By SCP編集部 in オーストラリア基本情報, ツーリズムデータ
インバウンド市場はここ数年、継続的な盛り上がりを見せています。特に2025年は年初から好調なスタートを切り、1月〜3月の訪日外国人旅行者数は3か月で累計1053万7300人に達し、過去最速で1000万人を突破しました。今後、紅葉シーズンとなる秋や、スノーアクティビティのニーズが高まる冬に向けて、秋冬に訪日者数が多い傾向にあるオーストラリア市場について、特徴や関心の高いジャンルなどをあらためて確認しておきましょう。
参考:
基本データ
オーストラリアの特徴(2025年現在)
オーストラリアは豊かな自然と天然資源に恵まれ、人口増加を原動力に、長期的な経済成長を続けています。また、距離はあるものの日本とは南北の移動になるため、比較的行き来しやすい国と言えます。飛行時間はケアンズー東京間が約7時間半、シドニーー東京間が約10時間。直行便も多いことから、訪日リピータ―も増えています。
◯人口は約2720万人。移民政策により、若い世代が増えている
◯南半球に位置するため、季節が逆。日本の冬季シーズンはオーストラリアの夏にあたる
◯日本への直行便は週に70本以上
◯日本との時差は0.5~1時間
◯訪日旅行客は年々増加。2025年は100万人を超える見込み
◯SDGs、エコ、サステナブル・ツーリズムへの意識が高い
◯経済は1992年以降2019年まで28年連続でプラス成長を達成。2020年のコロナショックをはさみ、2021年以降もプラス成長を続けている
オーストラリア人の旅行傾向
訪日オーストラリア人観光客の数は年々増加しており、2023年は約61万人、2024年は約92万人を記録し、2025年は100万人を突破すると見られています。また、下のグラフのように滞在日数が他地域に比べて長く、平均泊数は13.8泊。それに伴い、飲食費や宿泊費も多くなっています。ゴールデンルートから広島、長野、金沢等へ足を伸ばす人も多く、地方を訪れる観光客数は増加しています。
◯旅行好き
◯年に4回あるスクールホリデー期間での旅行が多い。12~2月は長期ホリデーにあたり、その時期は特に増える傾向がある
◯アウトドアアクティビティが好き。特にスノ―アクティビティは、南半球にとっての「夏」にあたるため人気
◯旅行時の消費単価と平均泊数の値が他市場に比べて高い
※詳しくは、【最新】2024年訪日オーストラリア人観光客の動向と2025年度の展望 をご覧ください。
オーストラリア人の関心が高いコンテンツ
下のグラフは、訪日オーストラリア人が日本でしたことを訪日回数別にまとめたものです。回数問わず人気が高いのは食事関係、観光地訪問、体験活動という結果となりました。他の地域、特にアジアと比較すると「日本の歴史・伝統文化体験」「日本の日常生活体験」が非常に高く、都市部以外の地域を訪れ、よりローカルに近い経験を求めていることがわかります。
参考:観光庁「訪日外国人旅行者の訪日回数と消費動向の関係について」
それではオーストラリア人が日本に来てやりたいこと、実際にしていることとは具体的に何でしょうか。以下で詳しく見ていきたいと思います。
■食・お酒
食事に関しては他国と同様、オーストラリアでも和食がブームになっています。街なかの和食レストランやラーメン屋は珍しくなく、ショッピングセンターには手軽にテイクアウトできる寿司屋があります。和食=ヘルシーフードという印象も大きく、健康志向のオーストラリア人から人気を集めています。
こうして日本食が訪日へのきっかけとなっている中、実際に日本を訪れた人々は食事に加え、日本酒を楽しむ人が多くなっています。居酒屋や寿司屋で飲むほか、観光で酒蔵に行くことも注目されつつあります。
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■伝統文化・芸能
オーストラリアは国としての歴史が浅いこと、アボリジナルカルチャーへの敬意が根付いていることから、歴史が深い場所・事柄や伝統的な慣習への関心が強いと言われています。宿坊体験、祭り参加などの大きなイベントから、お茶・お花の体験など数時間でできるものまで、広く関心を集めています。
■歴史・遺跡
城や歴史的建造物の見学は、オーストラリア人観光客に人気の定番コースとなっています。特に京都の寺、神社、庭園などは訪日旅行をする際の目玉。数日間の日程を確保し、ゆっくりと見て回ります。また、特筆すべきなのが熊野古道です。和歌山・熊野はオーストラリアで高い認知度をほこり、2023年には海外旅行客の15%をオーストラリア人が占めていたほどで、見学という言葉を超えたディープな体験が求められていることがわかります。
