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訪日オーストラリア人観光客が日本で直面する食に関する課題と対策

By SCP編集部 in オーストラリア基本情報, ツーリズムデータ

コロナ禍が落ち着き、2022年に日本への渡航が解禁されて以来、訪日旅行需要は急激に回復しました。2023年には訪日オーストラリア人の数が2019年の水準(約60万人)まで戻り、さらに2024年には前年を大幅に上回り90万人を突破するなど、驚異的な成長を遂げています(JNTO「豪州市場」)。こうした状況で浮き彫りになるのが訪日オーストラリア人が直面する日本における食の問題です。

オーストラリアでは「便利でおいしい」という要素よりも「身体に有害ではない」ことが優先される傾向があり、日本とは多少異なる部分と言えるでしょう。そのため、訪日オーストラリア人観光客がどのような懸念を抱いているのか、観光客を受け入れる側の日本人も知っておく必要があります。本記事では、オーストラリア人観光客が日本での食事を十分に楽しむことができるように知っておきたい点をまとめました。

この記事を読むことにより、オーストラリア人の食文化や対策などがわかります。ぜひ最後までご覧ください。

訪日オーストラリア人観光客が日本の食に対して抱く懸念とは

日本を訪れたオーストラリア人観光客が、日本で食事をとる際にいくつかの点に懸念を抱くことがあります。その内容を以下にまとめました。

  • ベジタリアンメニューがあるかがわからない
  • ハラールに対応しているかがわからない
  • 食事の量が少ない
  • 動物の原型が残る料理の提供
  • アレルギー表記の問題
  • グルテンフリー
  • 多言語表示やコミュニケーション
  • 文化や仕組みの違いへの戸惑い

ベジタリアンメニューがあるかがわからない

日本ではベジタリアンなどの比率が全体の5.1%と諸外国と比べても平均的とされていますが、オーストラリアではベジタリアンの割合が多い傾向にあります(観光庁「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド」)。

オーストラリアではベジタリアンやヴィーガンへの対応は一般的ですが、日本ではまだ対応しきれていないケースが目立ちます。ベジタリアンやヴィーガンに対応したメニューを置いているのかどうかがすぐにわからない点は、不満を抱きやすい要素となり得るのです。

ハラールに対応しているかがわからない

オーストラリアは多民族国家として知られ、宗教的多様性も顕著です。オーストラリア人の3%ほどがムスリムであり(ハラル・ジャパン協会「【オーストラリア】メルボルンにおけるムスリムやハラルについて」)、ムスリムの文化が社会の中のあちらこちらで目にすることができます。

彼らが食べる「ハラール食品」もそのひとつで、ハラール認証を受けたレストランがオーストラリアには多く存在します。一方、日本においては、そもそもハラールの認知が低く、当然ハラール認証を取得した店舗は少なく、店舗のホームページなどを見てもハラール対応しているかどうか、ムスリムの外国人が見てもすぐにわからないのが実情です。

食事の量が少ない

オーストラリア人が日本の食事で不満を抱きやすい要素としては、食事の量も考えられるでしょう。たくさんの肉を食べるオーストラリア人にとって、日本で出される食事の量は多いとは言えないかもしれません。しかし、これは単純に日本人の食事量の基準がオーストラリア人のそれより少ないというだけで、訪日数が多くなるに連れていわゆる「ジャパン・スタンダード」が浸透しつつあり、また「インバウンド対応」をする店が増えてきていることである程度は解消しつつある問題だと言えると思います。

動物の原型が残る料理の提供

オーストラリアでは、動物の原型をイメージさせるような料理は一般的ではないことから、魚介のタコやイカ、エビなどは見た目のグロテスクさを理由に苦手と感じる人が多いです。また、モツやホルモンなどの内臓系の料理もオーストラリア人から嫌われる傾向にあります。他にもウニや白子、明太子なども決して人気とは言いにくく、見た目や食感が好きではないと感じる外国人が目立ちます。

