の中でも香川は、芸術と自然の調和が特徴的な街です。「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」*にも掲載されている美しい日本庭園の栗林公園や、瀬戸内の絶景を楽しみながらのハイキングが魅力です。さらに、小豆島や直島などの島々を巡るアイランドホッピングも、自然を感じながらの新たな体験として人気を集めています。美しい瀬戸内海を背景にした自然と共存するアート作品の数々を楽しむことでも知られます。直島をはじめとする島々では、浜辺や林の中などに屋外作品が点在し、季節や気候の変化に応じたそれらの表情の違いを見られるのが魅力です。イサム・ノグチ庭園美術館やベネッセアートサイト直島など、世界が注目する美術館が点在しています。瀬戸内の島々を舞台に開催されるアートプロジェクトや美術館巡りも、多くの観光客に愛される理由です。
* 「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」は、豊かな自然や多彩な文化遺産など各地を独自の方法で調査し、日本を訪れる外国人観光客にお勧めしたいエリアやスポットが掲載されているガイドブックです。
金刀比羅宮(ことひらぐう/こんぴらさん)
金刀比羅宮(こんぴらさん)は、インバウンド総合メディア「訪日ラボ」が発表した香川県のインバウンド人気観光地ランキングで2位に選ばれています。美しい自然に囲まれた785段の石段を登るというアクティブな体験が楽しめるスポットで、心身をリフレッシュさせる魅力から、オーストラリア人観光客も足を運んでいます。四国遍路は信仰の側面を持ちながらも、四国の豊かな自然の中を歩き、歴史や文化に触れる旅としての魅力が高まりつつあり、熊野古道に続いて注目を集めてきています。
人気の旅行先⑥:和歌山
熊野古道
スピリチュアルな祈りの道として知られる熊野古道は、神秘的な歴史的な背景と日本独自の自然景観が楽しめるスポットとしてオーストラリア人観光客も多く訪れます。熊野那智大社の朱色の三重塔の後方に雄大な滝が眺められるという日本特有の景色に加え、道中には世界遺産に登録のある温泉に入るという特別な体験ができます。和歌山においてはホリデーシーズンではなく11月の紅葉のシーズンが最もオーストラリア人の訪問数が多くなっています。紅葉を楽しみながらトレッキングが楽しめるベストシーズンとして多くの旅行サイトでも紹介されているようです。
地方観光の新たな魅力
日本を訪れるオーストラリア人観光客の43%以上がリピーターです。初めて日本を訪れる観光客は、三大都市圏やゴールデンルートといった定番エリアを訪れることが多い一方で、リピーターは主要都市だけでなく地方部へ足を運び、その土地ならではの観光を楽しむ傾向があります。
また、オーストラリア人観光客は他国と比べて比較的若い世代が多く、20~29歳がボリューム層です。この年代はアクティブな体験を好むため、サイクリングやトレッキングなど、身体を動かすアクティビティが観光の目的と相性が良いとされています。さらに、オーストラリア人は個人手配で旅のプランを立てることが多く、パッケージツアーに依存しないため、主要観光地以外の魅力的な場所に気づいてもらえれば、足を運んでくれる可能性が高いといえるでしょう。
日本の地方には、独自の文化や歴史、美しい自然など、多くの魅力が詰まっています。これからも地方観光の可能性は広がり続けることでしょう。
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