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■暮らし体験・交流
滞在期間が長くコミュニケーション好きなオーストラリア人らしく、暮らすように過ごす旅が好まれています。例えば朝起きたらランニング、そのあと伝統工芸の工房に行き、夜は居酒屋でナイトライフを楽しむ…といった、まるでそこに住んでいるかのような旅。受身な体験ではなく、日常をリアルに経験することで、より日本を身近に感じるようです。
また、最近は「デジタルノマド」も目立ってきています。彼らは海外を移動しながらリモートワークで働くというライフスタイルをとっており、普通の旅行だけでは得られない生活を楽しんでいます。オーストラリアのデジタルノマドが選ぶ「行きたい国」ランキングでは、日本はニュージーランドに次ぐ第2位。今後のインバウンドを考える際、デジタルノマドの存在も無視することができないでしょう。
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■豊かな自然
世界でも有数の自然環境に恵まれているオーストラリアの人々は、もちろん自然を愛し、大切にしています。それは海外旅行においても同様で、長野や北海道、沖縄、屋久島、阿蘇など自然豊かな観光地の人気が高くなっています。
オーストラリアは日本と同じ右ハンドル・左側通行であるためレンタカー利用も多く、こうした地域を巡るドライブや、自然を生かしたアウトドアアクティビティが好評を博しています。
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■アウトドア・アクティビティ
冬季のスノーアクティビティはもはや「鉄板」とも言えるでしょう。南半球のオーストラリア人にとって1月は「夏」なので、避暑として訪れた日本でスキーやスノーボードをすることに格別の楽しさを覚えるようです。
また、グリーンシーズン(春夏秋)に楽しめるアウトドアアクティビティとしては、ラフティングやカヌー、ハイキング、サイクリング、ゴルフなどが挙げられます。近年、日本の歴史的な街並みを見ながらのウォーキングが人気を博しており、特に妻籠・馬籠・奈良井が高く評価されています。さらに愛媛県のしまなみ海道ではサイクリングが楽しまれており、広島県までゴールデンルートに入れた場合のアクティビティとして関心を集めています。ゴルフも同様で、日本の自然を楽しみながらプレーできるゴルフ場は全国にたくさんあり、注目を浴びています。
これらのように、日本の自然を生かしたアクティビティを各地で企画し、周知させることが望まれています。
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■テーマパーク
東京ディズニーリゾート、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン、ジブリ美術館やニンテンドーミュージアムなどのコンセプトを定めたテーマパークが人気ですが、横浜ラーメン博物館などの食に関連した施設も根強い支持を集めています。オーストラリア人は家族旅行での旅行が多いため、子どもから高齢者まで楽しめる場所を訪れることが多くなっています。
インバウンドへの具体的な取り組み方
全体方針
日本政府観光局(JNTO)では、オーストラリア市場への全体戦略を以下のように定めています。
◯旅行時の消費単価と平均泊数の値が他市場に比較して高く、ロングホール旅行に慣れている特性から訪日時における消費額拡大を図る。
◯新規訪日層、リピーター層ともに人気のコンテンツであるスキーや豊かな自然、ローカルフードなどの観光情報を地方の魅力とともに発信することで訪日旅行者数の拡大を図る。
◯SDGs、サステナブル·ツーリズムへの意識の高まりを踏まえたプロモーションを展開する。
他国に対する全体方針と比較して特徴的なのが、SDGsをキーワードにしたプロモーションです。オーストラリア市場に効果的な戦略として挙げていますが、今後こうした動きは世界各国に広がっていくことが予想されますし、ひいては観光業界全体へポジティブに働くことは確実です。オーストラリアを起点とした展開として、力を入れてみても良いのではないでしょうか。
B to B
オーストラリア市場におけるB to Bへの効果的な方法として、日本政府観光局(JNTO)は以下のような戦略を提唱しています。
