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観光とビジネスをつないで長期的発展へ! 注目の”ループバウンド”を探る

By SCP編集部 in オーストラリア基本情報, ツーリズムデータ

年間100万人に達する勢いで増加している訪日オーストラリア人観光客ですが、日本への旅行者数が増えるのと同時に、オーストラリア国内での日本食人気も活気づく一方です。

さて、この「日本への観光客の増加」と「オーストラリアでの日本食の流行」は、無関係な話だと思いますか? もちろん答えはNOです。両者は互いに影響し合っており、偶然に起こっているわけではありません。観光を終えて帰国した人々が、日本で経験したことを生活の一部として取り入れる。それが人気の渦を生み、さらにその流れで日本食を知った人々が、新たに日本への旅行を企画する。観光と飲食ビジネスの間には、じつはこうした”ループ”が存在しているのです。

これを意識的につなげていく取り組みが”ループバウンド”であり、訪日外国人が増えている今こそ、この動きが求められています。ではループバウンドとは具体的に何をすべきであり、どういったことができるのでしょうか。

ループバウンドとは?

インバウンドとアウトバウンドが双方向に循環する仕組み

ループバウンドとは、日本インバウンド連合会が提唱する観光・ビジネス戦略です。外国人観光客が日本を訪れるだけでなく、訪れた経験(=インバウンド)から日本文化を海外に広め(=アウトバウンド)、結果として日本に還流するような仕組みのことを言います。

日本では現在、海外の消費者に対して、インバウンドは「訪日観光誘致」、アウトバウンドは「海外進出」と、個別の取り組みを行っていますが、ループバウンドはこれら2つの動きを連携させ、相互が循環的に発展することを目的としています。単独分野の枠を超えることで、インバウンド・アウトバウンドともに、さらなる躍進を遂げる可能性が秘められているからです。そのためにはどちらか一方だけを見るのではなく、大局的観点から構造的に取り組む必要があります。

目的は【中長期的】な利益

ループバウンドが目指すのは一時的な観光収入や売り上げではなく、中期的・長期的な成長です。

例えば訪日外国人に人気のいちご大福屋さんがあるとします。その店はブームが続く限り、観光客からの利益を得ることができるでしょう。しかし観光客が自国に戻ったあと、もしその店を思い出させる仕掛けなどがあれば、その店は海外でも話題となります。海外での知名度が上がるにつれ、次はその店に海外進出の話が舞い込むかもしれません。実際に出店までいかなかったとしても、いちご大福の知名度・ブランド力はさらに広がり、新たな訪日のきっかけとなるでしょう。すると元々のいちご大福屋さんはもちろん、その地域全体の文化を訪日外国人に知ってもらえたり、その他の大福屋さんも観光客でにぎわっていくかもしれません。

この流れこそループバウンドであり、地域・業界全体を巻き込んだ大きな循環作用をもたらすと考えられています。こうした流れができるまで少し時間は要しますが、その分、国内の観光業にとっても海外ビジネスにとっても、一時的ではなく持続可能な利益を得ることができるでしょう。

SNS時代とループバウンド

今や人々の生活と切り離すことができないSNSですが、これこそがループバウンドの活性化に欠かせない、影の立役者になると見られています。SNSは情報収集でインバウンドを引き寄せ、後日、その人自身の体験・経験を発信してアウトバウンドを創出します。つまり日本を訪れる年間約100万人のオーストラリア人が楽しんだ出来事は、SNSを通して彼らとつながる何千万人の人々に伝わり、新たな展開を見せていくに違いありません。

SNS全盛時代、訪日外国人”総メディア化”の今、ループバウンドには追い風が吹いていると考えて間違いないでしょう。

ループバウンドが生み出す持続可能な市場

観光とビジネスのループバウンドが成果として表れている市場は、国内外を問わずいくつも見られます。特に、人々の「こうなりたい」「これをしたい」といった、日常に身近なもの・コトを扱う市場が多くなる傾向があります。

フードツーリズム

外国人に人気の日本食といえば寿司やラーメンが挙げられ、海外でフランチャイズを展開する店も増えています。こうした店が日本食ブームを牽引し、訪日観光客の増加(インバウンド)に一役買ってきました。今では日本旅行で多様な食文化を楽しんだ訪日客が帰国後、これまで知らなかった日本食の購入に向かうため、定番と言われた日本食以外の海外進出(アウトバウンド)も進んでいます。

最近はこうした流れから、納豆や甘酒、かまぼこなど、発酵食品や地方の特産品、郷土食レストランなども人気を博しています。

カルチャーツーリズム

日本の伝統的工芸品は、実際に本物に触れ、そのものに息づく歴史や文化的背景を知ってこそ、魅力が存分に伝わるもの。訪日観光客に触れてもらい、良さを存分に味わってもらうことで、海外でのブランド力が高まります。販売という直接的な形でなくても、こうした広義でのアウトバウンドが次の訪日客へ襷をつないでいきます。

また、地域の工芸品を海外にオンライン販売する動きも拡大しつつあります。これにより実際に日本を訪れることができない人も購入が可能となり、海外から地方経済への直接的な収益が生み出されています。