アレルギー表記の問題

オーストラリアでは2024年2月からアレルギー表記の厳格化が始まり、アレルゲン(アレルギーの原因となる抗原)太字で表記することなどが義務化されています。消費者の健康被害を防ぐことが主な目的であり、アレルゲンが表示されていなかったことを理由に食品の自主回収が行われるケースも少なくありません。

一方、日本では、アレルギーの症例数が多い8品目を特定原材料に指定し、表示を義務付けしています。小麦も特定原材料8品目に含まれており、小麦が使用されている場合には記載しなければなりません。

ただし、オーストラリアでは大麦やオーツ麦、ライ麦などもアレルギー表記の対象となっているのに対し、日本は小麦のみが対象です(消費者庁「加工食品の食物アレルギー表示ハンドブック」)。

例えば、ライ麦のアレルギーを持つオーストラリア人が、日本でライ麦が入っていない製品を選ぼうとしても、「小麦」の有無こそわかるものの、「ライ麦」の有無はわからず、安心して購入できません。

また日本ではレストランにおいても、アレルギー表記の義務化はなく、飲食店によって表記しているケースもあれば、全く表記していないケースもあり、外国人旅行者が安心して料理の注文ができないことが考えられます。

グルテンフリー

オーストラリアでは健康志向の高まりなどからグルテンフリーが一般的となっており、グルテンフリー食品が多く店頭に並んでいます。またグルテンフリーに関する基準も厳格に定められています。

一方、日本ではグルテンフリーが普及していないため、グルテンフリー食品を取り扱うレストランやスーパーもまだまだ少ないのが現状です。またオーストラリアでは小麦だけでなくライ麦や大麦などもグルテンフリーに関する基準の対象となりますが、日本では小麦だけが対象です。そのため、日本で小麦を使用していない食品を見つけても、実際にはライ麦や大麦などが含まれていて、グルテンフリー食品とは言えないケースもあります(ニップン栄養情報サイト「第1回 グルテンフリーとグルテンフリー食品が必要な人」)。

多言語表示やコミュニケーション

オーストラリア人が日本の飲食店で直面するのは、メニューの多言語表示が不十分であったり、注文を取る際に言葉の壁があってうまく注文できなかったりするケースも少なくないでしょう。

言葉がわからないことは外国人観光客からすればストレスを感じやすい部分であり、店員とのコミュニケーションがスムーズにできない点も懸念材料と言えます。また、オーストラリア人がベジタリアンやヴィーガン、ハラールに対応したメニューがあるかを店舗側に尋ねようと思っても、店舗側がうまく理解できず、行き違いが生じるケースも考えられるでしょう。

文化や仕組みの違いへの戸惑い

日本を訪れるオーストラリア人の中には、日本を訪れて食文化や仕組みの違いに戸惑うケースが見られます。

例えば、日本だとレストランを訪れた際、水やお茶などが出されますが、オーストラリア人のなかには事前に何を飲みたいかを確認されることなく水などが提供されることに戸惑う人もいるかもしれません味噌汁を提供する際にもスプーンと一緒に出すと喜ばれるなど、ちょっとした文化の違いがあるため、注意が必要でしょう。

オーストラリアにおけるベジタリアンの現状

オージービーフをはじめ、牛肉のイメージが強いオーストラリアですが、じつはベジタリアンの数が増えているようです。

成人の10%以上がベジタリアン

オーストラリアではベジタリアンが年々増えており、2016年にRoy Morganが行った調査では、オーストラリア全体の11.2%がベジタリアンであると回答しています。その中でも、ムスリムが多く住んでいるメルボルンが最もベジタリアンが多いとされています。

2022年に行われたベジタリアン・ヴィーガン対応レストラン検索アプリによる「Vegan-Friendly Cities」ランキング調査では、ロンドン・ベルリン・ニューヨークに次いでメルボルンがランクインしています(FOOD DIVERSITY「Happy Cowが「Vegan-Friendly Cities」TOP10を3年ぶりに発表」)。

ベジタリアンメニューを用意するスーパー・レストランが一般的

成人の10人に1人以上がベジタリアンであるオーストラリアにおいて、ベジタリアン向けのメニューやサービスは一般的です。

ほとんどのファストフード店では、ベジタリアンやヴィーガンに対応したメニューが用意され、ヴィーガン向けやグルテンフリーの麵が食べられるラーメン店などもあり、ベジタリアンメニューを用意するのが当たり前と言える状況です。

