By SCP編集部 in オーストラリア基本情報
近年の少子化問題による人口減少により日本国内での需要が限られている中で、訪日外国人による消費(インバウンド需要)に近年注目が集まっています。2015年には「爆買い」と呼ばれる主に中国人観光客の大量消費が流行語になったことからも、日本では全国的にインバウンドの注目度が高いことが見て取れます。
国土交通省(観光庁)の調査によると、2019年の訪日外国人消費総額のトップ3を占めるのは、中国、台湾、韓国のアジア勢であるなど、現在の日本インバウンド市場の中心がアジア地域であることは間違いありません。そんな中で、個人消費額がすべての国の中でトップ、そして過去5年間でインバウンド数が倍増している国があります。それが、アジアに最も近い西洋文化の息づく国「オーストラリア」です。そのGDPは、実質成長率で28年連続成長(世界第1位)を誇ります。
今回は、そんなオーストラリアの経済の強さと、新規インバウンドマーケットとして最適である理由を、5つの視点から紐解いていきます。
理由① G7とオーストラリアの経済成長率の推移
上記のグラフは、2000年から2020年までのオーストラリア及びG7(先進7カ国:アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ)の国々の前年比の経済成長率の推移を表しています。過去20年の間、G7すべての国が、一度は前年よりも実質GDP総額が減少したことを表す『マイナス後退』が見られますが、オーストラリアでは一度も見られません。
先進国が相次いで経済的な大打撃を受けたリーマンショック(2007年以降)のときに一時的に数値が落ち込んだものの、成長率がマイナスになることはなく、プラスの成長を保ち続けました。1992年から実に28年間にも及ぶプラス成長の連続記録は、世界最長を誇ると同時に現在も更新し続けています。このようなことからオーストラリアは安定した経済大国であることがうかがえます。
理由② G7とオーストラリアの日本における1人当たりの旅行消費額の比較
出典:国土交通省観光庁2019年:国籍・地域別の訪日外国人1人当たり費目別旅行支出
上記のグラフは2019年のG7(日本を除く)とオーストラリアの1人当たりの日本での旅行消費額を示したものです。G7と比べてもオーストラリアが最も高い数値となっています(24万円)。IMF(国際通貨基金)の調査によるとGDPの名目総額が、G7の国々はTOP10内にランクイン、オーストラリアは14位*とGDPではG7諸国には劣るオーストラリアですが、このグラフから海外旅行における個人消費額は高いことがわかります。
GDPの総額は、国民全体の所得に等しいため、オーストラリア人はG7諸国と比較して、総所得に対する海外旅行消費額が高いことがうかがえます。
理由③ 訪日外国人の1人当たりの消費額ランキング
ここで、すべての国で比較したトップ5を見てみます。表は日本に訪れる外国人観光客の1人当たりの消費金額上位5カ国です。
2019年 訪日外国人 1人当たりの消費金額ランキング
順位 | 国名 | 1人あたりの消費総額(円) |
1位 | オーストラリア | 24万9,128 |
2位 | 英国 | 24万1,530 |
3位 | フランス | 23万7,648 |
4位 | スペイン | 21万9,999 |
5位 | 中国 | 21万2,981 |
*訪日外国人1人当たりの平均消費金額:15万8,458円
出典:国土交通省観光庁2019年:国籍・地域別の訪日外国人1人当たり費目別旅行支出
堂々の第1位にオーストラリアがランクイン。オーストラリア人の1人あたりの消費総額は約24万円と、日本国内で消費されている平均金額の約1.5倍です。オーストラリアは訪日外国人の中でも屈指の消費力を誇る国であることが分かります。2017年には中国が1人あたりの消費総額1位でしたが、年々訪日オーストラリア人の消費力が高まっていることがうかがえます。
理由④ オーストラリア人の旅行にかける消費項目
順位 | 国名 | 1人あたりの消費金額 | 宿泊料金 | 飲食費 | 交通費 | 娯楽・サービス費 | 買い物代 | その他 |
1位 | オーストラリア | 249,128 | 100,192 | 61,747 | 36,128 | 19,348 | 31,714 | 0 |
2位 | 英国 | 241,530 | 103,364 | 62,180 | 33,292 | 22,183 | 20,443 | 68 |
3位 | フランス | 237,648 | 100,590 | 59,290 | 35,777 | 10,810 | 31,181 | 0 |
4位 | スペイン | 219,999 | 89,249 | 57,976 | 36,828 | 10,606 | 25,215 | 125 |
5位 | 中国 | 212,981 | 45,368 | 36,721 | 15,296 | 6,771 | 108,800 | 26 |
出典:国土交通省観光庁2019年:国籍・地域別の訪日外国人1人当たり費目別旅行支出
これは、訪日外国人の1人当たりの消費総額上位5位の項目別消費額の表です。
オーストラリア人の旅行にかける費用では「宿泊費」にかける消費金額が一番高いことが分かります。2位のイギリスとの金額差は8,000円以上です。さらに、娯楽・サービス費は全体で2位の消費額となっています。これらのオーストラリア人の消費に関する際立った特色は、ホテルや旅館などの宿泊施設や、レジャー施設など「コト」消費が多ことからも、消費観光業界への収入が見込まれます。
電化製品や化粧品を中心とした「爆買い」では、宿泊業界などではなかなか利益に直結しないことがしばしばあります。オーストラリア人はそれらの業界にとってもうれしい客人です。
理由⑤ オーストラリアの人口推移と物価上昇率
オーストラリアの経済力の強さは、経済成長率以外にもみることができます。具体的には、人口推移、物価の上昇に表れています。
人口
オーストラリアの継続的な人口増加は、国内市場で需要を生み出すとともに、労働力人口の増加につながり、経済発展の要因のひとつとなります。人口の増加について詳しくは、【人口の推移からみるオーストラリアの今後】のページをご参照ください。
物価上昇率
下の表は、オーストラリアと日本のここ10年間における前年比の物価上昇率をまとめたものです。この期間、オーストラリアは一度も物価上昇率がマイナスになったことがありません。数値の多少の差はありますが、常にインフレ傾向にあることは確かです。持続的なインフレ傾向は、所得額の増加を導き、可処分所得の増加につながります。
オーストラリア(%) | 日本(%) | |
2010 | 2.9 | -0.7 |
2011 | 3.4 | -0.3 |
2012 | 1.7 | -0.1 |
2013 | 2.5 | 0.3 |
2014 | 2.5 | 2.8 |
2015 | 1.5 | 0.8 |
2016 | 1.3 | -0.1 |
2017 | 2 | 0.5 |
2018 | 2 | 1 |
2019 | 1.6 | 1 |
2020 | 1.8 | 1.3 |
インバウンド新規開拓に最適の国、オーストラリア
オーストラリアの継続した経済の強さは新たに訪日インバウンドのプロモーション活動を行う相手国として、最適とな国と言えます。さらに消費傾向から、オーストラリア人は形に残る「モノ」よりも、体験など「コト」に関する注目が高いことがわかり、レジャー施設など、商品の主体がサービスである企業のプロモーションに適しています。
そのため、意識的に体験型のイベントを取り入れることにより、オーストラリア人の集客を見込むことができるでしょう。
経済力が安定しているオーストラリアでの訪日インバウンドビジネスは、一時的なムーブメントで終わらせることなく、長期的な関係を構築できるエンゲージメントマーケットとして定着させることで、さらなる可能性が広がると考えられます。
文:渡邉悠治