◯旅行泊・商談会
◯メディア・旅行関係者に対するセミナー
◯人材育成
◯旅行会社の招請
サザンクロス・プロモーションズでも、これに伴い様々なセミナー・商談会などを実践・支援しています。以下は、取り組み例の一部です。
■B to B観光商談会
観光関連事業者同士で行うビジネスイベントは、新たな取引に直結しやすいため非常に有効です。特に現地で対面で行うことは、海外で新たな販路を切り拓く絶好の機会と言えます。オーストラリアではJapan Roadshow、AIME(Asia-Pacific Incentives and Meetings Event)、Luxperienceといった商談会が行われており、それぞれ特徴やターゲットとなる層が異なっています。サザンクロス・プロモーションズでは、商談会の選定、現地での展示・販促物の手配、当日の運営、商談後のフォローアップなど、包括的なサポートを提供しています。詳しくは以下の記事をご覧ください。
■地方自治体によるオーストラリア訪問の支援
2025年5月に福島県のプロモーションとして、内堀知事がシドニーとキャンベラを訪問され、弊社は現地での活動をサポートしました。オーストラリア旅行業界との交流会では、東日本大震災被災地の復興支援に対する感謝を伝えるとともに、福島の「今」を発信。また、観光誘客プロモーションでは輸出の促進、インバウンドの拡大につながる機会を創出し、さらなる誘客拡大が期待されています。
福島県知事が豪州訪問、同県の今を発信し輸出促進とインバウンド拡大を図る
■日本の農林水産物や食品に関するセミナーのサポート
今後の輸出拡大が期待できるオーストラリアにおいて、現地の食肉業者、レストラン関係者やメディア向けに、日本産食品の高品質と魅力を啓蒙するセミナーを開催しています。日本産和牛に関するセミナーを行った際は、参加者の方たちが活発に情報交換する様子が見られ、今後の輸出推進への糸口となることが見込まれています。
B to C
B to Cの取組としては、以下のような戦略が効果的だとされています。
◯インターネット(ウェブ・SNS)
◯広告
◯旅行泊・イベント
◯PR(広報)
◯メディア招請
◯共同広告
◯インフルエンサー招請
サザンクロス・プロモーションズでは、日本に関心がある人々が集まるイベントのコーディネートや出店サポート、メディア戦略などを提供しています。
■「酒フェス」の運営
酒フェスは、日本酒をはじめとするアルコール、食品などのPRイベントです。日本好きのオーストラリア人が集まるので、お酒だけに限らず、旅行や伝統工芸品などのブースも設けています。この酒フェスをはじめとした様々な取り組みにより、オーストラリアへの日本酒の輸出量は年々増え、2024年には輸出額が前年比21.4%増、輸出数量が27.4%増と、大きく拡大しました。
■日本を紹介するオーストラリアの情報サイト「G’Day Japan! 」の運営
G’Day Japan!は日本への旅行を計画しているオーストラリア人のための情報サイトで、年間24万人以上の人々に利用されています。
■オーストラリア国内でのイベントへの出展サポート
ターゲットや商品特性に合わせた最適なイベントの提案からブースアレンジ、通訳者の手配、報告書の作成などのサービスを提供しています。特に毎年行われているSnow Travel Expoには日本各地からの参加があり、スキー場への集客につながっています。
オーストラリア市場における主なターゲット
有効なプロモーションを行うには、ターゲットを的確に意識することが最善策です。オーストラリア市場において主要ターゲットに設定されている、以下の4つの層の特徴および訴求ポイントを確認しておきましょう。
ターゲット別戦略①20~40代夫婦・パートナー FIT
■特徴
時間・予算ともに余裕があり、アクティブ。比較的遠い地方まで足を伸ばしてアウトドアアクティビティに挑戦したり、居酒屋などのナイトライフを充実させる人が増えています。
■訴求ポイント
多数の観光客が行く有名スポットだけでなく、珍しい景色・食べ物・体験等をアピールすることが効果的。ユニークな体験と自然、ローカルフードなど、複数のアクティビティを組み合わせて魅力を発信するのがおすすめです。
ターゲット別戦略②30~40代家族(子連れ)
■特徴
テーマパークなど、子どもを中心に家族全員が楽しめる場所・アクティビティが人気です。子どもに異文化を意識させるような伝統行事体験も高い関心を集めているほか、日本では社会見学で行くような工場などのツアーもニーズがあります。