ベジタリアンの種類

ベジタリアンはヴィーガンを含めると主に9つの種類があります。

  • 完全菜食(Vegan)
  • 乳菜食(Lacto-Vegetarian)
  • 卵菜食(Ovo Vegetarian)
  • 乳卵菜食(Lacto-ovo Vegetarian)
  • 魚介類菜食(Pesco-Vegetarian)
  • 鶏肉のみ食べる菜食(Pollo-Vegetarian)
  • 果食主義者(Fruitarian)
  • 半菜食主義者(Semi Vegetarian)
  • 五葷を除いた完全菜食(Oriental Vegetarian)

野菜だけを食べるのがベジタリアンではなく、卵や乳製品、魚介類を含めるかどうかなどを含めると9種類に分類されます。

オーストラリア人が食事制限を行う理由

オーストラリア人が菜食を好む理由としては以下の4つ挙げることができます。

  • 健康意識の高まり
  • 宗教的な理由
  • 環境問題
  • 動物愛護

健康意識の高まり

オーストラリアでは以前から肥満が問題視されています。過去にはBMI25以上の人口比率のランキングにおいて、男性部門でOECD加盟国ワースト2位になったこともあるほどです(オリコン「肥満率世界一はアメリカ 約7割が太り気味の傾向あり」)。

肥満率が高い要因として、オーストラリア人の食べる量の多さや肉食などが考えられています。オーストラリア政府は国民の肥満化に歯止めをかけようと、肥満対策に予算を計上するなど、健康意識を高める努力を続けている状況です。こうした取り組みもあり、次第に健康意識が高まり、ヘルシーなベジタリアンメニューなどが人気を集めるようになった模様です。

宗教的な理由

オーストラリアでは人口の3%ほどがムスリムであり、イスラム教の教えに則った食品「ハラールフード」もよく目にします。ハラールフードは厳しいルールの中で加工された動物の食肉をはじめ、野菜・果物・豆類などがあり、ベジタリアン・ヴィーガンとも親和性が見られます。ムスリムは豚肉をはじめ、厳しいルールに則って加工されていない動物の食肉は禁じられており、またアルコールは禁忌であり、料理にアルコールを使うことも避けられています。

環境問題

オーストラリアにおいてベジタリアンに転向する人の中には、環境問題を理由とする人がいます。昨今、畜産がもたらす温室効果ガス排出の問題などが取りざたされており、温室効果ガス削減の意味合いでベジタリアン・ヴィーガンに転向する人が増えているのです。ちなみに、環境保全を理由に菜食主義を貫く人のことは、自然環境という意味があるエンバイロメントを用いて「エンバイロメンタルヴィーガン」と呼びます。

動物愛護

ヴィーガンになる人の中には、動物愛護を理由にする人がいます。元々オーストラリアは動物愛護先進国と呼ばれ、ペットを飼う世帯は全体の7割ほどに及ぶくらい、動物を飼うのが一般的です(RSPCA「How many pets are there in Australia?」)。オーストラリアには多くの動物愛護団体があり、動物を守る活動をする中で自然とヴィーガンになる人も少なくないようです。

日本で行われているレストランなどの対策

これだけ訪日外国人が増えてくると日本全国にあるレストランや宿泊施設では、外国人に対する接客方法も考えなければなりません。

観光庁「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド」を参考に、訪日オーストラリア人をはじめとする外国人に対して行われている施策の数々をご紹介します。

ベジタリアンやヴィーガンなどに対応する内容をホームページで示す

ホームページにて、ベジタリアンやヴィーガンなどに対応していることを示すのがおすすめです。例えば、「ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル」ではホームページにおいてベジタリアンへの対応を英語で明記しています。

また口コミサイトなどに店舗情報を掲載して広めていくなど、オンライン上での情報発信に積極的です。訪日前から情報収集を行うオーストラリア人からすると、安心して宿泊できる有益な情報になり得るというわけです。