ウェルネス&美容ツーリズム

海外を例にとると、20数年前、日本で韓国ドラマが流行し、韓国でのアカスリ体験がブームとなったのを覚えているでしょうか? その後、韓国コスメが日本で話題となり、韓国へ美容旅行に行ってお土産に韓国コスメを購入する人々が急増。10年ほど前からは日本のコスメラックが韓国コスメで埋まり、若者中心に韓国美容が定番化するほどになりました。これはまさにループバウンドと言えるでしょう。

日本でもこうした美容ツーリズムが増えており、美容院やネイルサロンが訪日観光客から人気を博しています。2024年に行われた美容サロンにおけるインバウンド実態調査によると、日本の美容サロンに対して「利用意向がある」外国人旅行者は50.2%にのぼることがわかりました。魅力に思う点として、施設の清潔感や技術、丁寧な施術等が挙げられており、こうした印象はアウトバウンドにおいても大きなアドバンテージとなるでしょう。

(出典:【株式会社リクルート ホットペッパービューティーアカデミー】

 

またメガネ市場も同様に海外から好評で、アウトバウンドの流れが期待されています。

『JINS』は英語、中国語を始めとした5か国語に対応したキャンペーンサイトがあり、30分でメガネを作ることができるという点がアピールされています。オーストラリアでは通常、眼科とメガネ購入が別々なので、手間がかかる上、メガネができるまで長くて約2週間かかる場合もあるのですが、『JINS』では、検眼からフレーム選び、レンズ加工、商品受け取りまでを約30分で実現。観光の合間に手軽にメガネを購入できると、訪日客から人気を集めています。日本でやりたいことのTo Do Listに”メガネ作り”を挙げる人も増えており、クチコミ・PRを中心としたループバウンドが形成されています。

対オーストラリアの取り組み

ループバウンドのカギは“SIT”

ループバウンドに有効なものとして、SIT(=Special Interest Tour)が挙げられます。これはスキー旅行やスポーツ観戦ツアーなど、ある事柄にフォーカスを当てた旅行形態のことで、一般的な観光よりも深い体験が提供されるため、アウトバウンドへの影響も大きくなっています。

訪日オーストラリア人に関しては、そもそものニーズがSITと合致していることもあり、食・観光・文化の融合をはじめ、よりループバウンドを引き起こしやすい状況にあると見られています。

日本酒

現在オーストラリアでは、日本酒を嗜む人々が増えてきています。そのきっかけとなっているのが、まさにループバウンド。たとえば訪日した際に居酒屋で口にするほか、酒蔵ツアーに行く人も増えていて、旅行をきっかけとして日本酒を試す人々が多くなっています。

こうしたインバウンドの動きをアウトバウンドにつなぐ取り組みが、すでにオーストラリア国内で行われています。

日本酒とフードのペアリングイベントの実施、現地飲食店とのコラボレーション、オンライン販売の強化に加え、日本酒の試飲販売を軸としたイベント「酒フェス」(※)の実施など、日本酒好きの人はもちろん、日本に行ったことがない人も日本酒に触れる機会がたくさん設けられています。これらの取り組みにより、オーストラリアへの日本酒の輸出量は年々増え、2024年には輸出額が前年比21.4%増、輸出数量が27.4%増と大きく拡大しました。

※今年の酒フェスは、ブリスベン、メルボルン、シドニーの3都市で開催されます。くわしくは公式サイトをご覧ください。

サザンクロス・プロモーションズが取り組む今後の展開と課題

オーストラリアと日本の間のループバウンドの動きは、日本食や日本酒以外の事柄に関しても嘱望されており、今後の展開が期待されています。サザンクロス・プロモーションズでは、訪日観光市場(インバウンド)と日本からオーストラリアへの輸出市場(アウトバウンド)を一体として捉え、双方向の流れを強化するため、新たなPR活動を提案しています。

具体的には、日本酒の魅力を伝えるイベント「酒フェス」の場を活用し、訪日観光に親和性の高いオーストラリアの消費者層に向けたプロモーションを展開。現地では、旅行前(旅マエ)の段階で日本旅行に関心を持つ来場者に対し、ツアー情報や関連サイトを資料やノベルティを通じて直接紹介することで、観光意欲の喚起を図っています。また、オンライン上でも同時にプロモーションを実施し、現地からの旅行予約の促進に加え、日本滞在中(旅ナカ)の訪日客にもアプローチする広告施策を展開しています。さらに、旅行後(旅アト)における日本酒の継続的な消費促進にも取り組むことで、訪日体験の記憶を定着させ、次回の訪日意欲につなげています。

このように、アウトバウンド事業の「酒フェス」と訪日観光を支援するインバウンド事業を有機的に結びつけ、現地での接点から訪日体験、さらに帰国後における日本酒をはじめとする日本産品の消費へと続く循環的な流れを設計することこそが、「ループバウンド」の考え方です。

まとめ

インバウンドでの体験が、帰国後の消費行動につながることは確実と言われています。ならばインバウンド需要が高まっているこの状況を、アウトバウンドに向けて効果的に利用しない手はありません。それが新たなインバウンドとなって訪日観光をさらに盛り立てていくことでしょう。

そのためには観光業界全体を巻き込む視点で、意識的かつ戦略的にループバウンドの動きを作っていくことが大切です。サザンクロス・プロモーションズでは、日本酒や日本食はもちろん、それ以外の取り組みも扱っています。まずはお気軽にお問い合わせください。

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