■訴求ポイント
グループ単位で申し込むため、体験などに対する消費単価が高くなります。日本の強みである自然と組み合わせて発信すると効果的です。
ターゲット別戦略③20~30代ひとり旅行 FIT
■特徴
個人の趣味に基づく目的を持って行動することが多く、ポップカルチャーへの消費が見られます。地方へ足を向ける人も増えており、宿坊・修行などのディープな体験も注目を浴びています。
■訴求ポイント
SNSなどを使用した、多角的かつ迅速なアプローチが有効です。インバウンドインフルエンサーを起用した発信も、実効性が高いと見られています。
ターゲット別戦略④50代以上 世帯可処分所得上位40%(1000万円/年以上)
■特徴
食事、宿泊、アクティビティともに、上質な経験が望まれています。環境に対する問題意識も強く、SDGsを意識した取り組みやエコツアーの人気が高まっています。
■訴求ポイント
旅行会社から予約することが多いため、イベントや商談会などの場でアピールしていくことが有効です。サステナブルな取り組みかどうかも意識してみると良いでしょう。
日本の受け入れ体制の課題
訪日観光客の満足度を上げ、リピーター客を獲得していくために必要なこと、現在足りていないことは何でしょうか。SNSでの発信が大きな効力を持っている今、観光客ひとりひとりに充足感を味わってもらうことが大切です。ポイントをおさえ、課題解決の糸口を探っていければ、観光地としてより良い経験を提供していけるでしょう。
■言葉が通じない
オーストラリアには初等・中等教育で日本語を学習した人も少なくありませんが、それでも旅行先できちんとコミュニケーションを取るとなると、使える人はあまりいません。英語が話せるスタッフを置くことが最善ではありますが、それが難しくても英語表示を作成するなどの対応は可能です。できることからひとつずつ進めていきましょう。
■クレジットカードが使えない
オーストラリアはカード社会であり、現金を持ち歩かない人も増えています。滞在期間が長い分、消費額は上がりますが、長期間大金を現金で持ち歩くわけにはいかないので、カード対応していない店では消費に結びつかないでしょう。カード支払いに対応できるよう、体制を整えておく必要があります。
■ヴィーガン・ベジタリアン・グルテンフリー・アレルギーへの対応が未熟
日本ではあまり馴染みのない言葉ですが、オーストラリアではヴィーガンやグルテンフリーを実践している人が年々増えています。そのため大抵のレストランがメニューに原材料を表示しているほか、アレルギーの有無、ベジタリアン対応かどうかなどが明記されています。ところが日本はそうした表示がされていないため、訪日時に困惑する人が多いといいます。料理を変えるわけではなくメニューの表示方法に工夫を加えて解決できることが多いので、観光客を迎える際に検討していくことが望ましいでしょう。
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■部屋が小さい、ベッドが小さい
オーストラリア人は男女ともに体が大きいので、日本人向けのホテルだと窮屈さを感じてしまうのが現状です。突然変えることはできないと思いますが、買い替える機会がきた時には、大きさを意識してみてください。
■オーバーツーリズム
これはオーストラリア人観光客に限らず、日本のインバウンド全体の問題として解決の糸口を探っていかなくてはいけない課題です。オーストラリア人に関して言えば、地方へ行くこと・知られていないスポットに出かけることに抵抗が少なく、また、ユニークな体験も好むので、戦略的に観光客を分散させることで、混雑を緩和することができるでしょう。拝観・見学時間の枠を設けて予約制にしたり、少し離れた場所に別のアクティビティを配置することも有効です。
まとめ
オーストラリア市場は拡大傾向にある上、滞在期間が長く消費単価が高いという特徴があり、日本の観光業界にとっては理想的なインバウンド対象だと言えます。また、日本にはオーストラリアの人々が知らない魅力がまだまだたくさんあり、これまで以上の訪日客を呼び込むことも十分に可能です。オーストラリア国内で高まる日本への旅行ブームを途切れさせることなく、また長期的なものにするため、ターゲットを見定めてプロモーションを仕掛けていく必要があるでしょう。効果の出やすいPR方法、多岐にわたる戦略など、検討の余地はまだまだ残されています。
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