通常メニューとしてベジタリアン対応メニューを用意する

ベジタリアンやヴィーガンの人が来るたびに特別メニューを用意するのではなく、通常メニューとしてベジタリアン対応メニューを用意することによって、オペレーションがしやすく、混乱が生じにくくなります。

例えば、都内に5店舗ある「Mr. Farmer」では、メニュー全体の半分をヴィーガンメニューが占めており、メニューにもヴィーガンの料理であることを端的に示すマークがついています。

また、名古屋で味噌煮込みうどんを提供する大久手山本屋では、ベジタリアンやヴィーガン、ハラールにも対応した味噌煮込みうどんを開発し、販売しています(やまとごころ.jp「フードダイバーシティへの対応がもたらす4つのメリット —名古屋の老舗味噌煮込みうどん店がハラール・ヴィーガン対応を始めた理由」)。

ハラール認証の取得

イスラムの教えに則って生産された商品であることを証明する「ハラール認証」を取得することによって、安心してムスリムの人に利用してもらうことができます。

広島にある「にしき堂宮島店」では、ハラール認証を取得した商品であることをわかりやすくアピールすることでムスリムの人にも安心して買ってもらえるようになっています。ムスリムへの対応状況がわかりやすく明示されているのも安心できる要素です。

食べられない食材を事前に聞き取る

ベジタリアンやヴィーガン、ムスリムなどの人に対して、食べられない食材を事前に聞き取ることも大切です。例えば、日本など非イスラム諸国を旅行する際、食事の場面で豚肉などを使っていないかを必ず尋ね、確認できない場合は口につけないムスリムは全体の7割に及びます。おもてなしの観点から、前もって豚肉や豚肉由来の食材を使っていないことなどを伝えておくのが親切な対応と言えるでしょう。

飲食事業者向けベジタリアン・ヴィーガン認証取得支援補助金の活用

ベジタリアンの多いオーストラリア人にとって、前もってベジタリアンやヴィーガン向けの料理を提供する飲食店かどうかが分かればかなり安心できます。そのため、第三者機関から認証を取得するケースも増えています。

こうした認証には審査料などがかかりますが、その際の費用の一部を補助する「飲食事業者向けベジタリアン・ヴィーガン認証取得支援補助金」の制度もあります。東京都などが行う施策として用意されており、取得にかかった経費の2分の1までが補助される仕組みです。

実際に補助を受けるには「EAT東京」への掲載が条件となります。「EAT東京」は訪日オーストラリア人などが外国語メニューを用意する飲食店を探す際に便利なサイトとなっており、利用する価値は大いにあります。

訪日外国人観光客の増加を見据えた今後の展望

オーストラリア人をはじめ、日本を訪れる訪日外国人観光客は増加の一途をたどっています。その数は2024年で3687万人(過去最高)にも昇りました(観光庁「訪日外国人旅行者数」)。

同時に、ベジタリアンやムスリムの人口も世界的に増えており、これらの人々も今後多く訪れることは十分に予想できます。

しかし、2023年の調査では、ベジタリアンやヴィーガンなどへの対応を行っていると答えた飲食店は1割ほどしかなく、大多数は「今後も実施の予定がない」と答えています(やまとごころ.jp「飲食店インバウンド対策の現状、ベジタリアン・ヴィーガン対応1割未満。今後への取り組み意欲も低め」)。

一方、ベジタリアン対応メニューがあれば来店すると答えるヴィーガンが一定数存在するなど、需要があることは明らかです。訪日外国人の客を獲得したいと考える飲食店・宿泊施設ではいち早くベジタリアンやヴィーガンなどの対応策を練ることが求められます。

まとめ

訪日オーストラリア人も年々増え、ベジタリアンやヴィーガン、ハラールの需要は確実に大きくなっています。

現状ではベジタリアンやヴィーガンなどに対応したメニューを用意する店舗が多いとは言えないため、観光客のストレスになっていることも考えられます。

いち早く対応できるようにし、配慮を重ねていくことが、オーストラリア人をはじめ、さまざまな食文化を持つ外国人からの支持を得ることになるでしょう。

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